669 / 757
第二部
餅つき最高!
「どうだ? 昇もやってみるか?」
「うん!」
今度は俺の番だ。
直くんにかっこいいって思われるように頑張らないとな。
伯父さんから杵を受け取ると、縁側から直くんの声が聞こえる。
「昇さん、頑張ってー!」
その声でより一層やる気が出てくる。
「気合い入れすぎて臼にぶつけないようにするんだぞ。目線は常に餅の中心だ。そして力任せに振り被るんじゃなくて、持ち上げた杵の重さで餅をつくんだ。いいか、リズムが大事だからな」
伯父さんのアドバイスをしっかりと胸に刻み込む。
伯父さんは大おじさんと交代して俺の合いの手をやってくれるようだ。
「昇。いいぞ」
「はい。よいしょ」
俺がついて杵をあげると、すかさず伯父さんが餅を中央に折りたたむ。
その繰り返しで、伯父さんの手際がいいから餅をつきやすい。
そうか、餅つきって杵をつく人がすごいんだと持ってたけど、この合いの手を入れてくれる人も重要だったんだな。
「よし、次はラシード殿下に代わろう」
そう言われて俺は殿下に杵を渡した。
『ラシード! 頑張って!』
『ラシードさん、がんばってくださーい!』
保さんと直くんの呼びかけに殿下が嬉しそうに笑顔を返す。
すごいな。この殿下をここまで笑顔にするのはこの二人だけなんだろう。
伯父さんがさらりと餅つきの極意を伝えるが、何もかもが初めての殿下には少し難しいかもしれない。
そう思ったけれど、それは思いっきり杞憂だった。
杵を振り上げその重さで軽やかについていく。
その滑らかな動きも思わず感嘆のため息が漏れた。
「すごいな……」
やっぱり王族として教育を受けてきた人は、俺らみたいな庶民とは違うんだろう。
『ラシード、すごいよ!』
タオルを片手に殿下の元に駆け寄ってきた保さんの目が輝いている。
これは惚れ直した瞬間なんだろう。
「次は、おじいちゃまとおじいちゃんも見たいです!」
「そうか、じゃあそろそろやるとしようか」
直くんのおねだりにじいちゃんと大おじさんが笑顔で立ち上がる。
まさにラスボスの威厳。
「父さん」
伯父さんが襷を渡すと、さっと口に咥えシュッと襷掛けをする。
その仕草がため息が出るほどかっこいい。
伯父さんもかっこよかったけど、じいちゃんはその遥か上をいく感じだ。
これはやっぱり培ってきた年月なんだろうか……
ちらっと縁側を見ると、直くんだけじゃなく絢斗さんも見惚れているのがわかる。
この歳になってもまだ人を惹きつけられるじいちゃんは尊敬しかないな。
「じいちゃん。俺が合いの手を入れるよ」
「そうか、頼むよ」
こうしてじいちゃんの餅つきの相手ができるのも多分あと数年。
孫との餅つきの思い出をじいちゃんに覚えていてもらいたい。
じいちゃんは八十九とは思えない力で杵を持ち上げる。
そのままストっとおろし、俺が餅を畳む。
正確にど真ん中に杵を下ろしてくれるからめちゃくちゃやりやすい。
数回叩いて、今度は大おじさんに代わった。
「あ、昇くん。私が合いの手を入れるよ」
そう言って縁側から飛び出してきたのは絢斗さん。
「えっ? 大丈夫ですか?」
「任せておいて!」
そういうが早いか、絢斗さんは俺の場所と代わり、杵を持つ大おじさんに笑顔を向ける。
「お父さん。いいよ」
その笑顔に応えるように大おじさんは杵を下ろした。
杵が持ち上がると、絢斗さんが手慣れた様子で餅を折りたたむ。
正直に言って俺より断然上手い。
「すごっ……」
「絢斗は上手なんだよ。ああいうのは身体が動くんだろうな」
苦手なものと得意なものがはっきりしている絢斗さんの得意なものってことか。
大おじさんが数回餅をつきおわって、俺は直くんに声をかけた。
「直くんもやってみない?」
「でも、僕……」
「大丈夫、俺が支えるから」
直くんの手をとって、庭に向かう。
大おじさんから杵を受取ろうとした直くんだったけれど、多分持てないだろう。
「わぁ、重い!」
その重さだけ分からせてから俺はそっと後ろから支えた。
「よし。一緒にやってみよう。餅の真ん中に下ろすんだよ」
「私と卓さんで合いの手やるね」
直くんと俺が杵を持ち上げるとじいちゃんたちや保さんから「よいしょ」の声がかかる。
みんなが一体となって直くんの餅つきを成功させようとしているのが楽しい。
