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不必要な存在
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数日間せっせとヴェルナーに蜂蜜を入れた特別料理を食べさせて、もうガッチリとヴェルナーの胃袋も掴み、そろそろ最後の仕上げに取り掛かろうかと目論んでいた日のこと、午前の訓練を終えて、いつものようにヴェルナーの元に駆け寄ろうとした私の前に、ヴェルナーに近づいた騎士がいた。
騎士団詰め所入り口の警備を任されている騎士だ。
その騎士がヴェルナーにいったい何の用事があるのかと聞き耳を立てていると、ヴェルナーに客人が訪ねてきたらしい。
だが、ヴェルナーにはわざわざこんなところにまで訪ねてくるような友人も親戚もいないはずだ。
それは調査でわかっていたし、何より、ヴェルナーが騎士団に入ってから十数年、誰一人訪ねてきたことがない。
それなのに突然の客人なんて、明らかにヴェルナーには不必要な存在だとわかる。
だとすれば、奴らしかないな。
そう当たりをつけて聞いていると、やはりヴェルナーの母親だと名乗っているらしい。
やはり奴だったか。
ヴェルナーに会わせたくはないがどんな理由で今更訪ねてきたか気になる。
とはいえ奴らの近況については随時調査報告が届くため、おおよそのことはわかっている。
きっと金の無心にきたのだろう。
本当に余計なことしかしないな。
大きなため息をつきながら、客人用の応接室に向かうヴェルナーに声をかけ、私も同行することにした。
頭のおかしい奴との話に行くのだ。
ヴェルナーが不利にならないようにしっかりと見張っておかなくては。
開け放たれた扉の影に隠れて、ヴェルナーと後妻の対面を見守る。
調査報告に記載のあったように、大金を使ってセンスの悪いドレスに身を包んでいる女がヴェルナーに嘘くさい笑顔を見せ、近づいてくる。
自分が今までしてきたことも忘れて、近づいてくる後妻に反吐がでる。
しかし、ヴェルナーは毅然とした態度で後妻に対応をする。
ああ、こういうところもさすがだ。
私なら、即座に追い出してしまいたくなるというのに、決して感情を見せず淡々と声をかけるヴェルナーに感心しかない。
後妻は決して靡こうとしないヴェルナーに嫌気がさしたようで、罵り始めたがヴェルナーはそれにも反応しない。
それどころか、弟が伯爵家を継いだことをあげ、
「あなたが望んだように父が亡くなったあと、あの子が後を継いだのでしょう? それでいいじゃないですか」
と言い放つ。
ああ、なるほど。
あれはヴェルナーの耳にも入っていたというわけか。
伯爵家の跡取りとして育てられたヴェルナーの異母弟は、ヴェルナーが全てを捨てて屋敷から出た後、全てが自分のものになったような気になったのだろう。
ヴェルナーの父が亡くなり伯爵となった奴は伯爵家の財産を湯水のように使い、女に溺れた。
後妻はそんな息子を心配して、早々に婚約者をあてがった。
そうすれば、一人の女だけを大切にすると思ったのだろう。
けれど、予想に反して婚約者ができてからも奴は女に遊び呆けて、それが婚約者の耳に入った。
遊び相手の女は十人を優に超え、しかもそのほとんどは奴に婚約者がいたことを知らなかったことから、婚約者だけでなく、複数の女性たちからも慰謝料を請求され、伯爵家の財産は一気に底をついた。
このままでは屋敷を売り払わなければいけないところまでやってきている。
そんな最新の調査が私の元にも上がってきていた。
ヴェルナーが伯爵家を捨てていたのは知っていたから、この情報を与えるつもりはなかったが、さすが騎士団長だけあって、どこからか情報を得ていたようだ。
だが、ヴェルナーが知ってなお、動こうとしなかったのならもうそれはヴェルナーには助ける意思がないということだ。
こうして後妻がやってきてもそれが覆ることはないだろう。
だからさっさと出ていけばいい。
そう思っていたのに、後妻はあろうことかヴェルナーを脅し始めた。
