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番外編
香りの悪戯 <伊織&悠真Ver.> 13
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<side伊織>
悠真の身体が変化してしまった理由は食べ物にあった。
それがわかっただけでも一歩前進だ。
喜ばしいことのはずなのに、なぜか周平さんの表情は浮かない。
しかも厄介だと言っている。
それは解決方法が厄介ということか?
それでも悠真を戻すのに必要ならやるしかないだろう。
どんなことでも必ずやってみせる!
そう心に誓いながら私は悠真の元に戻った。
一人で待っていた悠真のすぐ隣に腰を下ろし、手を握って安心させる。
周平さんは私たちの様子をチラリと見て、浅香さんと共に少し離れた場所に座った。
「悠真くんの身体が変化してしまった理由だが、悠真くんが口にした薔薇ジャムに間違いないと思われる」
「薔薇ジャム、ですか?」
「ああ、先ほどあのジャムを作った人と連絡をとって実際に話を聞いた。もしかしたら、あの薔薇ジャムを口にする前にヒビスクス……つまりハイビスカスの類を口にしなかったかと尋ねられたが、悠真くんは心当たりがあるか?」
「ハイビスカス……はい。出かける前に実家から送られてきたハイビスカスティーを飲んできました」
「そうか……やはりな。作った人の話によると、薔薇とハイビスカスを口にすると稀に反応を起こすことがあるようだ。彼女は魔法と言っていたが、おそらく成分的な何かが作用するのだろう。悠真くんが口にしたハイビスカスの成分や量などが薔薇ジャムと反応を起こしてしまったと思われる。女性の姿に変わってしまうのは天文学的な確率なのかもしれないが、図らずもそうなってしまったということだろう」
これまでにそのような症例があったかどうかもわからない今の状況では推測の域を出ないということか。
「それでその反応の効果を失わせる方法があるんですね」
それがさっき周平さんが話していた厄介なことか。
「ああ。ただ、それも推測だ。それで確実に戻るとは言えないが、何もしなければこのまま元に戻ることはないだろう」
「それで、その方法はいったいなんですか?」
周平さんの話をじっと聞いていた悠真が尋ねると、周平さんはじっと私たち二人を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。
「元に戻るには、その……愛する人の力が、必要なんだそうだ。だから……愛し合えば元に戻る可能性は高い」
「――っ!!!!」
「えっ? それってどういうことですか?」
何も知らないのだろう。
純粋な悠真は周平さんの言葉の意味がわからないようだが、私にはわかる。
愛し合う……つまり、悠真とセックスをする、ということだ。
私が、悠真と……身体を繋げる。
それはこの上なく嬉しいことだが、周平さんが厄介だと言ったのは、今の悠真が女性の姿だからだろう。
悠真のことを愛しているし、着替えを手伝った時には興奮してしまったが、実際の私はゲイ。
本来なら女性の身体に興奮などしない。
だが私にはわかる。悠真なら別だ、と。
女性の身体だろうが、男性の身体だろうが、愛しい悠真の姿というだけで興奮するのだから関係ない。
「悠真、何も心配しないでいいですよ。私が悠真を必ず元の姿に戻して見せます」
「伊織さん……はい、お願いします」
「周平さん、浅香さん。あとは私に任せてください」
浅香さんは不安そうに周平さんを見ていたが、周平さんは私の目をじっと見て、
「伊織。私はお前を信じているぞ」
とだけ告げた。
「はい。あとで必ず連絡します。それでは私たちは失礼します。悠真、いきましょうか」
「どこに行くんですか?」
「私の家です。悠真を元に戻すには二人っきりの空間でなければいけませんから」
「そう。なんですね。わかりました」
悠真はまだ全てを理解していない様子だったが、私を信頼してくれていることだけははっきりとわかった。
私は悠真の手を取り、全ての荷物を持って浅香さんの家を出た。
「悠真、車はありますか?」
「い、いえ。私はタクシーで……」
「それならよかった」
ここまで周平さんと別々の車で来ておいて正解だったな。
私は自分の車の助手席に悠真を座らせて、はやる気持ちを抑えながら自宅まで安全運転で向かった。
私が暮らすのは閑静な住宅街にある低層階のマンション。
周平さんから紹介してもらった部屋だ。
ゆくゆくは独立して事務所兼自宅を構えるまでの賃貸だが、ワンフロアに二部屋と戸数も少なく、生活エリアが離れているおかげで、隣や上下の生活音が全く気にならない素晴らしい物件で気に入っている。
そのマンションの地下駐車場に車を止め、そのまま部屋までエレベーターで上がると誰にも悠真の可愛い姿を見られることなく連れて行くことができる。
「さぁ、どうぞ」
「は、はい。お邪魔します」
少し緊張しながらも私の勧める通りに部屋に入ってくれる。
悠真のこの無防備なところが少し心配だが、きっと私だからこんなにも無防備でいてくれるのだと思っておこう。
「何か飲み物でもいれましょう」
「あ、あの……お気遣いなく。それよりも、さっきの周平さんのお話を聞かせてください。私……よくわからなくて……」
そうだ。
何も伝えずにここまで連れてきたんだ。
ちゃんと説明しないとずるいな。
私は覚悟を決めて、悠真と共にソファーに座った。
悠真の身体が変化してしまった理由は食べ物にあった。
それがわかっただけでも一歩前進だ。
喜ばしいことのはずなのに、なぜか周平さんの表情は浮かない。
しかも厄介だと言っている。
それは解決方法が厄介ということか?
