17 / 23
懐かしい匂い
しおりを挟む
<sideヴァル>
――ヴァルフレードさまは、顔や家柄だけを望まれる縁が本当にいいことだと思いますか?
縁談話を持ちかけてジーノと初めて会った時、私との縁談を自分には勿体無い、私には他の縁もあるはずだとジーノが言い出して、私は今のユーリさまと同じような言葉を返した。
今までアゴスティーノ公爵家という家柄と、私の顔だけを望む相手からの縁談話に嫌気がさしていたのだ。
だが、それに嫌気がさしていたのは私だけでなくユーリさまも同じ。
同じように目の前にいるユーリさまも、王族で美しい顔立ちであるが故に、私との縁談がなくなれば同じように求められるだろう。
私には心から惹かれたジーノがいた。ジーノが私の思いを受け止めてくれたからこそ、私は愛しい人と婚約することができた。ユーリさまが本気で私に惹かれてくださったのだとしたら、私は思いを受け止めるべきだろうか……。
けれど、私にはまだユーリさまにそこまでの感情は抱いていない。だが、あの時のジーノもきっと私に対してそこまでの感情は抱いていなかっただろう。それなのに、ジーノは私の思いを受け止めてくれた。
そんなジーノだからこそ、私は一生ジーノを愛し続けると誓ったのだ。死しても尚、私の心を占めるのはジーノ、ただ一人。そんな気持ちを持ちながら、ユーリさまとの縁談を進めるのは人として間違っているのではないかという気持ちでいっぱいになる。
「申し訳ありません。私自身、顔や家柄だけを望まれる縁談に嫌気がさしていたというのに、失礼なことを申しました」
「いえ。最愛のお方を亡くしたばかりの縁談話ですから、僕から一生を共にしたいと言われても驚かれて当然です。でも、ヴァルフレードさまとの縁談がうまくいかなければ、これ以後、誰との縁談も受けないつもりでいます。たとえ、お父さまに懇願されたとしても……」
「えっ、でもそれでは……」
「それくらい、本気でヴァルフレードさまを想っているとわかっていただきたいのです」
「ユーリさま……」
「だめ、ですか?」
「――っ!!!」
ユーリさまのお願いの表情が、ジーノと重なって見えてドキドキしてしまう。
顔も何もかも似ていないのに、どうしてだろう。
「ヴァルフレードさま……」
ユーリさまの目を見ていると、頷かずにはいられなくなる。
ジーノ……私を許してくれ。
「わかりました。このお話、受けさせていただきます」
「――っ、ヴァルフレードさま! よかった!!」
「――っ!!」
ユーリさまが抱きついてきて、胸がざわつく。
強く抱きしめたいという思いと、それに抗う気持ちが私の中で葛藤する。
それでもユーリさまとの縁を受けると決めた自分の気持ちに、責任をもつつもりでユーリさまの背中にそっと手を回した。
私の身体にすっぽりとおさまるその姿はやはりジーノを思い起こさせる。久しぶりのその感触に私の心は落ち着いていった。
<sideジーノ(ユーリ)>
ヴァル以外との縁談を受けるつもりはない。その言葉は優しいヴァルの感情を大きく揺さぶったらしい。
でもその言葉に嘘はない。
ヴァルとの縁談がうまくいかなければ、ジーノは神さまのとの約束通り一年で命を終えることになるのだから。
ヴァル以外誰とも結ばれるつもりはない。
ジーノはその思いをヴァルに告げると、ヴァルは話を受けてくれた。
半分脅迫じみたものだったかもしれない。けれど、今のジーノとっては大きな前進だった。
あまりの嬉しさに、ヴァルに抱きつくと懐かしい匂いに包まれる。
(ああ、ヴァルの匂い。ずっとこの匂いに抱きしめられたかった……)
突然のジーノの行動にヴァルは驚いているだろう。でももう少しだけ、この匂いに包まれていたい。
そう思っていると、ジーノの背中に優しいヴァルの腕が回った。
ジーノだけが抱きついている時よりもずっと密着して、ヴァルの鼓動も聞こえるようだ。
その鼓動に安心したジーノは、いつの間にかヴァルの胸の中で眠ってしまっていた。
「んっ……」
気づくとジーノは自分の部屋のベッドで眠っていた。
「あれ? ヴァルは?」
辺りを見回したけれど、ヴァルの姿は見えない。
ジーノが眠ってしまったから、呆れて帰ってしまったのかもしれない。
せっかくヴァルがジーノの気持ちを受け止めてくれたというのに……。
自分の愚かな行動に呆れ果て、自然に涙が溢れてくる。
「ユーリさま? どうかなさったのですか?」
ベッドの上で一人で泣いていると、寝室の扉が開き、驚きの表情を浮かべたヴァルが部屋に入ってきた。
――ヴァルフレードさまは、顔や家柄だけを望まれる縁が本当にいいことだと思いますか?
