俺の天使に触れないで  〜隆之と晴の物語〜

波木真帆

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困った人たち  <side晴>

「理玖、初めてのお化け屋敷はどうだった?」

「えっ? あ、うん。やっぱり日本のは怖いな。なんか実際にいそうで怖いよ」

「ふふっ。確かにホラー映画も洋画だとお話として観られるけど、邦画だとすぐそこにいそうで怖いもんね」

上手く言えないけど、妙にリアルに感じちゃうんだよね。
多分、これからもお化け屋敷は隆之さんと一緒じゃなきゃ入れないな。

「香月、叫びすぎて喉乾いたんじゃないか? あそこでちょっと休憩しよう」

そう言って、理玖が指差したのは絵本の世界そのままのイメージで作られたお菓子の森。

「わぁー、可愛い」

そのエリアには、ウサギやリス、バンビのオブジェが置かれていて、よく見れば木にはフェー妖精もいるし、本当にメルヘンの世界だ。

「せっかくだから、雰囲気を楽しむためにも店内ではドイツ語で過ごそうか?」

「わぁ、それ楽しそう! 良いだろう、香月」

そんなオーナーの提案に一番先に乗ったのはやっぱり理玖。
本当に仲がいいんだから。

「うん。久しぶりだからおかしなところもあるかもだけどいいよ。隆之さんもいいですか?」

「ああ、大丈夫だよ」

前に隆之さんがドイツ語を話しているところ聞いたけど、聞き慣れないからか、日本語の時よりドキドキするんだよね。
ここで聴けるなんて嬉しいな。
しかもネイティブなオーナーと話しているところが聞けるし。
ふふっ。楽しみ。

カランとドアベルを鳴らしながら、中に入ると店内にいる人みんなからの視線を感じる。
ほぼほぼ女性のお客さんばかりだから、男四人で入ってくるのが珍しいのかもしれない。

ちょっと場違いかなと思ったけれど、店内は僕の好みだ。
可愛いし、スイーツも美味しそうなのが揃っている。

恥ずかしさもあるけど、まぁもう二度と会わない人たちばかりだから気にしなくてもいいかな。

ここはレジでオーダーして、セルフで運ぶタイプのカフェらしい。
まぁ、メニューを指さして言えばいいから、ドイツしか話せない設定でもいけるかな。

まずはオーナーと理玖が注文する。
メニューを指さしながら、時折英語も交えて話をしているみたいだ。
ふふっ、あれなら大丈夫そう。

無事に注文を終えた理玖たちと交代して、僕たちもレジに向かう。

「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりでしたらどうぞ」

見るからに日本人の僕たちには当然のように日本語で話しかけてくる。

ちらっと隆之さんを見ると、パチンとウィンクして笑顔を見せてくれた。
どうやら任せてくれとでも言っているみたいだ。

『晴、何にする?』

滑らかなドイツ語の発音にドキッとする。
ああ、やっぱりかっこいいな。

『うーん、このプリンパフェとティラミスで悩んじゃうな』

『ふふっ。じゃあ、どっちもとってシェアしようか』

『わぁ、隆之さん。大好きっ!!』

嬉しすぎて、人前なのについ大好きとか言っちゃったけど、目の前の店員さんは気づいてないみたい。
そっか。日本語じゃないとこういうメリットもあるんだ!