それでも悠真を戻すのに必要ならやるしかないだろう。
どんなことでも必ずやってみせる!
そう心に誓いながら私は悠真の元に戻った。
一人で待っていた悠真のすぐ隣に腰を下ろし、手を握って安心させる。
周平さんは私たちの様子をチラリと見て、浅香さんと共に少し離れた場所に座った。
「悠真くんの身体が変化してしまった理由だが、悠真くんが口にした薔薇ジャムに間違いないと思われる」
「薔薇ジャム、ですか?」
「ああ、先ほどあのジャムを作った人と連絡をとって実際に話を聞いた。もしかしたら、あの薔薇ジャムを口にする前にヒビスクス……つまりハイビスカスの類を口にしなかったかと尋ねられたが、悠真くんは心当たりがあるか?」
「ハイビスカス……はい。出かける前に実家から送られてきたハイビスカスティーを飲んできました」
「そうか……やはりな。作った人の話によると、薔薇とハイビスカスを口にすると稀に反応を起こすことがあるようだ。彼女は魔法と言っていたが、おそらく成分的な何かが作用するのだろう。悠真くんが口にしたハイビスカスの成分や量などが薔薇ジャムと反応を起こしてしまったと思われる。女性の姿に変わってしまうのは天文学的な確率なのかもしれないが、図らずもそうなってしまったということだろう」
これまでにそのような症例があったかどうかもわからない今の状況では推測の域を出ないということか。
「それでその反応の効果を失わせる方法があるんですね」
それがさっき周平さんが話していた厄介なことか。
「ああ。ただ、それも推測だ。それで確実に戻るとは言えないが、何もしなければこのまま元に戻ることはないだろう」
「それで、その方法はいったいなんですか?」
周平さんの話をじっと聞いていた悠真が尋ねると、周平さんはじっと私たち二人を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。
「元に戻るには、その……愛する人の力が、必要なんだそうだ。だから……愛し合えば元に戻る可能性は高い」
「――っ!!!!」
「えっ? それってどういうことですか?」
何も知らないのだろう。
純粋な悠真は周平さんの言葉の意味がわからないようだが、私にはわかる。
愛し合う……つまり、悠真とセックスをする、ということだ。
私が、悠真と……身体を繋げる。
それはこの上なく嬉しいことだが、周平さんが厄介だと言ったのは、今の悠真が女性の姿だからだろう。
悠真のことを愛しているし、着替えを手伝った時には興奮してしまったが、実際の私はゲイ。
本来なら女性の身体に興奮などしない。
だが私にはわかる。悠真なら別だ、と。
女性の身体だろうが、男性の身体だろうが、愛しい悠真の姿というだけで興奮するのだから関係ない。
「悠真、何も心配しないでいいですよ。私が悠真を必ず元の姿に戻して見せます」
「伊織さん……はい、お願いします」
「周平さん、浅香さん。あとは私に任せてください」
浅香さんは不安そうに周平さんを見ていたが、周平さんは私の目をじっと見て、
「伊織。私はお前を信じているぞ」
とだけ告げた。
「はい。あとで必ず連絡します。それでは私たちは失礼します。悠真、いきましょうか」
「どこに行くんですか?」
「私の家です。悠真を元に戻すには二人っきりの空間でなければいけませんから」
「そう。なんですね。わかりました」
悠真はまだ全てを理解していない様子だったが、私を信頼してくれていることだけははっきりとわかった。
私は悠真の手を取り、全ての荷物を持って浅香さんの家を出た。
「悠真、車はありますか?」
「い、いえ。私はタクシーで……」
「それならよかった」
ここまで周平さんと別々の車で来ておいて正解だったな。
私は自分の車の助手席に悠真を座らせて、はやる気持ちを抑えながら自宅まで安全運転で向かった。
私が暮らすのは閑静な住宅街にある低層階のマンション。
周平さんから紹介してもらった部屋だ。
ゆくゆくは独立して事務所兼自宅を構えるまでの賃貸だが、ワンフロアに二部屋と戸数も少なく、生活エリアが離れているおかげで、隣や上下の生活音が全く気にならない素晴らしい物件で気に入っている。
そのマンションの地下駐車場に車を止め、そのまま部屋までエレベーターで上がると誰にも悠真の可愛い姿を見られることなく連れて行くことができる。
「さぁ、どうぞ」
「は、はい。お邪魔します」
少し緊張しながらも私の勧める通りに部屋に入ってくれる。
悠真のこの無防備なところが少し心配だが、きっと私だからこんなにも無防備でいてくれるのだと思っておこう。
「何か飲み物でもいれましょう」
「あ、あの……お気遣いなく。それよりも、さっきの周平さんのお話を聞かせてください。私……よくわからなくて……」
そうだ。
何も伝えずにここまで連れてきたんだ。
ちゃんと説明しないとずるいな。
私は覚悟を決めて、悠真と共にソファーに座った。
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