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第二部
眠っている間に
新年おめでとうございます。
今日から投稿再開です。
今年もどうぞよろしくお願いします。
波木真帆
* * *
<side卓>
「昇。直くんが眠そうになってる」
向かいに座っていたから直くんの様子がよく見えた。
初詣でもはしゃいでいたし、餅つきも楽しんでいたから少し疲れたんだろう。
つきたての餅もよく食べていたから眠くなったようだ。
「あっちの部屋に布団を用意しているから、着替えをさせてから寝かせるといい」
父の言葉に頷いて、昇は直くんを抱きかかえた。
うつらうつらしていた直くんは昇に抱きかかえられるとすぐに深い眠りに落ちてしまったようだ。
「部屋に着替えも準備しているから。着物はできるだけハンガーにかけておいてくれ」
それだけ告げると、昇はわかったと言ってリビングから出ていった。
直くんと昇がいなくなると、やはり少し寂しくなる。
そんな空気を変えるにはやはり絢斗だ。
『この後、直くんたちとお財布を買いに行こうって話していたんですけど、ラシード殿下と保くんも一緒に行きませんか?』
『財布?』
『ええ。直くんにお年玉を渡したら入れるものがないというので』
絢斗は笑顔で伝えたが、殿下にはよく伝わらなかったようだ。
『オトシダマ? タモツ、それが何か知っているか?』
その言葉に我々はみんなでハッとする。
そうか、そういえばラシード殿下が知っているはずがない。
あまりにも当たり前のことすぎてすっかり忘れてしまっていたようだ。
保さんが殿下に説明をすると、目を見開いて驚いている。
『なんと! 新しい年を迎えた子どもへの贈り物、とは……。それは私たちからもナオとノボルに渡したいものだな』
『えっ? 殿下がお渡しに?』
『ああ。ナオはスグル殿とアヤト殿の息子だが、私とタモツの息子でもある。ノボルはそのナオの伴侶となる者だからこちらも息子同然だ。二人にオトシダマとやらを渡すのは同然だろう』
殿下のその言葉に、保さんは嬉しそうな表情を見せる。
『それではこれをお使いください』
賢将さんが立ち上がり、自分の鞄から取り出したのはお年玉袋。
『袋に名前とメッセージが書かれていると喜びますよ』
『そうか、名前とメッセージか……』
殿下は少し考えてから、保さんの耳元で囁いた。
それを聞いた保さんの表情が明るくなっていく。
『ラシード。それいいよ! 絶対に直も昇くんも喜ぶ』
どうやら二人が喜ぶものを考えてくれたようだ。
『よろしければ、こちらをどうぞ』
賢将さんが手持ちの万年筆を渡すと、殿下の表情が一気に変わった。
『これは……こんな素晴らしいものを借りても?』
『ええ。可愛い孫へのメッセージですから、ぜひお使いください』
あれは、賢将さんが医師国家試験に合格した時に父親から譲り受けたもの。
それから数十年賢将さんと苦楽を共にしている思い出の万年筆だ。
それを殿下に貸し出すとは……
直くんへの想いの強さがよくわかるというものだ。
殿下はそれを大切に受け取り、保さんに聞きながら書き始めた。
その最初の一文字を書いたところで私たちは驚いた。
それが日本語だったから。
初めて書くだろう日本語を、一文字一文字丁寧に時間をかけてかいている様子は絶対に直くんにも見せてやりたい。
私はそっとスマホを構えた。
もちろんここのリビングにもカメラは設置しているが、殿下のあの表情はしっかりと私のスマホにも残しておきたい。
それから三十分ほど時間をかけ、ようやくメッセージが完成した。
『どうだろう?』
『ラシード、すごいよ! 上手に書けてる!』
保さんが言っているのは決してお世辞ではない。
本当に素晴らしい字だ。
『そうか、よかった』
そう言って殿下はホッと胸を撫で下ろしているように見えた。
『では、いくら入れるとしようか』
『えっ、えっと……』
保さんが困っているのは、おそらく今までお年玉を渡していないから基準がわからないのだろう。
『日本円はいくらぐらい持ってきていたか……』
殿下は懐の帯のところから財布を取り出した。
大きくて分厚い財布はなんとも存在感がある。
『そうだな。ナオとノボル、それぞれ二十万円くらいにしておこうか』
『ええっ? に、じゅうまん……? そんなっ……』
『少ないか?』
『い、いや。多過ぎじゃ無いかなって……』
保さんはチラリと絢斗を見て声をかけた。
『あの、こんなことを聞いていいかわからないんですけど……絢斗さんはおいくらくらい?』
『私と卓さんは、五万円ずつ入れたよ。お父さんたちはいくらにした?』
『私たちはそれぞれ十万円にしたよ。これから学校にも通うんだ。欲しいものも出てくるだろう』
賢将さんの言葉に私は頷いたが、保さんは目を丸くしている。
何かおかしかっただろうか?
