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未来への希望
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ヴァルはジーノの突然の行動に驚きの表情を見せたものの、
「いえ。全ては私の愛しい恋人を助けたい一心でやったこと。それがユーリさまのお手に渡っただけで私は何もしていません。ですから、私はお礼を言われることなど何もありません」
と感情なく言い放った。気持ちが一切こもっていないヴァルの目にジーノの身体はぞくりと震えた。
(ヴァルからこんな視線を向けられたことなんて一度もなかった。いつだってヴァルは僕に優しく熱のこもった視線を向けてくれていたのに……。やっぱりヴァルはユーリさまのこの美しさには靡いたりしないんだ。それだけ僕を深く愛してくれていたのだと思うと嬉しさもある。でも今の僕は……)
「ヴァルフレード! ユーリさまがお礼を仰ってくださっているというのになんてことを言うんだ!」
「私は本当のことを言ったまでです」
「陛下。ユーリさま。申し訳ございません。息子は婚約者を亡くしたばかりで自暴自棄になっているのです。お許しください」
ヴァルのお父さんが必死に頭を下げるけれど、ヴァルは何も言わずただまっすぐ前を見つめているだけ。
「ヴァルフレードさま。あなたが僕のためにしてくださったことでなくても、僕がヴァルフレードさまのおかげで元気になったことは事実です。ずっと床に臥せっていた僕がこうして皆さんの前に出られるようになったのも、お父さまと笑顔をかわせるようになったのも全てヴァルフレードさまが探し求めてくださったあの薬のおかげ。そのことについて、どうしてもお礼が言いたかったのです。ありがとうございます」
「ユーリさま……」
ジーノの心からの言葉に、能面のようなヴァルの表情に少し命が吹き込まれたように見えた。
「ヴァルフレード。辛い時期に呼び出してすまなかったな。だが、本当に私もユーリも其方には感謝しておるのだ。そのことだけはわかってほしい」
「はい。陛下。ユーリさまも失礼いたしました。ユーリさまがご回復されましたこと、心よりお喜び申し上げます」
ヴァルはゆっくりと頭を下げた。その隣でヴァルのお父さんも一緒になって頭を下げていた。
「ありがとう。アゴスティーノ家には後で褒美をとらす。何か希望があれば好きに言ってくれ」
「はっ。ありがたきお言葉に感謝いたします」
ヴァルとヴァルのお父さんは深々とお辞儀をしてお礼を言うと、そのまま部屋を出て行った。
お父さまと二人になった部屋はしんと静まりかえり、なんとも言えない重たい空気だけが包んでいた。
「ユーリ。ヴァルフレードに会って満足したか?」
「はい。直接お礼が言えてよかったです」
「そうか、それならよかった。だが、ヴァルフレードは相当婚約者の死を引きずっているようだな。ユーリも両親を亡くしているから気持ちはわかるだろう?」
「そう、ですね……」
「特にヴァルフレードは婚約者と結婚直前で死別したようだから、思いもひとしおなのだろう。愛しいものを失ってすぐ位元に戻れるほど器用な人間ではなさそうだからな」
(ヴァルはそんなにも僕を愛してくれていたのだと改めてわかる。そんなヴァルの思いをユーリさまに向けるなんてこと、本当にできるんだろうか?)
「だが、本当に惜しいな」
「惜しい? お父さま、どういうことですか?」
「いや、ヴァルフレードならユーリを夫として嫁にやっても構わないと思えるいい男だが、あれほどまでに婚約者のことを忘れられないのなら、難しいかと思ってな。ユーリの命を助けてくれた者だし、公爵家という家柄なら申し分ないが、ユーリのことを愛してくれる者でなければな。私はユーリに幸せになってもらいたいんだ」
「お父さま……」
国王さまがユーリさまにふさわしいと思えるほど、ヴァルは素晴らしい人。
それはジーノが一番よくわかっている。
でも、それならこれは使えるんじゃないか? そんな感情がジーノの心に湧き上がった。
「あの、お父さま……ヴァルフレードさまとの、その、縁談話を進めていただけませんか?」
「えっ? ユーリ! 何を言い出すんだ? 今、ヴァルフレードと直接会ってそれは難しいと思っただろう?」
「はい。でも……僕は、命の恩人であるヴァルフレードさまを今度は僕が救いたいって思ったんです。これから長い人生、亡くなった婚約者さんをずっと思い続けて生きていくのは辛すぎます。僕は、ヴァルフレードさまのおかげで命を繋ぎ止められました。その命をヴァルフレードさまのために使いたいんです」
「ユーリ……お前の気持ちはわかるが……うーん、どうだろうな。こちらから縁談を申し込めば、アゴスティーノ家が断ることはしないが、お前は本当にそれで構わないのか?」
このシェルレク王国で身分の高いものから齎された縁談は断ることができない。そのルールをジーノは覚えていたのだ。
「僕は、婚約者さんを一途に思い続けるヴァルフレードさまの優しさに惹かれました。今はヴァルフレードさまと一緒の時間を過ごしたいと思います。一緒に過ごしたら、ヴァルフレードさまも僕を夫にしてもいいと思ってくださるかもしれないでしょう?」
「ユーリ……お前は変わったな」
「えっ?」
(もしかして僕がユーリさまでないことに気づかれてしまったんだろうか? 緊張で身体が震える)
「床に臥せっていた時は、未来のことなど考えることもなかっただろう。それが未来への希望を願えるようになったのとは……。身体だけでなく心も回復したのだな。わかった。それでは、アゴスティーノ家に正式に縁談を持ちかけるとしよう」
「お父さま! ありがとうございます!」
