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隠し事はいらない
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「ええ、それでもし宜しければ今日うちに泊まって明日の朝食を作っていただけませんか?
実は自分で作るのも少し飽きてきたというか、お店の食事ではない手料理を久しぶりに食べさせて欲しくて……」
ああ、確かに倉橋さんの言いたいことはよくわかる。
自分の作る料理の味付けに少し飽きて他の人の手料理が食べたくなるというのはよくあることだ。
それも外食ではなくて家庭料理が食べたくなるんだ。
実際に、倉橋さんが作ってくれている料理は自分でも作れるものだが、他の人が作ってくれているというだけで食欲が増す。
「そういうことなら、私は別に構いませんが……本当に離れに泊めていただいて宜しいのですか?」
「ええ、それはもちろん。元々、安慶名さんがこちらに来られたときは宿泊場所に離れを案内するつもりでいましたから」
ああ、そうだったのか。
西表での宿泊場所は近くに泊まるところがあるので予約も必要ないですよとは言われていたから、てっきり近くの民宿でも紹介されるのかと思っていたがまさか倉橋さんの家の離れだとは想像していなかった。
しかし、そうにっこりと微笑みながら言われたらもうこれ以上断るのも憚られる。
それに悠真と一緒に泊まれるというのならそれは嬉しい限りだ。
もちろん離れとはいえ、倉橋さんのご自宅で悠真とどうこうしようとは思っていない。
ただ一緒にいられるだけでいいんだ。
「でしたら、お言葉に甘えてお邪魔いたします」
「そうですか、私も嬉しいです。冷蔵庫や食品庫の食材はなんでも好きなように使っていただいて結構ですから。
ああ、楽しみだな。安慶名さんの料理」
倉橋さんはそう言いながら、作りかけの料理の仕上げに入った。
「じゃあ、砂川。先に離れの部屋を見てきてくれないか。足りないものがあったらこっちから持っていって準備しておいてくれ」
「畏まりました。あの、じゃあ安慶名さん。少し失礼します」
「はい。お手数をおかけして申し訳ありません」
悠真はほんのり頬を染めながらペコリと頭をさげパタパタと離れへと向かっていった。
しばらくすると悠真が中庭から外に出て奥に見える大きな家へと入っていくのが見える。
「えっ? もしかして、離れってあの大きな家ですか?」
「はい。そうです。あそこは浅香や蓮見が西表にきたときに宿泊してもらう部屋で、のんびりくつろげるように広い家を用意したんですよ」
まさか、ここまでとは……。
倉橋さんの総資産は一体どれほどなんだろうか?
浅香さんからはイリゼホテルを開業するにあたって倉橋さんからかなりの投資をしてもらったと聞いているし、それに涼平さんも焼肉チェーンを起業するのにかなり世話になったと話していたし、そして自分の会社まで……。
倉橋さんの底知れぬ才能に驚かされるばかりだ。
悠真が離れの準備をしてくれている間に、私は倉橋さんが作った料理を運んだり酒の支度をしていると、最後の料理を持ってきた倉橋さんが
「あの、安慶名さん。ちょっといいですか?」
とソファーに腰を下ろしながら声をかけてきた。
さっきまでとは違う雰囲気に一瞬ドキッとしながら冷静を装って
「はい、なんでしょう?」
と返した。
「ふふっ。そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ。安慶名さんのそんな表情を見られるとは思わなかったな」
「えっ、私はそんな……」
「大丈夫です、私はもう全部わかっていますから。安慶名さんと砂川はお付き合いすることになったのでしょう?」
「――っ!」
確信しているその口ぶりにもう隠しておく必要はないと思った。
急に倉橋さんと西表で会うことになりしかもそれが会社の中だったこともあって、とりあえずは恋人だということを内緒にしていただけで、そもそも倉橋さんにはきちんと話すつもりだったのだから。
「すみません、あなたの大事な社員に手を出すようなことになってしまって……」
「ふふっ。謝ることはないでしょう? それとも安慶名さんは砂川を無理やり襲ったとでも?」
「いいえ、決してそのようなことは!! 私たちはお互いに気持ちを確かめ合って――」
「わかっていますよ。冗談です。安慶名さんが好意のない相手に無理やり襲い掛かるとは思っていませんし、それに砂川は遊びで関係を持つようなことは絶対にしないとわかっていますから。第一、砂川があんなふうに優しい目で他人を見るのを初めて見ました。それだけで砂川にとってあなたが大切な存在だとすぐにわかりましたよ」
「倉橋さん……」
「砂川のお母さんとお祖母さんは、砂川が人に対して愛情を持てずにいると心配されていたのですが、きっと安慶名さんと出会うのを待っていたんでしょう。砂川のことをよろしくお願いしますね」
「はい。私が全身全霊を持って彼を必ず幸せにします」
「ふふっ。なんとなく娘を嫁に出す父親の気持ちがわかったような気がしますよ」
そう言って笑顔を見せてくれた倉橋さんだったが、きっと悠真のことをずっと見守ってくれていたんだろうな。
悠真は本当に良い上司に恵まれたようだ。
「不躾ながら……安慶名さん」
「なんでしょう?」
さっきまでの笑顔から突然の真剣な表情にまた緊張が走った。
「昨夜は最後まではできなかったでしょう?」
「――っ! なんで、それを……?」
「ふふっ。優しい安慶名さんのことです。初めての砂川に無理はさせないと思っただけです。
ですから、今日はうちに泊まっていただこうと思ったんです」
「えっ? そ、それって……」
「はい。離れの風呂場にも寝室にも必要なものは全て用意していますから、ご自由にお使いください。
私が開発に協力した天然成分100%完全無添加のローションですから安心してお使いいただけますよ。
もちろん全て新品ですからご安心ください」
パチンとウィンクして見せる倉橋さんの笑顔に、私は絶対この人には勝てないなと思った。
というか、そういうものの開発まで携わっているのか。
彼は一体どこまで手を広げてるんだろうな?
