南国特有のスコールが初恋を連れてきてくれました

波木真帆

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彼への想いが止められない

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中に入ると、温泉の蒸気がうっすらと私の視界を遮る。
ああ、これならなんとか理性を保てるかも知れないとホッとした。

思っていた以上に広い温泉と洗い場に驚きながら、さっと身体を流して温泉へと足を向けた。
彼はもうすでに温泉に浸かっていたが、立ち昇る蒸気とほんのり色のついた湯でそこまではっきりと身体は見えなかった。

「失礼します」

声をかけ、湯に足を入れると心地よい温度に

「ああ、気持ちいいな」

と声が出る。

「ふふっ。そうでしょう。ここのお湯は最高なんですよ」

「本当に、ここに入らずにいたら勿体無いところでしたね」

そういえば、温泉に入ったのはいつぶりだろう?
大学時代に宗一郎さんと皐月さんに連れられて北陸の温泉地に行ったことがあったが、あの時以来か。
2人からは一緒に入ろうと誘われたが、宗一郎さんはともかく皐月さんと一緒に入るのがなんとなく躊躇われて1人で家族風呂に入ったんだったな。
ふふっ。それも懐かしい。

まぁ、そもそもゲイだと自認してからはなるべく温泉や銭湯には行かないようにしていたからこうやって誰かと風呂に入ること自体、ほとんど初めてと言っていいのかも知れないな。

彼は私はノーマルだと思っているだろうから、ああやって何も気にすることもなく一緒に入ろうなどと誘ってきたのだろうが、湯の中にあの綺麗な身体が隠れているのかと思うと本当に目のやり場に困る。

「安慶名さん……」

「どうしました?」

「今日はありがとうございました。この部屋に泊まることをお許しいただいたことも、それから彼女のことも……」

「そんな……砂川さんが気になさることではないですよ」

「さっき、倉橋から言われたんです。私が石垣で何か問題を抱えてることは知ってたと」

「そうだったんですか?」

やはりとしか言いようがないが、それなら倉橋さんはなぜもっと早く対処をしなかったのだろう。

「はい。彼女からの付き纏いが始まったのは3ヶ月ほど前からなんですが、私は月に二度ほどしか石垣に行くことはないので会う機会もほとんどないですし、大したこともされてませんでしたから我慢してたんです。ですから、そのことは倉橋にも何も話してはなかったんですが、安慶名さんもご存知の通り交友関係の広い方ですからどこからか聞いて知っていたようです。彼女の行為が少しずつエスカレートしていたのも危惧していたようで……私から車の故障の話を聞いて危ないと思ったみたいでそれで安慶名さんを頼ったと……」

そうか。
倉橋さんなりに砂川さんを見守っていたのだな。
今日私が沖縄へと向かうことは倉橋さんに伝えていたし、故障の件がなくとも砂川さんを守らせるためにこの部屋に相部屋にさせようと思っていたのではないだろうか。

そう考えれば納得がいく。

「そうですか。それなら、あなたをお守りできてよかったです。
倉橋さんもご心配でしょうし、これからは何かお困りのことがあれば我慢などされずにすぐに報告された方がよろしいですよ」

「ですが……女性に付き纏われて困ってるだなんて、男として恥ずかしいことではないですか?」

「そんなことありませんよ。私は弁護士として、女性にそういった行為を繰り返されて困っていらっしゃる男性の依頼を何人も引き受けたことがあります。今は男性だからとか女性だからとか関係なく被害に遭う時代なのですから。特に砂川さんのような美しい方なら、男女問わず付き纏い行為があってもおかしくなりませんよ」

「美しいだなんて……そんな。安慶名さんがそんなご冗談をおっしゃるなんて……」

恥ずかしそうに目を逸らす彼に目を向けると、彼の色白の肌が湯の熱さでピンクに染まっていて思わずゴクリと喉が鳴ってしまった。

「私は冗談なんて言える器用な人間ではありませんよ。あなたのような美しい方に私は初めて出会いました」

こんなことを言われても彼は困るだけだろう。
それでももう彼への想いを止めることなどできなかった。

「安慶名さん……?」

「砂川さん。今日、しかもたった数時間前にあなたに出会ったばかりだと言うのに、こんなことを言うなんて信じてもらえないかも知れませんが……私はあなたが好きなんです」

「えっ……?」

「あなたを誰にも渡したくないほどあなたのことが好きで好きでたまらない。
だから……あなたに一緒に温泉にと誘われて即答できなかった。あなたの裸を間近で見るなんて我慢できそうになくて……今だって必死に我慢してるんです。これ以上、一緒にいたら私はあなたに何をしてしまうかもわからない。自分で自分が抑えられないんです。こんなこと初めてでどうしたらいいのか……」

驚いたまま何も言葉も出せない様子の彼に、

「すみません、驚かせてしまって……。私、お先に失礼します。砂川さんはどうぞごゆっくり」

そう断って、急いで温泉から出て行こうとすると、バシャンッ! と水音が聞こえたと思ったら、突然

「ちょっと待ってくださいっ!」

と彼が私の背後から抱きついてきた。

私の背中に彼の身体がピッタリと重なっているのが感覚としてはっきりわかる。

「あの、砂川さん……」

彼の突然の行動に私はどうしていいのかわからず声をかけたけれど、彼は無言のまま私にくっついたままだ。

砂川さん……

もう一度名前を呼ぼうとした時、

「私、こうやって誰かにくっついたの……初めてなんです。今まで誰にも触れたいだなんて思わなかった。でも……安慶名さんだけは初めて会った時から紳士的ですごく優しくて穏やかで、こんなに一緒にいてホッとできる人、初めてなんです。だから……その、私は恋愛に関してはよくわからないですが、私にとって安慶名さんは特別で……一緒にお風呂だなんて自分から誘ったのも初めてですよ」

と教えてくれた。

それは私のことを好きだということだろうか?
まさか、そんなうれしいことがあっていいのか?

「砂川さん……私、勘違いしてしまいますよ」

「勘違いじゃないです。それとも安慶名さん……私が誰にでも誘う人だと?」

「いえ、そんなっ! それは絶対に違います!」

「わっ――!」

私は慌てて彼に向き直ると、背中にくっついていた彼が私の正面に抱きついてくる。
背中で感じていたよりもより近くに感じてドキドキが止まらない。

「安慶名さん……」

見上げてくる彼があまりにも可愛くて、私はとうとう我慢できずに唇を重ね合わせてしまった。
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