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番外編
香りの悪戯 <伊織&悠真Ver.> 1
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先日周平と敬介のお話で書きましたもしもシリーズの番外編<香りの悪戯>
これが伊織だったら……という感想をいただいたので、書いてみました。
もしもシリーズなので、悠真が沖縄の大学ではなく、桜城大学を受験していたら……というお話にしています。
今回は序章で話の都合上、祐悟視点でお届けします。
伊織は次回から登場します。楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
<side祐悟>
「どうしてもこの便に乗りたいんだ! なんとかならないか?」
「お客さまがお持ちのチケットは変更不可のチケットとなっておりますので、こちらの席をキャンセルして、新しくチケットをお買い求めいただくことになりますが、ご希望の便はファーストクラス以外は満席となっております。いかがされますか?」
「ファーストクラス? いくら?」
「税込六万円でございます」
「六万? そんなの無理に決まってるだろ!」
「それではお持ちのチケットの便に乗っていただく他ございません」
「それじゃあ困るんだよ! なんとかしろ!」
高校、大学からの友人と共に卒業後の仕事のために幾つかの離島を巡り、沖縄本島を観光して空港にやってきた俺たちは、カウンターで大騒ぎをしている男性の様子を冷ややかな目で見つめていた。
那覇ー羽田間はかなり人気の区間でキャンセルが出ることはほぼないと言っていい。今の時点で満席ならどう足掻いても無駄だろう。
急ぎの用事なのだろうが、カウンターのスタッフにはどうする術もないのだから、なんとかしろと文句を言われても困るに違いない。
あの男性は諦めるしかないだろう。そう思っていたのだが、みんなが遠巻きにしているなか、一人の青年がカウンターに近づいた。
「あの、私の席とこの人の席を交換できますか?」
「えっ?」
「私は到着が遅くなっても今日中に東京に着けさえすればいいので大丈夫です。ですから、私の席とこの人の席を交換してあげてください」
そんな会話が聞こえてきて、俺たちは驚きを隠せなかった。どうみても未成年の彼が、大人たちがたくさん集まる中、率先して声を上げるとは……。
「倉橋。彼の優しい気持ちに手を貸したい」
「ああ。そうだな。蓮見、俺が声をかけるから彼のチケットを頼む」
「OK」
俺たち三人が役割をきめ、近づいた頃には彼とあの男性との席の交換が終わり、あの男性はお礼も言わずに保安検査場へ走っていったところだった。
「お客さま。ありがとうございます」
「いえ、本当に私は今日中に到着できれば構わないので気にしないでください」
そう言って立ち去ろうとする彼の行く手を浅香が阻み、俺が声をかけた。
「みたところ、学生のようだがこの時期に出かけるところを見ると国公立の二次試験じゃないか?」
「えっ、あっ、はい。そうです。当日では試験に間に合わないので今日のうちに到着できれば問題はありません」
「だが、一便遅くなればホテルへの到着も遅くなるだろう。勉強時間が減ってしまうぞ」
「前日に慌てて勉強しないといけないほど切羽詰まっているわけでもないので大丈夫です」
「ははっ。なるほど。それは素晴らしいな。そんな君に俺たちからのプレゼントだ」
「えっ?」
浅香が彼の行く手を阻み、俺が声をかけている間に蓮見が彼が交換した席から元の便のファーストクラスに変更をしたチケットを渡した。
「君のチケットだよ」
「そんなっ、ファーストクラスなんて……もったいないです」
「君と少し話がしたいんだ。俺たちの話し相手になってほしい。ねっ」
笑顔のまま黙って俺と彼のやり取りを聞いていた浅香が優しく声をかけると、彼はようやくチケットを受け取り、俺たちについてきてくれた。
ラウンジで話を聞いてみると、宮古島の高校生である砂川くんは俺たちの通う桜城大学を受験するらしい。
昨年父親が亡くなり、祖母と母親、そしてまだ小学生の弟を残して東京に出ることに迷い、一時は桜城大学への受験を諦めようとしたものの、亡き父親が必ず桜城大学を受験するようにと言い残したそうで、家族に背中を押され受験を決めたようだった。
砂川くんが試験のために予約したホテルは大学からかなり離れた、名前も聞いたことがないくらいの安宿で、彼が安全に泊まれるとは到底思えない場所だった。
「ここはキャンセルした方がいい。よかったら俺の実家に泊まらないか?」