縁談話を持ちかけてジーノと初めて会った時、私との縁談を自分には勿体無い、私には他の縁もあるはずだとジーノが言い出して、私は今のユーリさまと同じような言葉を返した。
今までアゴスティーノ公爵家という家柄と、私の顔だけを望む相手からの縁談話に嫌気がさしていたのだ。
だが、それに嫌気がさしていたのは私だけでなくユーリさまも同じ。
同じように目の前にいるユーリさまも、王族で美しい顔立ちであるが故に、私との縁談がなくなれば同じように求められるだろう。
私には心から惹かれたジーノがいた。ジーノが私の思いを受け止めてくれたからこそ、私は愛しい人と婚約することができた。ユーリさまが本気で私に惹かれてくださったのだとしたら、私は思いを受け止めるべきだろうか……。
けれど、私にはまだユーリさまにそこまでの感情は抱いていない。だが、あの時のジーノもきっと私に対してそこまでの感情は抱いていなかっただろう。それなのに、ジーノは私の思いを受け止めてくれた。
そんなジーノだからこそ、私は一生ジーノを愛し続けると誓ったのだ。死しても尚、私の心を占めるのはジーノ、ただ一人。そんな気持ちを持ちながら、ユーリさまとの縁談を進めるのは人として間違っているのではないかという気持ちでいっぱいになる。
「申し訳ありません。私自身、顔や家柄だけを望まれる縁談に嫌気がさしていたというのに、失礼なことを申しました」
「いえ。最愛のお方を亡くしたばかりの縁談話ですから、僕から一生を共にしたいと言われても驚かれて当然です。でも、ヴァルフレードさまとの縁談がうまくいかなければ、これ以後、誰との縁談も受けないつもりでいます。たとえ、お父さまに懇願されたとしても……」
「えっ、でもそれでは……」
「それくらい、本気でヴァルフレードさまを想っているとわかっていただきたいのです」
「ユーリさま……」
「だめ、ですか?」
「――っ!!!」
ユーリさまのお願いの表情が、ジーノと重なって見えてドキドキしてしまう。
顔も何もかも似ていないのに、どうしてだろう。
「ヴァルフレードさま……」
ユーリさまの目を見ていると、頷かずにはいられなくなる。
ジーノ……私を許してくれ。
「わかりました。このお話、受けさせていただきます」
「――っ、ヴァルフレードさま! よかった!!」
「――っ!!」
ユーリさまが抱きついてきて、胸がざわつく。
強く抱きしめたいという思いと、それに抗う気持ちが私の中で葛藤する。
それでもユーリさまとの縁を受けると決めた自分の気持ちに、責任をもつつもりでユーリさまの背中にそっと手を回した。
私の身体にすっぽりとおさまるその姿はやはりジーノを思い起こさせる。久しぶりのその感触に私の心は落ち着いていった。
<sideジーノ(ユーリ)>
ヴァル以外との縁談を受けるつもりはない。その言葉は優しいヴァルの感情を大きく揺さぶったらしい。
でもその言葉に嘘はない。
ヴァルとの縁談がうまくいかなければ、ジーノは神さまのとの約束通り一年で命を終えることになるのだから。
ヴァル以外誰とも結ばれるつもりはない。
ジーノはその思いをヴァルに告げると、ヴァルは話を受けてくれた。
半分脅迫じみたものだったかもしれない。けれど、今のジーノとっては大きな前進だった。
あまりの嬉しさに、ヴァルに抱きつくと懐かしい匂いに包まれる。
(ああ、ヴァルの匂い。ずっとこの匂いに抱きしめられたかった……)
突然のジーノの行動にヴァルは驚いているだろう。でももう少しだけ、この匂いに包まれていたい。
そう思っていると、ジーノの背中に優しいヴァルの腕が回った。
ジーノだけが抱きついている時よりもずっと密着して、ヴァルの鼓動も聞こえるようだ。
その鼓動に安心したジーノは、いつの間にかヴァルの胸の中で眠ってしまっていた。
「んっ……」
気づくとジーノは自分の部屋のベッドで眠っていた。
「あれ? ヴァルは?」
辺りを見回したけれど、ヴァルの姿は見えない。
ジーノが眠ってしまったから、呆れて帰ってしまったのかもしれない。
せっかくヴァルがジーノの気持ちを受け止めてくれたというのに……。
自分の愚かな行動に呆れ果て、自然に涙が溢れてくる。
「ユーリさま? どうかなさったのですか?」
ベッドの上で一人で泣いていると、寝室の扉が開き、驚きの表情を浮かべたヴァルが部屋に入ってきた。
445
あなたにおすすめの小説
冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている
春夜夢
BL
「――誰にも言うな。これは、お前だけが知っていればいい」
王国最年少で宰相に就任した男、ゼフィルス=ル=レイグラン。
冷血無慈悲、感情を持たない政の化け物として恐れられる彼は、
なぜか、貧民街の少年リクを城へと引き取る。
誰に対しても一切の温情を見せないその男が、
唯一リクにだけは、優しく微笑む――
その裏に隠された、王政を揺るがす“とある秘密”とは。
孤児の少年が踏み入れたのは、
権謀術数渦巻く宰相の世界と、
その胸に秘められた「決して触れてはならない過去」。
これは、孤独なふたりが出会い、
やがて世界を変えていく、
静かで、甘くて、痛いほど愛しい恋の物語。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
見知らぬ君に触れられない
mahiro
BL
今から5年前、組織を抜けた人物がいた。
通常であればすぐにでも探し出すはずなのに、今回は即刻捜査は打ち切られた。
それが何故なのか、それを知ろうとすることすら禁じられた。
それから5年の歳月が経った。
表向きには何事もないように見える日常の中で、俺は見つけてしまった。
5年前には見ることの出来なかった明るく笑うやつの顔を。
新しい仲間に囲まれ、見たことのない明るい服装を見にまとい、常に隠されていた肌が惜しげもなく外に出されていた。
何故組織を抜けたのだと問い質したい所だが、ボスからは探すな、見つけても関わるなと指示されていた。
だから、俺は見なかったことにしてその場を去ること しか出来なかった。
あれから俺のいる部屋にいつもなら顔を出さない部下が訊ねてきて………?
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
神楽
立樹
BL
谷川彰也は、大学でも美形で人の注目を集めている近松神楽にモーニングコールをしている。
ただ、モーニングコールをするだけの仲だった。ある日、コールをしていることがバレてしまった。
彰也も近松に言っていない秘密があって……。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる