51 / 79
番外編
もう一つの出会い 6
しおりを挟む
「んっ……」
どうやらあのまま眠ってしまっていたらしい。
倉橋さんとの出会いから、夜まで思いがけないことの連続で疲れてしまっていたのかもしれない。
腕につけていた時計を見ると、まだ朝の四時。
この時期の西表島の日の出は大体六時前後だから、外は真っ暗だ。
その分、今頃外は月と星の光が綺麗に見えるだろうな。
もう一眠りしようかとも思ったけれど、ぐっすり寝たせいか、眠気はどこかへ行ってしまったみたい。
せっかくだからお風呂に入らせてもらおうか。
私は持ってきたリュックの中から着替えを取り出し、お風呂場に向かった。
「えっ……? これって、もしかして五右衛門風呂?」
宮古島にある実家は、お風呂好きな祖父と父のために改装をして今でこそ広いお風呂になっているけれど、私が小学生の時にはここと同じく五右衛門風呂だった。だから入り方がわからないわけではない。
でも十年ぶりか。懐かしい。
母や父、幼い真琴と一緒に入った時のことを思い出しながら、近づくと
「あれ……違う……」
見た目は五右衛門風呂そのものなのに、中身は最新式のお風呂だとわかる。
もしかしたら、これも倉橋さんがしている仕事の一つなのだろうか? そう考えると面白い。
早く浴槽に入りたいけれど、髪と身体を洗ってからだ。
お風呂場に用意されていたシャンプーを使おうか悩んだものの、倉橋さんの家のものならという安心感があり髪を洗わせてもらうと、その滑らかな質感に驚く。
「うわっ、これすごい!」
那覇のアパートで使っているシャンプーはいろんなドラッグストアを巡って、ようやく見つけたオーガニックのもの。他のと比べると割高だけど、一人暮らしを始めてすぐに節約のために買った安いものを使って頭皮が赤く腫れてしまった。祖母も母も真琴もよく似た体質をしていて、市販のものはなかなか受け付けない。
実家では祖母の作った手作り石鹸で髪も身体も洗っていたけど、送ってもらうのも申し訳なくて割高なそれを使うしかなかった。
それでも調子の悪い時には赤くなることもあり、なかなか自分の体質にぴったりなものとは巡り会えずにいた。
それだけに、このシャンプーには驚かされた。
このシャンプー……どこで売っているんだろう? 教えてもらって母さんたちにも勧めよう。
同様にボディーソープも使い心地がいい。こんなにいいものに巡り会えただけでもここにきた甲斐があったと思えるくらいに、このシャンプーとボディーソープには感動してしまった。
朝から最高の気分で広々とした湯船に浸かり、贅沢を味わってお風呂を出た。
着替えを済ませ、時計を見るともう五時になろうとしていた
確か六時出発と言っていたから、もうあっちに顔を出してもいいかもしれない。
私は必要なものを斜めがけの小さなバッグに入れて、離れを出た。
リビングに明かりが見えてホッとする。やっぱり倉橋さんももう起きているみたいだ。
「おはようございます」
声をかけると、彼はパソコンを前にしてコーヒーを飲んでいた。
邪魔だったかもしれないと思ったけれど、
「ああ、おはよう。よく眠れた?」
と朝の五時とは思えない爽やかな笑顔を向けられる。
「はい。実はあのまますぐに寝てしまっていたみたいで四時に目が覚めました」
「そうか。疲れていたんだな」
「でも、朝からお風呂を頂いたのでスッキリしました。ありがとうございます」
「いや、それならよかった」
「あの、お風呂なんですが見た目が五右衛門風呂なのは何か意図するものがあるんですか?」
「ははっ、気づいた? 若いのに五右衛門風呂だなんてよく知っていたな」
「実家の改装をする前が五右衛門風呂だったので……」
「ああ、なるほど。そういうことか。あれも私が開発したんだ。海外向けにね。見た目だけでもああいうのは人気なんだ」
やっぱり目の付け所がいいんだろうな、この人は。人が望むもの、売れるものをよくわかっている。
「そういえば、あのシャンプーやボディーソープはどうだった?」
「はい! あれはもう最高です!」
「ははっ。じゃあ、君も肌が弱くて困っていたんだろう?」
「そうなんです!! あれ、どこで買えるんですか? 祖母や母にも教えてあげたいです」
「そうか、それなら私が送っておこう。あとで実家の住所を教えてくれ」
「えっ? どういう意味ですか?」
「あれも私が開発したもので、一般販売はしていないんだ」
「そうなんですか?」
「イリゼホテルの全ての客室に常備しているものだが、あとは私が認めた国内外の顧客向けにのみ販売しているくらいかな。だから砂川くんが気に入ったなら、これからは全て私が手配しよう」
「もしかして、ものすごく高価だったりしますか?」
いいものだということはよくわかっているけれど、そこまでの限定販売ならかなりの金額でないと採算は取れないだろう。あれだけ上質なものなら当然だ。
「いや、砂川くんが我が社で働いてくれるなら無料で準備しよう。君のところにも実家にもね」
「えっ? 無料って、そんなこと……」
「構わないよ。君が手に入るのならね」
「――っ!!!」
「ああ、勘違いしないでくれ。君に好意があるわけじゃない。純粋に社員としての君の力が欲しいだけだ。それだけの実力をきみは持っていると思っている」
倉橋さんの言葉に一瞬驚いたけれど、私の実力を認めてくれていることに関しては嬉しく思う自分がいた。
どうやらあのまま眠ってしまっていたらしい。