「えっ? ご実家に? そんなご迷惑なことは……」
「迷惑なら最初から声をかけたりしないよ。君がちゃんと受験できるように先輩として力を貸したいだけなんだ。ここは俺たちに甘えてほしい」
浅香の言葉に砂川くんはようやく頷き、一緒に飛行機に乗り込んだ。
宮古島からの乗り換えだったらしいかれはよほど疲れていたんだろう。飛行機に乗るとすぐに眠りについた。そしてあっという間に羽田に到着し、砂川くんは俺たちと一緒に浅香の実家に向かった。
浅香の実家は礼儀正しい砂川くんをひと目で気に入り、翌日の試験は浅香の父親が大学まで車で送り、無事に試験を終えたようだ。あの分ならきっと合格しているだろう。
帰りは俺が砂川くんを宮古島まで送った。
もちろん砂川くんが美人で一人で帰らせるのは危ないからという理由もあったが、もうひとつ大事な理由があった。それは彼の実家が宮古島のマンゴー農家だということだ。
父親が亡くなり、今は祖母と母でやっているそうだが、少し調査したところによると、彼の実家のマンゴーの品質はかなり良く県内で収穫されているマンゴーの中でも一二を争うものらしい。それが父が亡くなったことにより、生産数が激減しているそうでそれはかなりの痛手だろう。
今回砂川くんと一緒に実家に行ったのは、俺にそのマンゴー栽培の手伝いをさせてもらうためだ。それは単純に労働ということではなく、しっかりした設備を整えセキュリティーも万全するつもりだ。将来的にかなりの採算が取れることを見越して投資をしたいと話をしようと思っている、砂川くんには前もって話をしたが、かなりの好感触だったから問題はない。
砂川くんの実家での話し合いは家族もすぐに賛成してくれて良かったが、それよりも祖母と母親が母と姉に間違えてしまうほど若く美人なことに驚いた。しかもそれ以上に小学生の弟が天使のように可愛くて、砂川くんが家族をおいて上京することを悩んだ意味がよくわかった。
想定していたよりもさらにセキュリティーを強化することにしたが、その判断は間違いではなかっただろう。
無事に砂川くんが桜城大学に入学が決まり、俺たち三人での話し合いの結果、大学に程近い俺の持っているマンションに住んでもらうことになった。
浅香は砂川くんをすっかり気に入って、毎週実家のお茶会に誘う始末。
砂川くんも浅香とは気が合うようで、毎週のお茶会を楽しみにしているというのだから似たもの同士なのかもしれない。
そうして、今日も浅香の家でお茶会が始まった。
これが伊織だったら……という感想をいただいたので、書いてみました。
もしもシリーズなので、悠真が沖縄の大学ではなく、桜城大学を受験していたら……というお話にしています。
今回は序章で話の都合上、祐悟視点でお届けします。
伊織は次回から登場します。楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
<side祐悟>
「どうしてもこの便に乗りたいんだ! なんとかならないか?」
「お客さまがお持ちのチケットは変更不可のチケットとなっておりますので、こちらの席をキャンセルして、新しくチケットをお買い求めいただくことになりますが、ご希望の便はファーストクラス以外は満席となっております。いかがされますか?」
「ファーストクラス? いくら?」
「税込六万円でございます」
「六万? そんなの無理に決まってるだろ!」
「それではお持ちのチケットの便に乗っていただく他ございません」
「それじゃあ困るんだよ! なんとかしろ!」
高校、大学からの友人と共に卒業後の仕事のために幾つかの離島を巡り、沖縄本島を観光して空港にやってきた俺たちは、カウンターで大騒ぎをしている男性の様子を冷ややかな目で見つめていた。
那覇ー羽田間はかなり人気の区間でキャンセルが出ることはほぼないと言っていい。今の時点で満席ならどう足掻いても無駄だろう。
急ぎの用事なのだろうが、カウンターのスタッフにはどうする術もないのだから、なんとかしろと文句を言われても困るに違いない。
あの男性は諦めるしかないだろう。そう思っていたのだが、みんなが遠巻きにしているなか、一人の青年がカウンターに近づいた。
「あの、私の席とこの人の席を交換できますか?」
「えっ?」
「私は到着が遅くなっても今日中に東京に着けさえすればいいので大丈夫です。ですから、私の席とこの人の席を交換してあげてください」
そんな会話が聞こえてきて、俺たちは驚きを隠せなかった。どうみても未成年の彼が、大人たちがたくさん集まる中、率先して声を上げるとは……。
「倉橋。彼の優しい気持ちに手を貸したい」
「ああ。そうだな。蓮見、俺が声をかけるから彼のチケットを頼む」
