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一花の入学式
<side征哉>
「私たちも明日は一緒に入学式に行くぞ」
「えっ? 本気ですか?」
「ああ、我が家の将来の嫁になるかもしれない子の大事な日に参加しないでどうする!」
もうすっかり我が家の一花への認識はそう言ったものになっているし、それは間違いない。
ただ厳密に言えば、かもしれないではなく確実になるのだが。
だから、父と母が一花の入学式を見に行きたいと言ってもおかしくはない。
「ですが、入学式には保護者とあらかじめ届出のあったものしか入場はさせてもらえないはずですが……」
良家の子女ばかりが集まる桜守は、厳しいセキュリティに守られている。
私が入学式に参加することは、一花の希望であり、もうすでに櫻葉会長が届出を出してくれているが、父と母の分までは出していないのではないか。
そう思ったが、父と母は余裕の微笑みを見せた。
「それなら問題ない。桜守の理事長とは旧知の仲だからな。理由を話して私たちの入場を認めてもらったよ」
「そうなんですか? 知らなかったな」
「まぁ、我が家には桜守は縁遠かったからな。お前を行かせようと思ったことはなかったし」
「それは……助かりましたよ。一花ならともかく、私がピンクのジャケットを羽織って通うなんて想像もできませんから」
「ははっ。まぁ、とにかく明日の入学式は楽しみだな」
「仕事の方は大丈夫なんですか?」
「入学式は数時間だから、問題ないよ」
それもそうか。
「わかりました。ですが明日はあくまでも櫻葉家と一花が主役ですからね。あまり目立たないようにしてくださいね」
「わかっているよ」
そう言いつつも、父と母が揃って目立たないわけがないがそれ以上は言えなかった。
入学式当日、支度を済ませて降りてきた父はダークグレーのシンプルなスーツを着用していたが、それが父の持っているオーダーメイドのスーツの中でも一番気に入っているものであることはすぐにわかった。
それほど、今日の入学式が楽しみで仕方がないのだろう。
一緒に下りてきた母も、入学式らしい藤色の訪問着を着ていた。
桜守では主役となる子どもたちがピンクを着るから、保護者はピンクを避けることが暗黙のルールとなっているようだ。
それを踏まえての母の今日の着物だが、あれも母のお気に入りでおそらく数百万はするだろう。
見る人が見ればすぐにわかる代物だから、目立ちそうな気はするが仕方がない。
私自身はダークネイビーのスリーピースのスーツに身を包み、一花と並んでもおかしくはないだろう。
この後、別行動をするかもしれないということで別々の車で桜守に向かった。
桜守の正門はさながらモーターショーのような賑わいになっていたが、入学式にはなんとか間に合いそうだ。
それぞれに振り分けられた駐車場に車を止め、入学式が行われる体育館に向かうとちょうどランドセルを背負った一花が小さな子と手を繋いで歩いているのが見えた。
「一花っ!」
「えっ? あっ! せいくん!! せいくんが来てくれたーっ!!」
その場でぴょんぴょんと飛び跳ねながら空いている片方の手を振ってくれる。
ああ、もう私の一花が可愛すぎる。
急いで駆けつけると、隣にいた子がさっと一花の背中に隠れた。
「一花、この子は?」
「僕のお友達。理央くんっていうんだよ」
「そうか、幼稚部からのお友達か?」
「ううん、さっきお友達になったの。ねっ、理央くん」
一花が笑顔で話しかけるけれど、その子は頷くだけで恥ずかしそうに一花の後ろに隠れたままだ。
「理央くん、怖がらなくて大丈夫だよ。この人は、せいくん。僕の大好きな人だよ」
「――っ!! 一花っ!!」
まさか一花がそんなふうに私を紹介してくれるなんて!
ああ、なんて私は幸せなのだろう。
あまりにも嬉しくて一花を抱きしめていると、
「理央っ!!」
少し離れた場所から長身の彼が駆け寄ってきた。
あれ?
彼はどこかで見覚えがある。どこだったか……。
「何か――あっ! 貴船先輩!」
「君は……ああ、観月くんか」
「先輩に名前を覚えていただいているなんて嬉しいです」
「この子は君の弟か?」
「そうですね、私の大事な家族です」
そう言って、その子を見る彼の目はとても優しかった。
「せいくん。僕たち、先に教室に行かなきゃ!」
「ああ、そうか。行っておいで。一花の挨拶、しっかり見ておくからな」
「はーい! 行こう、理央くん!」
「うん。りょうちゃん、行ってきまーす」
「ああ、行っておいで」
二人を見送りながら、私は彼に話しかけた。
「君にあんなに歳の離れた弟がいるとは知らなかったな」
「ええ、ちょっと訳ありなんです。少し前に縁があって、施設から引き取った子なんです」
「なるほど、そういうことか。一花とも仲良くなっているようだし、少し話をしようか」
「はい。私も貴船先輩とお話しできるのは嬉しいです」
父と母にも話をしておくかと周りを見ると、いつの間にか、櫻葉会長ご夫妻と、父と母、そして、もうひと組の夫婦と六人でかなり目立ちながら話をしている。
「あそこにいるのは、君のご両親か?」
「はい。そうです」
「なら、大丈夫そうだな。行こうか」
私は観月くんと共に体育館に向かった。
* * *
理央から凌也への呼び方を『りょうちゃん』に変更しました。
「私たちも明日は一緒に入学式に行くぞ」
「えっ? 本気ですか?」
「ああ、我が家の将来の嫁になるかもしれない子の大事な日に参加しないでどうする!」
もうすっかり我が家の一花への認識はそう言ったものになっているし、それは間違いない。
ただ厳密に言えば、かもしれないではなく確実になるのだが。
だから、父と母が一花の入学式を見に行きたいと言ってもおかしくはない。
「ですが、入学式には保護者とあらかじめ届出のあったものしか入場はさせてもらえないはずですが……」
良家の子女ばかりが集まる桜守は、厳しいセキュリティに守られている。
私が入学式に参加することは、一花の希望であり、もうすでに櫻葉会長が届出を出してくれているが、父と母の分までは出していないのではないか。
そう思ったが、父と母は余裕の微笑みを見せた。
「それなら問題ない。桜守の理事長とは旧知の仲だからな。理由を話して私たちの入場を認めてもらったよ」
「そうなんですか? 知らなかったな」
「まぁ、我が家には桜守は縁遠かったからな。お前を行かせようと思ったことはなかったし」
「それは……助かりましたよ。一花ならともかく、私がピンクのジャケットを羽織って通うなんて想像もできませんから」
「ははっ。まぁ、とにかく明日の入学式は楽しみだな」
「仕事の方は大丈夫なんですか?」
「入学式は数時間だから、問題ないよ」
それもそうか。
「わかりました。ですが明日はあくまでも櫻葉家と一花が主役ですからね。あまり目立たないようにしてくださいね」
「わかっているよ」
そう言いつつも、父と母が揃って目立たないわけがないがそれ以上は言えなかった。
入学式当日、支度を済ませて降りてきた父はダークグレーのシンプルなスーツを着用していたが、それが父の持っているオーダーメイドのスーツの中でも一番気に入っているものであることはすぐにわかった。
それほど、今日の入学式が楽しみで仕方がないのだろう。
一緒に下りてきた母も、入学式らしい藤色の訪問着を着ていた。
桜守では主役となる子どもたちがピンクを着るから、保護者はピンクを避けることが暗黙のルールとなっているようだ。
それを踏まえての母の今日の着物だが、あれも母のお気に入りでおそらく数百万はするだろう。
見る人が見ればすぐにわかる代物だから、目立ちそうな気はするが仕方がない。
私自身はダークネイビーのスリーピースのスーツに身を包み、一花と並んでもおかしくはないだろう。
この後、別行動をするかもしれないということで別々の車で桜守に向かった。
桜守の正門はさながらモーターショーのような賑わいになっていたが、入学式にはなんとか間に合いそうだ。
それぞれに振り分けられた駐車場に車を止め、入学式が行われる体育館に向かうとちょうどランドセルを背負った一花が小さな子と手を繋いで歩いているのが見えた。
「一花っ!」
「えっ? あっ! せいくん!! せいくんが来てくれたーっ!!」
その場でぴょんぴょんと飛び跳ねながら空いている片方の手を振ってくれる。
ああ、もう私の一花が可愛すぎる。
急いで駆けつけると、隣にいた子がさっと一花の背中に隠れた。
「一花、この子は?」
「僕のお友達。理央くんっていうんだよ」
「そうか、幼稚部からのお友達か?」
「ううん、さっきお友達になったの。ねっ、理央くん」
一花が笑顔で話しかけるけれど、その子は頷くだけで恥ずかしそうに一花の後ろに隠れたままだ。
「理央くん、怖がらなくて大丈夫だよ。この人は、せいくん。僕の大好きな人だよ」
「――っ!! 一花っ!!」
まさか一花がそんなふうに私を紹介してくれるなんて!
ああ、なんて私は幸せなのだろう。
あまりにも嬉しくて一花を抱きしめていると、
「理央っ!!」
少し離れた場所から長身の彼が駆け寄ってきた。
あれ?
彼はどこかで見覚えがある。どこだったか……。
「何か――あっ! 貴船先輩!」
「君は……ああ、観月くんか」
「先輩に名前を覚えていただいているなんて嬉しいです」
「この子は君の弟か?」
「そうですね、私の大事な家族です」
そう言って、その子を見る彼の目はとても優しかった。
「せいくん。僕たち、先に教室に行かなきゃ!」
「ああ、そうか。行っておいで。一花の挨拶、しっかり見ておくからな」
「はーい! 行こう、理央くん!」
「うん。りょうちゃん、行ってきまーす」
「ああ、行っておいで」
二人を見送りながら、私は彼に話しかけた。
「君にあんなに歳の離れた弟がいるとは知らなかったな」
「ええ、ちょっと訳ありなんです。少し前に縁があって、施設から引き取った子なんです」
「なるほど、そういうことか。一花とも仲良くなっているようだし、少し話をしようか」
「はい。私も貴船先輩とお話しできるのは嬉しいです」
父と母にも話をしておくかと周りを見ると、いつの間にか、櫻葉会長ご夫妻と、父と母、そして、もうひと組の夫婦と六人でかなり目立ちながら話をしている。
「あそこにいるのは、君のご両親か?」
「はい。そうです」
「なら、大丈夫そうだな。行こうか」
私は観月くんと共に体育館に向かった。
* * *
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