これでもう一度ヴァルに会える。ジーノはあまりの嬉しさに飛び跳ねてしまいそうな気持ちだった。
「いえ。全ては私の愛しい恋人を助けたい一心でやったこと。それがユーリさまのお手に渡っただけで私は何もしていません。ですから、私はお礼を言われることなど何もありません」
と感情なく言い放った。気持ちが一切こもっていないヴァルの目にジーノの身体はぞくりと震えた。
(ヴァルからこんな視線を向けられたことなんて一度もなかった。いつだってヴァルは僕に優しく熱のこもった視線を向けてくれていたのに……。やっぱりヴァルはユーリさまのこの美しさには靡いたりしないんだ。それだけ僕を深く愛してくれていたのだと思うと嬉しさもある。でも今の僕は……)
「ヴァルフレード! ユーリさまがお礼を仰ってくださっているというのになんてことを言うんだ!」
「私は本当のことを言ったまでです」
「陛下。ユーリさま。申し訳ございません。息子は婚約者を亡くしたばかりで自暴自棄になっているのです。お許しください」
ヴァルのお父さんが必死に頭を下げるけれど、ヴァルは何も言わずただまっすぐ前を見つめているだけ。
「ヴァルフレードさま。あなたが僕のためにしてくださったことでなくても、僕がヴァルフレードさまのおかげで元気になったことは事実です。ずっと床に臥せっていた僕がこうして皆さんの前に出られるようになったのも、お父さまと笑顔をかわせるようになったのも全てヴァルフレードさまが探し求めてくださったあの薬のおかげ。そのことについて、どうしてもお礼が言いたかったのです。ありがとうございます」
「ユーリさま……」
ジーノの心からの言葉に、能面のようなヴァルの表情に少し命が吹き込まれたように見えた。
「ヴァルフレード。辛い時期に呼び出してすまなかったな。だが、本当に私もユーリも其方には感謝しておるのだ。そのことだけはわかってほしい」
「はい。陛下。ユーリさまも失礼いたしました。ユーリさまがご回復されましたこと、心よりお喜び申し上げます」
ヴァルはゆっくりと頭を下げた。その隣でヴァルのお父さんも一緒になって頭を下げていた。
「ありがとう。アゴスティーノ家には後で褒美をとらす。何か希望があれば好きに言ってくれ」
「はっ。ありがたきお言葉に感謝いたします」
ヴァルとヴァルのお父さんは深々とお辞儀をしてお礼を言うと、そのまま部屋を出て行った。
お父さまと二人になった部屋はしんと静まりかえり、なんとも言えない重たい空気だけが包んでいた。
「ユーリ。ヴァルフレードに会って満足したか?」
「はい。直接お礼が言えてよかったです」
「そうか、それならよかった。だが、ヴァルフレードは相当婚約者の死を引きずっているようだな。ユーリも両親を亡くしているから気持ちはわかるだろう?」
「そう、ですね……」
「特にヴァルフレードは婚約者と結婚直前で死別したようだから、思いもひとしおなのだろう。愛しいものを失ってすぐ位元に戻れるほど器用な人間ではなさそうだからな」
(ヴァルはそんなにも僕を愛してくれていたのだと改めてわかる。そんなヴァルの思いをユーリさまに向けるなんてこと、本当にできるんだろうか?)
「だが、本当に惜しいな」
「惜しい? お父さま、どういうことですか?」
「いや、ヴァルフレードならユーリを夫として嫁にやっても構わないと思えるいい男だが、あれほどまでに婚約者のことを忘れられないのなら、難しいかと思ってな。ユーリの命を助けてくれた者だし、公爵家という家柄なら申し分ないが、ユーリのことを愛してくれる者でなければな。私はユーリに幸せになってもらいたいんだ」
「お父さま……」
国王さまがユーリさまにふさわしいと思えるほど、ヴァルは素晴らしい人。
それはジーノが一番よくわかっている。
でも、それならこれは使えるんじゃないか? そんな感情がジーノの心に湧き上がった。
「あの、お父さま……ヴァルフレードさまとの、その、縁談話を進めていただけませんか?」
「えっ? ユーリ! 何を言い出すんだ? 今、ヴァルフレードと直接会ってそれは難しいと思っただろう?」
「はい。でも……僕は、命の恩人であるヴァルフレードさまを今度は僕が救いたいって思ったんです。これから長い人生、亡くなった婚約者さんをずっと思い続けて生きていくのは辛すぎます。僕は、ヴァルフレードさまのおかげで命を繋ぎ止められました。その命をヴァルフレードさまのために使いたいんです」
「ユーリ……お前の気持ちはわかるが……うーん、どうだろうな。こちらから縁談を申し込めば、アゴスティーノ家が断ることはしないが、お前は本当にそれで構わないのか?」
このシェルレク王国で身分の高いものから齎された縁談は断ることができない。そのルールをジーノは覚えていたのだ。
「僕は、婚約者さんを一途に思い続けるヴァルフレードさまの優しさに惹かれました。今はヴァルフレードさまと一緒の時間を過ごしたいと思います。一緒に過ごしたら、ヴァルフレードさまも僕を夫にしてもいいと思ってくださるかもしれないでしょう?」
「ユーリ……お前は変わったな」
「えっ?」
(もしかして僕がユーリさまでないことに気づかれてしまったんだろうか? 緊張で身体が震える)
「床に臥せっていた時は、未来のことなど考えることもなかっただろう。それが未来への希望を願えるようになったのとは……。身体だけでなく心も回復したのだな。わかった。それでは、アゴスティーノ家に正式に縁談を持ちかけるとしよう」
「お父さま! ありがとうございます!」
これでもう一度ヴァルに会える。ジーノはあまりの嬉しさに飛び跳ねてしまいそうな気持ちだった。
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