何度か餅をついて、ようやくつきたての餅が出来上がった。
「よし。これくらいでいいだろう」
伯父さんと一緒に臼ごと縁側に持っていく。
そしてもち粉を振って用意しておいた机につきたての餅を載せる。
じいちゃんはそれを驚くほどの速さで一口サイズにちぎっていった。
「直くんはきなこがいいかな」
砂糖をたっぷりと混ぜたきな粉の器を絢斗さんが直くんに渡す。
そこにじいちゃんがちぎった餅を入れる。
「直くん。食べてみて」
「はい。いただきます!」
箸でつかみ、直くんの口に入った餅は驚くほど伸びた。
「んー! おいひぃー!」
その幸せそうな声に、俺たちはみんな笑顔になっていた。
「うん!」
今度は俺の番だ。
直くんにかっこいいって思われるように頑張らないとな。
伯父さんから杵を受け取ると、縁側から直くんの声が聞こえる。
「昇さん、頑張ってー!」
その声でより一層やる気が出てくる。
「気合い入れすぎて臼にぶつけないようにするんだぞ。目線は常に餅の中心だ。そして力任せに振り被るんじゃなくて、持ち上げた杵の重さで餅をつくんだ。いいか、リズムが大事だからな」
伯父さんのアドバイスをしっかりと胸に刻み込む。
伯父さんは大おじさんと交代して俺の合いの手をやってくれるようだ。
「昇。いいぞ」
「はい。よいしょ」
俺がついて杵をあげると、すかさず伯父さんが餅を中央に折りたたむ。
その繰り返しで、伯父さんの手際がいいから餅をつきやすい。
そうか、餅つきって杵をつく人がすごいんだと持ってたけど、この合いの手を入れてくれる人も重要だったんだな。
「よし、次はラシード殿下に代わろう」
そう言われて俺は殿下に杵を渡した。
『ラシード! 頑張って!』
『ラシードさん、がんばってくださーい!』
保さんと直くんの呼びかけに殿下が嬉しそうに笑顔を返す。
すごいな。この殿下をここまで笑顔にするのはこの二人だけなんだろう。
伯父さんがさらりと餅つきの極意を伝えるが、何もかもが初めての殿下には少し難しいかもしれない。
そう思ったけれど、それは思いっきり杞憂だった。
杵を振り上げその重さで軽やかについていく。
その滑らかな動きも思わず感嘆のため息が漏れた。
「すごいな……」
やっぱり王族として教育を受けてきた人は、俺らみたいな庶民とは違うんだろう。
『ラシード、すごいよ!』
タオルを片手に殿下の元に駆け寄ってきた保さんの目が輝いている。
これは惚れ直した瞬間なんだろう。
「次は、おじいちゃまとおじいちゃんも見たいです!」
「そうか、じゃあそろそろやるとしようか」
直くんのおねだりにじいちゃんと大おじさんが笑顔で立ち上がる。
まさにラスボスの威厳。
「父さん」
伯父さんが襷を渡すと、さっと口に咥えシュッと襷掛けをする。
その仕草がため息が出るほどかっこいい。
伯父さんもかっこよかったけど、じいちゃんはその遥か上をいく感じだ。
これはやっぱり培ってきた年月なんだろうか……
ちらっと縁側を見ると、直くんだけじゃなく絢斗さんも見惚れているのがわかる。
この歳になってもまだ人を惹きつけられるじいちゃんは尊敬しかないな。
「じいちゃん。俺が合いの手を入れるよ」
「そうか、頼むよ」
こうしてじいちゃんの餅つきの相手ができるのも多分あと数年。
孫との餅つきの思い出をじいちゃんに覚えていてもらいたい。
じいちゃんは八十九とは思えない力で杵を持ち上げる。
そのままストっとおろし、俺が餅を畳む。
正確にど真ん中に杵を下ろしてくれるからめちゃくちゃやりやすい。
数回叩いて、今度は大おじさんに代わった。
「あ、昇くん。私が合いの手を入れるよ」
そう言って縁側から飛び出してきたのは絢斗さん。
「えっ? 大丈夫ですか?」
「任せておいて!」
そういうが早いか、絢斗さんは俺の場所と代わり、杵を持つ大おじさんに笑顔を向ける。
「お父さん。いいよ」
その笑顔に応えるように大おじさんは杵を下ろした。
杵が持ち上がると、絢斗さんが手慣れた様子で餅を折りたたむ。
正直に言って俺より断然上手い。
「すごっ……」
「絢斗は上手なんだよ。ああいうのは身体が動くんだろうな」
苦手なものと得意なものがはっきりしている絢斗さんの得意なものってことか。