「OK」
俺たち三人が役割をきめ、近づいた頃には彼とあの男性との席の交換が終わり、あの男性はお礼も言わずに保安検査場へ走っていったところだった。
「お客さま。ありがとうございます」
「いえ、本当に私は今日中に到着できれば構わないので気にしないでください」
そう言って立ち去ろうとする彼の行く手を浅香が阻み、俺が声をかけた。
「みたところ、学生のようだがこの時期に出かけるところを見ると国公立の二次試験じゃないか?」
「えっ、あっ、はい。そうです。当日では試験に間に合わないので今日のうちに到着できれば問題はありません」
「だが、一便遅くなればホテルへの到着も遅くなるだろう。勉強時間が減ってしまうぞ」
「前日に慌てて勉強しないといけないほど切羽詰まっているわけでもないので大丈夫です」
「ははっ。なるほど。それは素晴らしいな。そんな君に俺たちからのプレゼントだ」
「えっ?」
浅香が彼の行く手を阻み、俺が声をかけている間に蓮見が彼が交換した席から元の便のファーストクラスに変更をしたチケットを渡した。
「君のチケットだよ」
「そんなっ、ファーストクラスなんて……もったいないです」
「君と少し話がしたいんだ。俺たちの話し相手になってほしい。ねっ」
笑顔のまま黙って俺と彼のやり取りを聞いていた浅香が優しく声をかけると、彼はようやくチケットを受け取り、俺たちについてきてくれた。
ラウンジで話を聞いてみると、宮古島の高校生である砂川くんは俺たちの通う桜城大学を受験するらしい。
昨年父親が亡くなり、祖母と母親、そしてまだ小学生の弟を残して東京に出ることに迷い、一時は桜城大学への受験を諦めようとしたものの、亡き父親が必ず桜城大学を受験するようにと言い残したそうで、家族に背中を押され受験を決めたようだった。
砂川くんが試験のために予約したホテルは大学からかなり離れた、名前も聞いたことがないくらいの安宿で、彼が安全に泊まれるとは到底思えない場所だった。
「ここはキャンセルした方がいい。よかったら俺の実家に泊まらないか?」
「えっ? ご実家に? そんなご迷惑なことは……」
「迷惑なら最初から声をかけたりしないよ。君がちゃんと受験できるように先輩として力を貸したいだけなんだ。ここは俺たちに甘えてほしい」
浅香の言葉に砂川くんはようやく頷き、一緒に飛行機に乗り込んだ。
宮古島からの乗り換えだったらしいかれはよほど疲れていたんだろう。飛行機に乗るとすぐに眠りについた。そしてあっという間に羽田に到着し、砂川くんは俺たちと一緒に浅香の実家に向かった。
浅香の実家は礼儀正しい砂川くんをひと目で気に入り、翌日の試験は浅香の父親が大学まで車で送り、無事に試験を終えたようだ。あの分ならきっと合格しているだろう。
帰りは俺が砂川くんを宮古島まで送った。
もちろん砂川くんが美人で一人で帰らせるのは危ないからという理由もあったが、もうひとつ大事な理由があった。それは彼の実家が宮古島のマンゴー農家だということだ。
父親が亡くなり、今は祖母と母でやっているそうだが、少し調査したところによると、彼の実家のマンゴーの品質はかなり良く県内で収穫されているマンゴーの中でも一二を争うものらしい。それが父が亡くなったことにより、生産数が激減しているそうでそれはかなりの痛手だろう。
今回砂川くんと一緒に実家に行ったのは、俺にそのマンゴー栽培の手伝いをさせてもらうためだ。それは単純に労働ということではなく、しっかりした設備を整えセキュリティーも万全するつもりだ。将来的にかなりの採算が取れることを見越して投資をしたいと話をしようと思っている、砂川くんには前もって話をしたが、かなりの好感触だったから問題はない。
砂川くんの実家での話し合いは家族もすぐに賛成してくれて良かったが、それよりも祖母と母親が母と姉に間違えてしまうほど若く美人なことに驚いた。しかもそれ以上に小学生の弟が天使のように可愛くて、砂川くんが家族をおいて上京することを悩んだ意味がよくわかった。
想定していたよりもさらにセキュリティーを強化することにしたが、その判断は間違いではなかっただろう。
無事に砂川くんが桜城大学に入学が決まり、俺たち三人での話し合いの結果、大学に程近い俺の持っているマンションに住んでもらうことになった。
浅香は砂川くんをすっかり気に入って、毎週実家のお茶会に誘う始末。
砂川くんも浅香とは気が合うようで、毎週のお茶会を楽しみにしているというのだから似たもの同士なのかもしれない。
そうして、今日も浅香の家でお茶会が始まった。
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