30 / 58
一花たちの優しさ
<side征哉>
「そろそろ空良くんの家だよ」
「せいくん、どのお家?」
「正面の西洋風の家だよ」
先ほどの観月家と同じくらいの豪邸だが、こちらは西洋風の佇まい。この家はエヴァンや弓弦くんには馴染みがあるだろう。
「わぁー、空良くんちもおっきぃー! かっこいいお家だね」
「フランスにはこういう建物多いよ」
「へぇー、そうなんだ! かっこいいね」
一花たちは普段学校でしか会うことがない。お互いの家に遊びに行くことも今はまだないから、友だちがどんな家に住んでいるのか見られるのが楽しいようで、窓の外を見ながら盛り上がっている。
車はガレージではなく、そのまま来客用の駐車スペースに停まった。一花たちの要望を聞いて窓を開けて待っていると、すぐに悠木くんが出てきた。だが、なぜか空良くんを抱きかかえたままだ。
一花たちもその様子に気がついたのか、
「空良くーん! おはようー!」
と車の中から笑顔で声をかけた。
けれど、空良くんはついさっきまで泣いていたかのような表情で、
「おはよう……」
と小さな声で挨拶を返していた。
「空良くん、どうしたの? お腹痛い?」
一花が心配そうに声をかけるとフルフルと頭を横に振るばかり。
悠木くんは、
「ほら、空良。車に乗せてもらおう」
と声をかけ、失礼しますと言いながら乗り込んできた。
悠木くんの両親は少し離れた場所から心配そうに見守っているようだ。
「空良くん、一花の隣に座って!」
「うん……」
いつもとは全然違う様子の空良くんに一花は笑顔で声をかけ、隣に座らせると、
「空良くん、どうしたの?」
と優しく問いかける。
それに空良くんも落ち着いてきたのかゆっくりと口を開いた。
「あのね、昨日ママと遠足のおやつにみんなに食べて欲しくてクッキー焼いたの」
「ええー! すごい!!」
「でもね、さっき遠足の準備してた時に僕……落としちゃって……割れちゃった……。せっかくママが綺麗にラッピングしてくれたのに……」
「空良くん……」
なるほど。そういうことだったか。
一花が楽しそうに準備をしていたのを見ているから、空良くんがどれだけ悲しかったかよくわかる。
ここはなんと言ってやるのがいいか……。下手に慰めても気持ちは晴れないだろうしな。
「ねぇ、空良くん。そのクッキー見せて!」
「えっ、でも……割れちゃたよ」
「いいから見せて。ねっ」
一花の声掛けに空良くんは悠木くんからリュックを受け取るとファスナーを開け、ゴソゴソと小さな手で探すと、中から透明な袋にラッピングされたクッキーが出てきた。確かに大きく割れているのが見える。
「これ、みんなに一つずつプレゼントしようと思ったんだ。でもこんな割れちゃったら……」
「これ、一花の? もらってもいい?」
袋に『いちかちゃん』と書かれたシールが貼っているのを見つけた一花が声をかけると、空良くんは不安げな顔をしつつも一花に手渡した。
一花はそれを嬉しそうに眺めてからラッピングのリボンを解き始めた。
「えっ、一花ちゃん。何を……」
驚く空良くんの隣で一花はそれに手を入れて欠片を一つ取ると、笑顔で口に入れた。
「あ……」
「んーっ! すっごく美味しい!」
「えっ?」
「空良くんとママの手作りクッキー、すっごく美味しいよ! みんなに美味しく食べて欲しいって気持ちがいっぱい詰まってるね」
「一花ちゃん……」
「わぁー、いいな。僕も食べたい!」
「僕も!」
一花に続くように弓弦くんと理央くんも空良くんからクッキーを受け取り、嬉しそうに口に運んだ。
「本当だ! 美味しいー!」
「僕も今度作ってみたい! 空良くん教えてね!」
「うん! 空良、みんなとクッキー作る!!」
みんなからの言葉に空良くんの表情が一気に明るくなった。
悠木くんはせっかくの遠足が悲しいものにならずにほっとしているようだ。
遠足に行く直前に大泣きしている愛しい子を慰めるのは大変だっただろうからな。
すっかり機嫌が良くなった空良くんを囲んで一花たちは話を始めた。
最後の家、真守くんの家まではもうすぐだ。
「ねぇ、そういえば空良くんのお家。屋根に煙突があったね」
「うん。だから僕のお家はそこからサンタさんが来てくれるんだ! 僕はまだ会ったことないけど、パパとママが言ってたよ」
「やっぱり煙突ってすごいね!」
「理央くんの家は煙突あるの?」
「ううん。ないけど、ちゃんとプレゼントもってきてくれるよ。サンタさん、すごいんだ!」
「うん、すごいよねー! 僕のお家も煙突ないけど、サンタさん来てくれるもん!」
一花たちの可愛い話に私たちは思わず顔を見合わせて微笑んだ。
サンタクロースか……。私はもう一花の年にはとっくに信じてなかったな。
だが一花がまだサンタクロースを信じているというのなら、今年のクリスマスは私は一花のために力を尽くそうか。愛しい一花の喜ぶ顔が見られるならどんなことでもやってみせる。
「あのね、実は僕……サンタさんに会ったことがあるんだ!」
「ええーっ! 本当?」
「うん。去年のクリスマスにお庭にソリに乗ったサンタさんが来て、直接僕にプレゼント渡してくれたんだよー!」
「ええーーっ!! いいなぁ!! すごーい!!」
弓弦くんの言葉に一花たちは目を輝かせている。
きっと弓弦くんのためにエヴァンや両親が頑張ったんだろうな。さすが世界のロレーヌ一族。
私も負けるわけにはいかないな。
* * *
ここのところかかりきりになっていた作業が昨夜ようやく終わりましたー!