大おじさんが数回餅をつきおわって、俺は直くんに声をかけた。
「直くんもやってみない?」
「でも、僕……」
「大丈夫、俺が支えるから」
直くんの手をとって、庭に向かう。
大おじさんから杵を受取ろうとした直くんだったけれど、多分持てないだろう。
「わぁ、重い!」
その重さだけ分からせてから俺はそっと後ろから支えた。
「よし。一緒にやってみよう。餅の真ん中に下ろすんだよ」
「私と卓さんで合いの手やるね」
直くんと俺が杵を持ち上げるとじいちゃんたちや保さんから「よいしょ」の声がかかる。
みんなが一体となって直くんの餅つきを成功させようとしているのが楽しい。
何度か餅をついて、ようやくつきたての餅が出来上がった。
「よし。これくらいでいいだろう」
伯父さんと一緒に臼ごと縁側に持っていく。
そしてもち粉を振って用意しておいた机につきたての餅を載せる。
じいちゃんはそれを驚くほどの速さで一口サイズにちぎっていった。
「直くんはきなこがいいかな」
砂糖をたっぷりと混ぜたきな粉の器を絢斗さんが直くんに渡す。
そこにじいちゃんがちぎった餅を入れる。
「直くん。食べてみて」
「はい。いただきます!」
箸でつかみ、直くんの口に入った餅は驚くほど伸びた。
「んー! おいひぃー!」
その幸せそうな声に、俺たちはみんな笑顔になっていた。
あなたにおすすめの小説
空港清掃員58歳、転生先の王宮でも床を磨いたら双子に懐かれ、国王に溺愛される
木風
恋愛
羽田空港で十五年、黙々と床を磨いてきた清掃員・田中幸子(58)は事故死し、没落寸前の子爵令嬢エルシアとして転生する。
婚約破棄の末に家を追われた彼女が選んだのは、王宮の清掃員――前世の技で空気まで変わるほど磨き上げていく仕事だった。
やがて母を亡くした双子王子王女に懐かれ、荒れた執務室の主である喪中の国王とも距離が縮まり……。
「泣くなら俺の胸で」――床も心も磨き直す、清掃令嬢の溺愛成り上がり。
【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!
宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。
そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。
慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。
貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。
しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。
〰️ 〰️ 〰️
中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。
完結しました。いつもありがとうございます!
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。
三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。
そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。
BL。ラブコメ異世界ファンタジー。
完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。
『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』
『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』
公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。
もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。
屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは……
*表紙絵自作