本当に倉橋さんの手腕には驚かされるばかりだ。
「あ、ありがとうございます」
驚きながらもなんとかお礼を言えたところで、カタンと扉が開く音が聞こえた。
どうやら悠真が中庭の入り口から入ってきたようだ。
「遅くなりました。離れの準備が整いました」
私は急いで悠真の元に駆け寄り、抱きしめながら
「悠真、ありがとうございます」
というと、悠真は一瞬にして顔を赤らめた。
「あ、あの……安慶名さん、社長が……」
「いいんです。すみません、私が最初からちゃんと倉橋さんに伝えなかったせいで悠真に嫌な思いをさせてしまいましたね」
「えっ……それって……」
「倉橋さんにご報告したんです。私と悠真のことを」
「ええっ! あの、それじゃあ社長は私たちのことをご存じで……?」
「はい。あの、悠真……話してはいけませんでしたか?」
「いいえ、そんなことはっ! あの、ただ……恥ずかしいだけです……」
さらに赤くなった顔を隠そうと私の胸にポスッと顔を埋める悠真が可愛くて私はそのまま悠真をギュッと抱きしめた。
「ん゛っ、んっ」
「――っ!」
大きな咳払いの音に悠真の身体がビクッと震えた。
「あーっ、このまま2人っきりにしてやりたいのはやまやまだが、せっかく料理と酒も準備したことだし少しは話をしないか?」
倉橋さんの申し訳なさそうな声に思わず2人して笑みがこぼれる。
「悠真、行きましょうか」
「はい」
もう隠すことはない。
私は悠真とピッタリと寄り添いながら、倉橋さんの待つリビングへと向かった。
実は自分で作るのも少し飽きてきたというか、お店の食事ではない手料理を久しぶりに食べさせて欲しくて……」
ああ、確かに倉橋さんの言いたいことはよくわかる。
自分の作る料理の味付けに少し飽きて他の人の手料理が食べたくなるというのはよくあることだ。
それも外食ではなくて家庭料理が食べたくなるんだ。
実際に、倉橋さんが作ってくれている料理は自分でも作れるものだが、他の人が作ってくれているというだけで食欲が増す。
「そういうことなら、私は別に構いませんが……本当に離れに泊めていただいて宜しいのですか?」
「ええ、それはもちろん。元々、安慶名さんがこちらに来られたときは宿泊場所に離れを案内するつもりでいましたから」
ああ、そうだったのか。
西表での宿泊場所は近くに泊まるところがあるので予約も必要ないですよとは言われていたから、てっきり近くの民宿でも紹介されるのかと思っていたがまさか倉橋さんの家の離れだとは想像していなかった。
しかし、そうにっこりと微笑みながら言われたらもうこれ以上断るのも憚られる。
それに悠真と一緒に泊まれるというのならそれは嬉しい限りだ。
もちろん離れとはいえ、倉橋さんのご自宅で悠真とどうこうしようとは思っていない。
ただ一緒にいられるだけでいいんだ。
「でしたら、お言葉に甘えてお邪魔いたします」
「そうですか、私も嬉しいです。冷蔵庫や食品庫の食材はなんでも好きなように使っていただいて結構ですから。
ああ、楽しみだな。安慶名さんの料理」
倉橋さんはそう言いながら、作りかけの料理の仕上げに入った。
「じゃあ、砂川。先に離れの部屋を見てきてくれないか。足りないものがあったらこっちから持っていって準備しておいてくれ」
「畏まりました。あの、じゃあ安慶名さん。少し失礼します」
「はい。お手数をおかけして申し訳ありません」
悠真はほんのり頬を染めながらペコリと頭をさげパタパタと離れへと向かっていった。
しばらくすると悠真が中庭から外に出て奥に見える大きな家へと入っていくのが見える。
「えっ? もしかして、離れってあの大きな家ですか?」
「はい。そうです。あそこは浅香や蓮見が西表にきたときに宿泊してもらう部屋で、のんびりくつろげるように広い家を用意したんですよ」
まさか、ここまでとは……。
倉橋さんの総資産は一体どれほどなんだろうか?