しばらくは楽になると思うので、これから少しずつ以前のような頻度で更新できるように頑張ります♡
これからも楽しんでいただけると嬉しいです♡
「そろそろ空良くんの家だよ」
「せいくん、どのお家?」
「正面の西洋風の家だよ」
先ほどの観月家と同じくらいの豪邸だが、こちらは西洋風の佇まい。この家はエヴァンや弓弦くんには馴染みがあるだろう。
「わぁー、空良くんちもおっきぃー! かっこいいお家だね」
「フランスにはこういう建物多いよ」
「へぇー、そうなんだ! かっこいいね」
一花たちは普段学校でしか会うことがない。お互いの家に遊びに行くことも今はまだないから、友だちがどんな家に住んでいるのか見られるのが楽しいようで、窓の外を見ながら盛り上がっている。
車はガレージではなく、そのまま来客用の駐車スペースに停まった。一花たちの要望を聞いて窓を開けて待っていると、すぐに悠木くんが出てきた。だが、なぜか空良くんを抱きかかえたままだ。
一花たちもその様子に気がついたのか、
「空良くーん! おはようー!」
と車の中から笑顔で声をかけた。
けれど、空良くんはついさっきまで泣いていたかのような表情で、
「おはよう……」
と小さな声で挨拶を返していた。
「空良くん、どうしたの? お腹痛い?」
一花が心配そうに声をかけるとフルフルと頭を横に振るばかり。
悠木くんは、
「ほら、空良。車に乗せてもらおう」
と声をかけ、失礼しますと言いながら乗り込んできた。
悠木くんの両親は少し離れた場所から心配そうに見守っているようだ。
「空良くん、一花の隣に座って!」
「うん……」
いつもとは全然違う様子の空良くんに一花は笑顔で声をかけ、隣に座らせると、
「空良くん、どうしたの?」
と優しく問いかける。
それに空良くんも落ち着いてきたのかゆっくりと口を開いた。
「あのね、昨日ママと遠足のおやつにみんなに食べて欲しくてクッキー焼いたの」
「ええー! すごい!!」
「でもね、さっき遠足の準備してた時に僕……落としちゃって……割れちゃった……。せっかくママが綺麗にラッピングしてくれたのに……」
「空良くん……」
なるほど。そういうことだったか。
一花が楽しそうに準備をしていたのを見ているから、空良くんがどれだけ悲しかったかよくわかる。
ここはなんと言ってやるのがいいか……。下手に慰めても気持ちは晴れないだろうしな。
「ねぇ、空良くん。そのクッキー見せて!」
「えっ、でも……割れちゃたよ」
「いいから見せて。ねっ」
一花の声掛けに空良くんは悠木くんからリュックを受け取るとファスナーを開け、ゴソゴソと小さな手で探すと、中から透明な袋にラッピングされたクッキーが出てきた。確かに大きく割れているのが見える。
「これ、みんなに一つずつプレゼントしようと思ったんだ。でもこんな割れちゃったら……」
「これ、一花の? もらってもいい?」
袋に『いちかちゃん』と書かれたシールが貼っているのを見つけた一花が声をかけると、空良くんは不安げな顔をしつつも一花に手渡した。
一花はそれを嬉しそうに眺めてからラッピングのリボンを解き始めた。
「えっ、一花ちゃん。何を……」
驚く空良くんの隣で一花はそれに手を入れて欠片を一つ取ると、笑顔で口に入れた。
「あ……」
「んーっ! すっごく美味しい!」
「えっ?」
「空良くんとママの手作りクッキー、すっごく美味しいよ! みんなに美味しく食べて欲しいって気持ちがいっぱい詰まってるね」
「一花ちゃん……」
「わぁー、いいな。僕も食べたい!」
「僕も!」
一花に続くように弓弦くんと理央くんも空良くんからクッキーを受け取り、嬉しそうに口に運んだ。
「本当だ! 美味しいー!」
「僕も今度作ってみたい! 空良くん教えてね!」
「うん! 空良、みんなとクッキー作る!!」
みんなからの言葉に空良くんの表情が一気に明るくなった。
悠木くんはせっかくの遠足が悲しいものにならずにほっとしているようだ。
遠足に行く直前に大泣きしている愛しい子を慰めるのは大変だっただろうからな。
すっかり機嫌が良くなった空良くんを囲んで一花たちは話を始めた。
最後の家、真守くんの家まではもうすぐだ。
「ねぇ、そういえば空良くんのお家。屋根に煙突があったね」
「うん。だから僕のお家はそこからサンタさんが来てくれるんだ! 僕はまだ会ったことないけど、パパとママが言ってたよ」
「やっぱり煙突ってすごいね!」
「理央くんの家は煙突あるの?」
「ううん。ないけど、ちゃんとプレゼントもってきてくれるよ。サンタさん、すごいんだ!」
「うん、すごいよねー! 僕のお家も煙突ないけど、サンタさん来てくれるもん!」
一花たちの可愛い話に私たちは思わず顔を見合わせて微笑んだ。
サンタクロースか……。私はもう一花の年にはとっくに信じてなかったな。
だが一花がまだサンタクロースを信じているというのなら、今年のクリスマスは私は一花のために力を尽くそうか。愛しい一花の喜ぶ顔が見られるならどんなことでもやってみせる。
「あのね、実は僕……サンタさんに会ったことがあるんだ!」
「ええーっ! 本当?」
「うん。去年のクリスマスにお庭にソリに乗ったサンタさんが来て、直接僕にプレゼント渡してくれたんだよー!」
「ええーーっ!! いいなぁ!! すごーい!!」
弓弦くんの言葉に一花たちは目を輝かせている。
きっと弓弦くんのためにエヴァンや両親が頑張ったんだろうな。さすが世界のロレーヌ一族。
私も負けるわけにはいかないな。
* * *
ここのところかかりきりになっていた作業が昨夜ようやく終わりましたー!
しばらくは楽になると思うので、これから少しずつ以前のような頻度で更新できるように頑張ります♡
これからも楽しんでいただけると嬉しいです♡
あなたにおすすめの小説
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
空港清掃員58歳、転生先の王宮でも床を磨いたら双子に懐かれ、国王に溺愛される
木風
恋愛
羽田空港で十五年、黙々と床を磨いてきた清掃員・田中幸子(58)は事故死し、没落寸前の子爵令嬢エルシアとして転生する。
婚約破棄の末に家を追われた彼女が選んだのは、王宮の清掃員――前世の技で空気まで変わるほど磨き上げていく仕事だった。
やがて母を亡くした双子王子王女に懐かれ、荒れた執務室の主である喪中の国王とも距離が縮まり……。
「泣くなら俺の胸で」――床も心も磨き直す、清掃令嬢の溺愛成り上がり。
拾ってないのに、最上位が毎日“帰る”んですがーー飼い主じゃありません!ただの受付係です!
星乃和花
恋愛
王都ギルド受付係リナは、今日も平和に働く予定だった。
……のに。
「お腹すいた」
そう言って現れたのは、最上位の英雄レオン。
強いのに生活力ゼロ、距離感ゼロ、甘え方だけは一流。
手当てすれば「危ない」と囲い込み、
看病すれば抱きしめて離さず、
ついには――
「君が、俺の帰る場所」
拾ってない。飼ってない。
ただ世話を焼いただけなのに、英雄が毎日“帰ってくる”ようになりました。
無自覚世話焼き受付嬢 × 甘えた天然英雄の
距離感バグ甘々ラブコメ、開幕!
⭐︎火木土21:20更新ー本編8話+後日談9話⭐︎
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)