そんな場面を見れば、私が出て行かないわけがない。
ヴェルナーに脅しの言葉をかけ近づいていったところで急いで部屋の中に入り、ヴェルナーへの視線から私に移動させた。
後妻は悪びれた様子もなく、
「私はただ家族として、ヴェルナーに助けて欲しいと頼みに来ただけよ。騎士団の団長ともあろうものが救いを求めにやってきた人を見殺しにしていいっていうの? それは人としてどうかしていると思わない?」
と言ってきたが、幼いヴェルナーを虐げ家から追い出した奴に人としての何たるかを問われたくはない。
さっさと帰れば放置してやろうと思ったが、これ以上ヴェルナーの迷惑になるようなら仕方がない。
ヴェルナーの代わりに私が手を貸そうと声をかけ、騎士帽をとって自分がべーレンドルフ侯爵家のものだと名乗った。
すると、後妻はみるみるうちに顔を青ざめさせ、
「あ、あの……も、もう結構ですから。ヴェ、ヴェルナーもごめんなさいね。もう二度と来ないから!」
と逃げ帰っていったが、もう遅い。
すぐに父上に連絡を入れ、奴らを捕まえて炭鉱で働いてもらうとしよう。
あそこなら、通常より早く金が稼げる上に住み込みで住む場所の心配もいらない。
その分、仕事は大変だろうがまぁやれるだろう。
息子が結婚詐欺のようなことをした時に、婚約者の父親が私の父親に話を相談し、さっさと炭鉱に送って慰謝料を用意させようとしていたところ、息子を炭鉱送りにしたくない後妻はなんとか金を工面し逃れていたが、それで生活が苦しくなったからといって、ヴェルナーを脅してくるようならもう逃すわけにはいかないからな。
父上にすぐに早馬を出して、二人を捕まえて炭鉱に連れていってもらうことにしよう。
もうヴェルナーの頭の中が私以外のことでいっぱいになるのは避けたいからな。
ヴェルナーは我が家の炭鉱の話を知らないようだ。
わずか13歳で騎士団入りしたヴェルナーにはピンとこない内容だったに違いない。
「団長。部屋に戻って休みましょうか。休憩時間が終わってしまいますよ」
優しい声をかけ、ヴェルナーの部屋に向かう。
心が傷ついている時は一緒に過ごした方がいいからな。
まぁ、そうでなくても一緒に過ごすのだが。
ヴェルナーは私の作ったお弁当を見て、ようやくいつもの笑顔を見せてくれた。
騎士団詰め所入り口の警備を任されている騎士だ。
その騎士がヴェルナーにいったい何の用事があるのかと聞き耳を立てていると、ヴェルナーに客人が訪ねてきたらしい。
だが、ヴェルナーにはわざわざこんなところにまで訪ねてくるような友人も親戚もいないはずだ。
それは調査でわかっていたし、何より、ヴェルナーが騎士団に入ってから十数年、誰一人訪ねてきたことがない。
それなのに突然の客人なんて、明らかにヴェルナーには不必要な存在だとわかる。
だとすれば、奴らしかないな。
そう当たりをつけて聞いていると、やはりヴェルナーの母親だと名乗っているらしい。
やはり奴だったか。
ヴェルナーに会わせたくはないがどんな理由で今更訪ねてきたか気になる。
とはいえ奴らの近況については随時調査報告が届くため、おおよそのことはわかっている。
きっと金の無心にきたのだろう。
本当に余計なことしかしないな。
大きなため息をつきながら、客人用の応接室に向かうヴェルナーに声をかけ、私も同行することにした。
頭のおかしい奴との話に行くのだ。
ヴェルナーが不利にならないようにしっかりと見張っておかなくては。
開け放たれた扉の影に隠れて、ヴェルナーと後妻の対面を見守る。
調査報告に記載のあったように、大金を使ってセンスの悪いドレスに身を包んでいる女がヴェルナーに嘘くさい笑顔を見せ、近づいてくる。
自分が今までしてきたことも忘れて、近づいてくる後妻に反吐がでる。
しかし、ヴェルナーは毅然とした態度で後妻に対応をする。
ああ、こういうところもさすがだ。
私なら、即座に追い出してしまいたくなるというのに、決して感情を見せず淡々と声をかけるヴェルナーに感心しかない。
後妻は決して靡こうとしないヴェルナーに嫌気がさしたようで、罵り始めたがヴェルナーはそれにも反応しない。