なんか堂々と自分の気持ちを伝えられるっていいかも。

飲み物は喉が渇いているから無糖のアイスカフェラテをお願いした。
隆之さんはブラックのアイスコーヒー。

うん。メニューを指さしながらだといけるね。
店員さんの日本語も理解できるからだと思うけど。

少し離れたカウンターで注文したものを受け取るんだけど、隆之さんは頼んだものを全て持ってくれた。

『片方持ちますよ』

『いいよ。それより、俺のここ掴んでいてくれ』

そう言われて腕に絡みつくと、隆之さんは嬉しそうに笑ってオーナーと理玖が座っている席に向かった。

『理玖は何頼んだの?』

『俺は、マロンパフェとチーズケーキだよ』

『わぁ、美味しそう!』

『香月の頼んだプリンパフェとティラミスも美味しそうじゃん』

理玖は隆之さんが置いたトレイを見ながらそう言ってくれた。

『じゃあ、いただこうか』

隆之さんとオーナーがコーヒーに口をつける中、僕と理玖はもちろんスイーツ。
やっぱりプリンパフェからかな。

スプーンで掬い取ると、少し硬めのプリンが嬉しい。

滑らかなタイプも好きだけど、やっぱり硬いのはいいよね。

ドイツのおばあちゃんもよく硬めのプリンを作ってくれたっけ。
この景色を見ながら食べると懐かしい記憶が甦ってくる。

『うーん、美味しいっ!!』

固めに泡立てた生クリームと少し苦めのカラメルがちょうどいい感じだ。

『隆之さんも美味しいから食べてみて。ほら、あーん』

スプーンを差し出すと、隆之さんが嬉しそうに口を開けてくれる。

『ああ、最高に美味しいな』

『ふふっ。でしょう?』

これもドイツ語だから、理玖たち以外には聞かれていないと思うと楽しい。

理玖たちもお互いに食べさせあって、楽しそうに過ごしていると突然僕たちの席に影がかかった。

何事だろうと思ってそっちに目を向けると、僕たちより少し年上だろうか。
少し派手めな女性たち四人組が僕たちを見ていた。

気になって尋ねようとしたのをテーブルの下で理玖に制された。
と同時にオーナーが

『何か用かな?』

とドイツ語で話しかけると、彼女たちは少し困った様子で顔を見合わせてから、一人の女性が英語で話しかけてきた。

『あの、私たち、あなたたちと、仲良く、したいんですけど、英語は、話せますか? これから、静かな、場所に、行きましょう』

辿々しい発音で、単語を並べただけで文法もおかしい、お世辞にも上手とは言えない英語だったけれど、言いたいことはわかった。

でも、僕は別に仲良くしたくないけどな……。
知らない人だし。
っていうか、静かな場所ってどこ?

『君が何を言いたいのかわからないが、悪いけど英語は話せないよ』

オーナーはネイティブすぎる発音でドイツ語で返していたけれど、多分理解はできていないだろう。
これでなんとか引いてくれないかなと思ったけれど、彼女たちは引くどころか違う相談を始めた。

「えー、今なんて言ったんだろう?」
「いいって。とりあえず隣に座って身体に触ってたらわかってくれるって」
「そうだよね、そうしたら私たちが何したいかわかるよね」
「そうそう、喋れなくてもエッチはできるし」
「ふふっ。直球すぎるってば」
「でも、こんなイケメン揃いでしかも同じ四人組とか最高じゃん」
「そうそう、卒業旅行でイケメンたちとえっちとかいい思い出になりそう!」
「ねぇ、誰が好み?」
「私……あのお髭の人がいい。近くで見るとさらにワイルドでかっこいいじゃん」
「じゃあ私はこの子にしよっかなー。可愛いし」

チラリと女性の一人と目があって、にこりと微笑まれる。
けれど、可愛いというよりはなんだか捕食されるウサギのような気分がして背中がゾクリと震えてしまう。
すぐに隆之さんがそれに気づいてくれたみたいで、さっと抱きしめてくれた。
それだけで安心する。

というか、さっき、えっちとか聞こえた気がするけど気のせいだよね?

『アル、なんとかしないと面倒なことになりそうだぞ。アルも狙われてるみたいだし』

『ああ、そうだな。本当に面倒だよ』

隆之さんとオーナーがそんな話をしていると、

「えー、なんの話ですか? 私たちにも教えてくださーい」

と近づいてくる。

いやいや、教えるも何もドイツ語わからないんだよね?
この人たちが何したいのか、全くわからない。
どこにでも困った人っているんだな。
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