『それなら私たちは二十万で構わないだろう』
隣で驚いた表情をしている保さんを見ながら、殿下は直くんと昇へのお年玉袋に二十万ずつ入れた。
『よし、これでいい。渡すのが楽しみだな』
その満足した顔に、保さんは何も言えないようだった。
今日から投稿再開です。
今年もどうぞよろしくお願いします。
波木真帆
* * *
<side卓>
「昇。直くんが眠そうになってる」
向かいに座っていたから直くんの様子がよく見えた。
初詣でもはしゃいでいたし、餅つきも楽しんでいたから少し疲れたんだろう。
つきたての餅もよく食べていたから眠くなったようだ。
「あっちの部屋に布団を用意しているから、着替えをさせてから寝かせるといい」
父の言葉に頷いて、昇は直くんを抱きかかえた。
うつらうつらしていた直くんは昇に抱きかかえられるとすぐに深い眠りに落ちてしまったようだ。
「部屋に着替えも準備しているから。着物はできるだけハンガーにかけておいてくれ」
それだけ告げると、昇はわかったと言ってリビングから出ていった。
直くんと昇がいなくなると、やはり少し寂しくなる。
そんな空気を変えるにはやはり絢斗だ。
『この後、直くんたちとお財布を買いに行こうって話していたんですけど、ラシード殿下と保くんも一緒に行きませんか?』
『財布?』
『ええ。直くんにお年玉を渡したら入れるものがないというので』
絢斗は笑顔で伝えたが、殿下にはよく伝わらなかったようだ。
『オトシダマ? タモツ、それが何か知っているか?』
その言葉に我々はみんなでハッとする。
そうか、そういえばラシード殿下が知っているはずがない。
あまりにも当たり前のことすぎてすっかり忘れてしまっていたようだ。
保さんが殿下に説明をすると、目を見開いて驚いている。
『なんと! 新しい年を迎えた子どもへの贈り物、とは……。それは私たちからもナオとノボルに渡したいものだな』
『えっ? 殿下がお渡しに?』
『ああ。ナオはスグル殿とアヤト殿の息子だが、私とタモツの息子でもある。ノボルはそのナオの伴侶となる者だからこちらも息子同然だ。二人にオトシダマとやらを渡すのは同然だろう』
殿下のその言葉に、保さんは嬉しそうな表情を見せる。
『それではこれをお使いください』
賢将さんが立ち上がり、自分の鞄から取り出したのはお年玉袋。
『袋に名前とメッセージが書かれていると喜びますよ』
『そうか、名前とメッセージか……』
殿下は少し考えてから、保さんの耳元で囁いた。
それを聞いた保さんの表情が明るくなっていく。
『ラシード。それいいよ! 絶対に直も昇くんも喜ぶ』
どうやら二人が喜ぶものを考えてくれたようだ。
『よろしければ、こちらをどうぞ』
賢将さんが手持ちの万年筆を渡すと、殿下の表情が一気に変わった。
『これは……こんな素晴らしいものを借りても?』
『ええ。可愛い孫へのメッセージですから、ぜひお使いください』
あれは、賢将さんが医師国家試験に合格した時に父親から譲り受けたもの。
それから数十年賢将さんと苦楽を共にしている思い出の万年筆だ。
それを殿下に貸し出すとは……
直くんへの想いの強さがよくわかるというものだ。
殿下はそれを大切に受け取り、保さんに聞きながら書き始めた。
その最初の一文字を書いたところで私たちは驚いた。
それが日本語だったから。
初めて書くだろう日本語を、一文字一文字丁寧に時間をかけてかいている様子は絶対に直くんにも見せてやりたい。
私はそっとスマホを構えた。
もちろんここのリビングにもカメラは設置しているが、殿下のあの表情はしっかりと私のスマホにも残しておきたい。
それから三十分ほど時間をかけ、ようやくメッセージが完成した。
『どうだろう?』
『ラシード、すごいよ! 上手に書けてる!』
保さんが言っているのは決してお世辞ではない。
本当に素晴らしい字だ。
『そうか、よかった』
そう言って殿下はホッと胸を撫で下ろしているように見えた。
『では、いくら入れるとしようか』
『えっ、えっと……』
保さんが困っているのは、おそらく今までお年玉を渡していないから基準がわからないのだろう。
『日本円はいくらぐらい持ってきていたか……』
殿下は懐の帯のところから財布を取り出した。
大きくて分厚い財布はなんとも存在感がある。
『そうだな。ナオとノボル、それぞれ二十万円くらいにしておこうか』
『ええっ? に、じゅうまん……? そんなっ……』
『少ないか?』
『い、いや。多過ぎじゃ無いかなって……』
保さんはチラリと絢斗を見て声をかけた。
『あの、こんなことを聞いていいかわからないんですけど……絢斗さんはおいくらくらい?』
『私と卓さんは、五万円ずつ入れたよ。お父さんたちはいくらにした?』
『私たちはそれぞれ十万円にしたよ。これから学校にも通うんだ。欲しいものも出てくるだろう』
賢将さんの言葉に私は頷いたが、保さんは目を丸くしている。
何かおかしかっただろうか?
『それなら私たちは二十万で構わないだろう』
隣で驚いた表情をしている保さんを見ながら、殿下は直くんと昇へのお年玉袋に二十万ずつ入れた。
『よし、これでいい。渡すのが楽しみだな』
その満足した顔に、保さんは何も言えないようだった。
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