それどころか、弟が伯爵家を継いだことをあげ、
「あなたが望んだように父が亡くなったあと、あの子が後を継いだのでしょう? それでいいじゃないですか」
と言い放つ。
ああ、なるほど。
あれはヴェルナーの耳にも入っていたというわけか。
伯爵家の跡取りとして育てられたヴェルナーの異母弟は、ヴェルナーが全てを捨てて屋敷から出た後、全てが自分のものになったような気になったのだろう。
ヴェルナーの父が亡くなり伯爵となった奴は伯爵家の財産を湯水のように使い、女に溺れた。
後妻はそんな息子を心配して、早々に婚約者をあてがった。
そうすれば、一人の女だけを大切にすると思ったのだろう。
けれど、予想に反して婚約者ができてからも奴は女に遊び呆けて、それが婚約者の耳に入った。
遊び相手の女は十人を優に超え、しかもそのほとんどは奴に婚約者がいたことを知らなかったことから、婚約者だけでなく、複数の女性たちからも慰謝料を請求され、伯爵家の財産は一気に底をついた。
このままでは屋敷を売り払わなければいけないところまでやってきている。
そんな最新の調査が私の元にも上がってきていた。
ヴェルナーが伯爵家を捨てていたのは知っていたから、この情報を与えるつもりはなかったが、さすが騎士団長だけあって、どこからか情報を得ていたようだ。
だが、ヴェルナーが知ってなお、動こうとしなかったのならもうそれはヴェルナーには助ける意思がないということだ。
こうして後妻がやってきてもそれが覆ることはないだろう。
だからさっさと出ていけばいい。
そう思っていたのに、後妻はあろうことかヴェルナーを脅し始めた。
そんな場面を見れば、私が出て行かないわけがない。
ヴェルナーに脅しの言葉をかけ近づいていったところで急いで部屋の中に入り、ヴェルナーへの視線から私に移動させた。
後妻は悪びれた様子もなく、
「私はただ家族として、ヴェルナーに助けて欲しいと頼みに来ただけよ。騎士団の団長ともあろうものが救いを求めにやってきた人を見殺しにしていいっていうの? それは人としてどうかしていると思わない?」
と言ってきたが、幼いヴェルナーを虐げ家から追い出した奴に人としての何たるかを問われたくはない。
さっさと帰れば放置してやろうと思ったが、これ以上ヴェルナーの迷惑になるようなら仕方がない。
ヴェルナーの代わりに私が手を貸そうと声をかけ、騎士帽をとって自分がべーレンドルフ侯爵家のものだと名乗った。
すると、後妻はみるみるうちに顔を青ざめさせ、
「あ、あの……も、もう結構ですから。ヴェ、ヴェルナーもごめんなさいね。もう二度と来ないから!」
と逃げ帰っていったが、もう遅い。
すぐに父上に連絡を入れ、奴らを捕まえて炭鉱で働いてもらうとしよう。
あそこなら、通常より早く金が稼げる上に住み込みで住む場所の心配もいらない。
その分、仕事は大変だろうがまぁやれるだろう。
息子が結婚詐欺のようなことをした時に、婚約者の父親が私の父親に話を相談し、さっさと炭鉱に送って慰謝料を用意させようとしていたところ、息子を炭鉱送りにしたくない後妻はなんとか金を工面し逃れていたが、それで生活が苦しくなったからといって、ヴェルナーを脅してくるようならもう逃すわけにはいかないからな。
父上にすぐに早馬を出して、二人を捕まえて炭鉱に連れていってもらうことにしよう。
もうヴェルナーの頭の中が私以外のことでいっぱいになるのは避けたいからな。
ヴェルナーは我が家の炭鉱の話を知らないようだ。
わずか13歳で騎士団入りしたヴェルナーにはピンとこない内容だったに違いない。
「団長。部屋に戻って休みましょうか。休憩時間が終わってしまいますよ」
優しい声をかけ、ヴェルナーの部屋に向かう。
心が傷ついている時は一緒に過ごした方がいいからな。
まぁ、そうでなくても一緒に過ごすのだが。
ヴェルナーは私の作ったお弁当を見て、ようやくいつもの笑顔を見せてくれた。
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