浅香さんからはイリゼホテルを開業するにあたって倉橋さんからかなりの投資をしてもらったと聞いているし、それに涼平さんも焼肉チェーンを起業するのにかなり世話になったと話していたし、そして自分の会社まで……。
倉橋さんの底知れぬ才能に驚かされるばかりだ。
悠真が離れの準備をしてくれている間に、私は倉橋さんが作った料理を運んだり酒の支度をしていると、最後の料理を持ってきた倉橋さんが
「あの、安慶名さん。ちょっといいですか?」
とソファーに腰を下ろしながら声をかけてきた。
さっきまでとは違う雰囲気に一瞬ドキッとしながら冷静を装って
「はい、なんでしょう?」
と返した。
「ふふっ。そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ。安慶名さんのそんな表情を見られるとは思わなかったな」
「えっ、私はそんな……」
「大丈夫です、私はもう全部わかっていますから。安慶名さんと砂川はお付き合いすることになったのでしょう?」
「――っ!」
確信しているその口ぶりにもう隠しておく必要はないと思った。
急に倉橋さんと西表で会うことになりしかもそれが会社の中だったこともあって、とりあえずは恋人だということを内緒にしていただけで、そもそも倉橋さんにはきちんと話すつもりだったのだから。
「すみません、あなたの大事な社員に手を出すようなことになってしまって……」
「ふふっ。謝ることはないでしょう? それとも安慶名さんは砂川を無理やり襲ったとでも?」
「いいえ、決してそのようなことは!! 私たちはお互いに気持ちを確かめ合って――」
「わかっていますよ。冗談です。安慶名さんが好意のない相手に無理やり襲い掛かるとは思っていませんし、それに砂川は遊びで関係を持つようなことは絶対にしないとわかっていますから。第一、砂川があんなふうに優しい目で他人を見るのを初めて見ました。それだけで砂川にとってあなたが大切な存在だとすぐにわかりましたよ」
「倉橋さん……」
「砂川のお母さんとお祖母さんは、砂川が人に対して愛情を持てずにいると心配されていたのですが、きっと安慶名さんと出会うのを待っていたんでしょう。砂川のことをよろしくお願いしますね」
「はい。私が全身全霊を持って彼を必ず幸せにします」
「ふふっ。なんとなく娘を嫁に出す父親の気持ちがわかったような気がしますよ」
そう言って笑顔を見せてくれた倉橋さんだったが、きっと悠真のことをずっと見守ってくれていたんだろうな。
悠真は本当に良い上司に恵まれたようだ。
「不躾ながら……安慶名さん」
「なんでしょう?」
さっきまでの笑顔から突然の真剣な表情にまた緊張が走った。
「昨夜は最後まではできなかったでしょう?」
「――っ! なんで、それを……?」
「ふふっ。優しい安慶名さんのことです。初めての砂川に無理はさせないと思っただけです。
ですから、今日はうちに泊まっていただこうと思ったんです」
「えっ? そ、それって……」
「はい。離れの風呂場にも寝室にも必要なものは全て用意していますから、ご自由にお使いください。
私が開発に協力した天然成分100%完全無添加のローションですから安心してお使いいただけますよ。
もちろん全て新品ですからご安心ください」
パチンとウィンクして見せる倉橋さんの笑顔に、私は絶対この人には勝てないなと思った。
というか、そういうものの開発まで携わっているのか。
彼は一体どこまで手を広げてるんだろうな?
本当に倉橋さんの手腕には驚かされるばかりだ。
「あ、ありがとうございます」
驚きながらもなんとかお礼を言えたところで、カタンと扉が開く音が聞こえた。
どうやら悠真が中庭の入り口から入ってきたようだ。
「遅くなりました。離れの準備が整いました」
私は急いで悠真の元に駆け寄り、抱きしめながら
「悠真、ありがとうございます」
というと、悠真は一瞬にして顔を赤らめた。
「あ、あの……安慶名さん、社長が……」
「いいんです。すみません、私が最初からちゃんと倉橋さんに伝えなかったせいで悠真に嫌な思いをさせてしまいましたね」
「えっ……それって……」
「倉橋さんにご報告したんです。私と悠真のことを」
「ええっ! あの、それじゃあ社長は私たちのことをご存じで……?」
「はい。あの、悠真……話してはいけませんでしたか?」
「いいえ、そんなことはっ! あの、ただ……恥ずかしいだけです……」
さらに赤くなった顔を隠そうと私の胸にポスッと顔を埋める悠真が可愛くて私はそのまま悠真をギュッと抱きしめた。
「ん゛っ、んっ」
「――っ!」
大きな咳払いの音に悠真の身体がビクッと震えた。
「あーっ、このまま2人っきりにしてやりたいのはやまやまだが、せっかく料理と酒も準備したことだし少しは話をしないか?」
倉橋さんの申し訳なさそうな声に思わず2人して笑みがこぼれる。
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「はい」
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私は悠真とピッタリと寄り添いながら、倉橋さんの待つリビングへと向かった。
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