倉橋さんとの出会いから、夜まで思いがけないことの連続で疲れてしまっていたのかもしれない。
腕につけていた時計を見ると、まだ朝の四時。
この時期の西表島の日の出は大体六時前後だから、外は真っ暗だ。
その分、今頃外は月と星の光が綺麗に見えるだろうな。
もう一眠りしようかとも思ったけれど、ぐっすり寝たせいか、眠気はどこかへ行ってしまったみたい。
せっかくだからお風呂に入らせてもらおうか。
私は持ってきたリュックの中から着替えを取り出し、お風呂場に向かった。
「えっ……? これって、もしかして五右衛門風呂?」
宮古島にある実家は、お風呂好きな祖父と父のために改装をして今でこそ広いお風呂になっているけれど、私が小学生の時にはここと同じく五右衛門風呂だった。だから入り方がわからないわけではない。
でも十年ぶりか。懐かしい。
母や父、幼い真琴と一緒に入った時のことを思い出しながら、近づくと
「あれ……違う……」
見た目は五右衛門風呂そのものなのに、中身は最新式のお風呂だとわかる。
もしかしたら、これも倉橋さんがしている仕事の一つなのだろうか? そう考えると面白い。
早く浴槽に入りたいけれど、髪と身体を洗ってからだ。
お風呂場に用意されていたシャンプーを使おうか悩んだものの、倉橋さんの家のものならという安心感があり髪を洗わせてもらうと、その滑らかな質感に驚く。
「うわっ、これすごい!」
那覇のアパートで使っているシャンプーはいろんなドラッグストアを巡って、ようやく見つけたオーガニックのもの。他のと比べると割高だけど、一人暮らしを始めてすぐに節約のために買った安いものを使って頭皮が赤く腫れてしまった。祖母も母も真琴もよく似た体質をしていて、市販のものはなかなか受け付けない。
実家では祖母の作った手作り石鹸で髪も身体も洗っていたけど、送ってもらうのも申し訳なくて割高なそれを使うしかなかった。
それでも調子の悪い時には赤くなることもあり、なかなか自分の体質にぴったりなものとは巡り会えずにいた。
それだけに、このシャンプーには驚かされた。
このシャンプー……どこで売っているんだろう? 教えてもらって母さんたちにも勧めよう。
同様にボディーソープも使い心地がいい。こんなにいいものに巡り会えただけでもここにきた甲斐があったと思えるくらいに、このシャンプーとボディーソープには感動してしまった。
朝から最高の気分で広々とした湯船に浸かり、贅沢を味わってお風呂を出た。
着替えを済ませ、時計を見るともう五時になろうとしていた
確か六時出発と言っていたから、もうあっちに顔を出してもいいかもしれない。
私は必要なものを斜めがけの小さなバッグに入れて、離れを出た。
リビングに明かりが見えてホッとする。やっぱり倉橋さんももう起きているみたいだ。
「おはようございます」
声をかけると、彼はパソコンを前にしてコーヒーを飲んでいた。
邪魔だったかもしれないと思ったけれど、
「ああ、おはよう。よく眠れた?」
と朝の五時とは思えない爽やかな笑顔を向けられる。
「はい。実はあのまますぐに寝てしまっていたみたいで四時に目が覚めました」
「そうか。疲れていたんだな」
「でも、朝からお風呂を頂いたのでスッキリしました。ありがとうございます」
「いや、それならよかった」
「あの、お風呂なんですが見た目が五右衛門風呂なのは何か意図するものがあるんですか?」
「ははっ、気づいた? 若いのに五右衛門風呂だなんてよく知っていたな」
「実家の改装をする前が五右衛門風呂だったので……」
「ああ、なるほど。そういうことか。あれも私が開発したんだ。海外向けにね。見た目だけでもああいうのは人気なんだ」
やっぱり目の付け所がいいんだろうな、この人は。人が望むもの、売れるものをよくわかっている。
「そういえば、あのシャンプーやボディーソープはどうだった?」
「はい! あれはもう最高です!」
「ははっ。じゃあ、君も肌が弱くて困っていたんだろう?」
「そうなんです!! あれ、どこで買えるんですか? 祖母や母にも教えてあげたいです」
「そうか、それなら私が送っておこう。あとで実家の住所を教えてくれ」
「えっ? どういう意味ですか?」
「あれも私が開発したもので、一般販売はしていないんだ」
「そうなんですか?」
「イリゼホテルの全ての客室に常備しているものだが、あとは私が認めた国内外の顧客向けにのみ販売しているくらいかな。だから砂川くんが気に入ったなら、これからは全て私が手配しよう」
「もしかして、ものすごく高価だったりしますか?」
いいものだということはよくわかっているけれど、そこまでの限定販売ならかなりの金額でないと採算は取れないだろう。あれだけ上質なものなら当然だ。
「いや、砂川くんが我が社で働いてくれるなら無料で準備しよう。君のところにも実家にもね」
「えっ? 無料って、そんなこと……」
「構わないよ。君が手に入るのならね」
「――っ!!!」
「ああ、勘違いしないでくれ。君に好意があるわけじゃない。純粋に社員としての君の力が欲しいだけだ。それだけの実力をきみは持っていると思っている」
倉橋さんの言葉に一瞬驚いたけれど、私の実力を認めてくれていることに関しては嬉しく思う自分がいた。
621
あなたにおすすめの小説
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる