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番外編
理央のお出かけ 7
<side将臣>
「理央っ!!」
その言葉が学食中に響き渡った瞬間、みんなが一斉に入り口に視線を向けたまま、未だかつてないほどにしんと静まり返った。
誰もが驚いただろう。あの観月さんがこんなにも感情を露わにして食堂に駆け込んでくるなんて、絶対に見られない光景だったのだから。
誰も動くことも言葉を発することもできない中、
「凌也さんっ!!!」
理央くんだけが、嬉しそうな声をあげて観月さんに駆け寄って行った。
「ああっ! 理央っ、会いたかった!」
目線を理央くんの高さに合わせ、駆け寄ってきた理央くんをそのまま抱き上げる。その流れるような自然な動きは二人が恋人同士であることを周知させるには十分だった。
「僕も凌也さんに会いたかったです!」
「そうか、嬉しいよ」
「もうお仕事終わったんですか?」
「ああ、終わったから急いで会いにきたんだ」
「そうなんだ、嬉しい! 僕はね、今からご飯食べるんですよ」
「そうか、なら一緒に食べようかな」
「わぁー、凌也さんとご飯! あ、だったら凌也さんが好きだったご飯が食べたいです」
「じゃあ、そうしようか」
顔を近づけながら楽しげな会話をする二人の様子をみんな聞き耳を立てながら、それでも邪魔しないように静かに見守っている。どうやらここには二人を引き裂こうとする馬鹿な奴はいないみたいだ。あの薮田をさっさと准教授に引き取らせておいてよかったな。
あの時、秀吾から薮田を任されて、薮田と二人きりになった途端、奴は青ざめた顔で
「な、なんでお前がここに?」
と震える声で言っていたが、秀吾が出かけるところに俺がいないわけがないだろう。本当に学習能力のないやつだ。
「そんなことより、まだ秀吾に手を出そうとしてるんですか? いいかげん諦めてくれませんかね? あいつは俺のだってずっと言ってますよね? 理解できるまでたーっぷりと叩き込んでやりましょうか?」
「ひぃーーっ!!」
睨みつけると薮田はよほど恐ろしかったのか、その場で大きな水溜りを作ってしまった。
くそっ! 余計なことしかしないな。さっさと秀吾のところに行ってやりたいのに。
「周防くん!」
その声に振り返ると、青褪めた表情の薮田准教授とともに緑川教授が駆け寄ってきた。
「緑川教授、それに薮田准教授も」
「申し訳ない、周防くん! 息子がまた何かやらかしたのか?」
「秀吾に声をかけてたんですよ、もう何度目だと思ってますか? いい加減にしてもらわないと元春さんを呼ぶことになりますよ」
「そ、それだけは! 本当に申し訳ない! 許してくれ!」
青褪めた表情で身体を震わせながら俺に深々と頭を下げてくるが、口だけの謝罪よりいい加減行動に移してほしい。だが、今はどうしても伝えておかなければいけないことがある。
「今日は絶対に手を出してはいけない子がいるんで、さっさとこいつを部屋に連れ帰ってください」
「あ、ああ。わかった。毅彦! いくぞ!! お前は迷惑ばかりかけやがって!!」
准教授は下半身をびしょ濡れにした薮田を引き摺るように連れ帰った。
はぁー。もうため息しか出ない。
「ここの掃除は私がお願いしておくから、周防くんは秀吾くんのところに行ってあげて!」
「すみません、緑川教授。お願いします」
そう言って、秀吾の元に駆けつけたんだ。まさか理央くんが鳴宮教授と一緒だとは思いもしなかったけれど、一番いい人に保護されて本当に良かった。
「観月さん」
「ああ、周防くん」
観月さんは何か言いたげに目で訴えてくるが、理央くんがいるから直接口には出さない。だが、あとで詳しく教えろと言っているのがよくわかる。
俺は静かに頷くと観月さんはポンと俺の方に手を置いて、鳴宮教授と秀吾、そして緑川教授のいる席に向かった。
「緑川教授、それから鳴宮教授もお久しぶりです。相変わらず仲がよろしいのですね」
「仲がいいのは観月くんと理央くんでしょう? 観月くんのそんな嬉しそうな顔、初めて見たよ」
「そうですか?」
「気づいていないなら相当だね」
鳴宮教授くらいだろう。あの観月さんを揶揄えるのは。観月さんがたじたじなのも珍しい光景だ。
そんな様子に微笑ましく思っていると、
「君は、周防くんだったかな?」
と後ろから声をかけられた。
「あっ、磯山先生。どうしてこちらに?」
「観月くんの姫が一大事だと聞いて一緒に駆けつけたんだが……無事だったようだな。彼だろう? 観月くんの姫は」
磯山先生は観月さんの腕の中にいる理央くんを見ながら笑顔で尋ねてくる。
「はい。迷子になったのをご存知だったんですね」
「ああ、特別なGPSをつけているようだよ。秀吾くんとあの姫が少し離れただけでスマホに通知が来ていたからな」
「えーーっ!」
その言葉に驚愕する。まさかそんなすごいものまで理央くんにつけていたとは思いもしなかった。本当に心から溺愛しているんだな……。
薮田が理央くんに手を出そうとしなくて本当に良かった。出していたら、観月さんがどんな制裁を与えていたか……想像するのも恐ろしい。
「理央っ!!」
その言葉が学食中に響き渡った瞬間、みんなが一斉に入り口に視線を向けたまま、未だかつてないほどにしんと静まり返った。
誰もが驚いただろう。あの観月さんがこんなにも感情を露わにして食堂に駆け込んでくるなんて、絶対に見られない光景だったのだから。
誰も動くことも言葉を発することもできない中、
「凌也さんっ!!!」
理央くんだけが、嬉しそうな声をあげて観月さんに駆け寄って行った。
「ああっ! 理央っ、会いたかった!」
目線を理央くんの高さに合わせ、駆け寄ってきた理央くんをそのまま抱き上げる。その流れるような自然な動きは二人が恋人同士であることを周知させるには十分だった。
「僕も凌也さんに会いたかったです!」
「そうか、嬉しいよ」
「もうお仕事終わったんですか?」
「ああ、終わったから急いで会いにきたんだ」
「そうなんだ、嬉しい! 僕はね、今からご飯食べるんですよ」
「そうか、なら一緒に食べようかな」
「わぁー、凌也さんとご飯! あ、だったら凌也さんが好きだったご飯が食べたいです」
「じゃあ、そうしようか」
顔を近づけながら楽しげな会話をする二人の様子をみんな聞き耳を立てながら、それでも邪魔しないように静かに見守っている。どうやらここには二人を引き裂こうとする馬鹿な奴はいないみたいだ。あの薮田をさっさと准教授に引き取らせておいてよかったな。
あの時、秀吾から薮田を任されて、薮田と二人きりになった途端、奴は青ざめた顔で
「な、なんでお前がここに?」
と震える声で言っていたが、秀吾が出かけるところに俺がいないわけがないだろう。本当に学習能力のないやつだ。
「そんなことより、まだ秀吾に手を出そうとしてるんですか? いいかげん諦めてくれませんかね? あいつは俺のだってずっと言ってますよね? 理解できるまでたーっぷりと叩き込んでやりましょうか?」
「ひぃーーっ!!」
睨みつけると薮田はよほど恐ろしかったのか、その場で大きな水溜りを作ってしまった。
くそっ! 余計なことしかしないな。さっさと秀吾のところに行ってやりたいのに。
「周防くん!」
その声に振り返ると、青褪めた表情の薮田准教授とともに緑川教授が駆け寄ってきた。
「緑川教授、それに薮田准教授も」
「申し訳ない、周防くん! 息子がまた何かやらかしたのか?」
「秀吾に声をかけてたんですよ、もう何度目だと思ってますか? いい加減にしてもらわないと元春さんを呼ぶことになりますよ」
「そ、それだけは! 本当に申し訳ない! 許してくれ!」
青褪めた表情で身体を震わせながら俺に深々と頭を下げてくるが、口だけの謝罪よりいい加減行動に移してほしい。だが、今はどうしても伝えておかなければいけないことがある。
「今日は絶対に手を出してはいけない子がいるんで、さっさとこいつを部屋に連れ帰ってください」
「あ、ああ。わかった。毅彦! いくぞ!! お前は迷惑ばかりかけやがって!!」
准教授は下半身をびしょ濡れにした薮田を引き摺るように連れ帰った。
はぁー。もうため息しか出ない。
「ここの掃除は私がお願いしておくから、周防くんは秀吾くんのところに行ってあげて!」
「すみません、緑川教授。お願いします」
そう言って、秀吾の元に駆けつけたんだ。まさか理央くんが鳴宮教授と一緒だとは思いもしなかったけれど、一番いい人に保護されて本当に良かった。
「観月さん」
「ああ、周防くん」
観月さんは何か言いたげに目で訴えてくるが、理央くんがいるから直接口には出さない。だが、あとで詳しく教えろと言っているのがよくわかる。
俺は静かに頷くと観月さんはポンと俺の方に手を置いて、鳴宮教授と秀吾、そして緑川教授のいる席に向かった。
「緑川教授、それから鳴宮教授もお久しぶりです。相変わらず仲がよろしいのですね」
「仲がいいのは観月くんと理央くんでしょう? 観月くんのそんな嬉しそうな顔、初めて見たよ」
「そうですか?」
「気づいていないなら相当だね」
鳴宮教授くらいだろう。あの観月さんを揶揄えるのは。観月さんがたじたじなのも珍しい光景だ。
そんな様子に微笑ましく思っていると、
「君は、周防くんだったかな?」
と後ろから声をかけられた。
「あっ、磯山先生。どうしてこちらに?」
「観月くんの姫が一大事だと聞いて一緒に駆けつけたんだが……無事だったようだな。彼だろう? 観月くんの姫は」
磯山先生は観月さんの腕の中にいる理央くんを見ながら笑顔で尋ねてくる。
「はい。迷子になったのをご存知だったんですね」
「ああ、特別なGPSをつけているようだよ。秀吾くんとあの姫が少し離れただけでスマホに通知が来ていたからな」
「えーーっ!」
その言葉に驚愕する。まさかそんなすごいものまで理央くんにつけていたとは思いもしなかった。本当に心から溺愛しているんだな……。
薮田が理央くんに手を出そうとしなくて本当に良かった。出していたら、観月さんがどんな制裁を与えていたか……想像するのも恐ろしい。
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