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第二部
日下部邸へ
<side寛>
「さぁ、行こうか」
年末に用意しておいた<星彩庵>のカステラと最中の箱をそれぞれ風呂敷に包み、直くんに声をかけた。
今日はマンションに戻るから、賢将さんと昇はここの食材を全て保冷ボックスに詰め込んでトランクに運び入れてくれている。
「はーい。おじいちゃま。あの、昨日のお餅も日下部のおじいちゃんのところに持って行っていいですか?」
床の間の鏡餅と並べて保管していた、餅が入ったタッパーを指差して尋ねてくる。
「あのお餅、すごく美味しかったからおじいちゃんとお孫さんにも食べてもらいたくて……」
「ははっ。そうか、じゃあ持って行くとしよう」
日下部さんなら直くんの気持ちを汲んでくれるだろう。
その場で焼いて食べてくれるかもしれないな。
直くんは焼き餅を食べるのは初めてだから喜ぶだろう。
「これに包むといい」
直くんに沙都が好んで使っていた風呂敷を渡すと、上手に包んでいた。
「直くん、上手だな」
「さっきおじいちゃまが包んでいるのを見てたので真似してみました。風呂敷っていっぱい包み方があるんですよね。前に本で読んだことがあります」
「ああ。慣れればどんなものでも包んで運べるようになるよ」
「わぁ、頑張ります!」
もうすぐ十五歳になる直くんとは七十五歳ほど歳が離れていて、普通ならこんな爺さんがいうことを素直に聞いたりしないだろう。だが、直くんはいつだって喜んで受け入れてくれる。それが私をどれだけ喜ばせてくれることか……
本当に素直で優しい子が私の可愛い孫になってくれたものだ。
直くんは包んだ餅入りのタッパーを持ち、もう片方の手で私と手を繋いでくれた。
そうして玄関に向かうと、ちょうど昇が私たちを迎えにきていたところだった。
「直くん。それ何?」
「昨日作ったお餅です。日下部のおじいちゃんに食べてもらおうと思って……」
「そうか。きっと喜ぶよ。じいちゃん、助手席でいい?」
それは昇が直くんと二人で後部座席に座りたいという意味だ。
「ああ、構わないよ」
そう答えてやると、昇はあからさまに嬉しそうな表情を見せた。
直くんを車に乗せ、笑顔で乗り込んでいく昇を見ながら私は助手席の扉を開けた。
「賢将さん、頼むよ」
「ええ。任せてください」
車はゆっくりと動き出した。日下部さんが住んでいるのは都内屈指の高級住宅街にある。
その地に入っただけで一気に様相が変わる。
どの家も広くて高い塀に囲まれて、玄関にはそれはそれは立派な正月飾りが飾られている。
「わぁー、すごいー!」
我が家にも大きな門松としめ飾りを飾っていたが、この辺りは洋風の可愛らしい色合いのしめ飾りも多く見られる。
「日下部さんのご自宅はそろそろだよ。ほら、あの家だ」
そう言って現れた広い邸宅に直くんはもちろん、昇も驚いているようだった。
「スゲェー。さすが大企業の会長の家だなー」
この反応だけ見ると、昇も普通の高校生だな。
賢将さんと顔を見合わせて笑いながら、車を来客用駐車場に止めた。
もしかしたらお孫さんたちだけでなく、他にも挨拶に来ている仕事関係の人たちがいるのではないかと実のところ心配していたのだが、駐車場には他の車は見えなかった。
「さぁ、直くん。おいで」
車から降り、直くんの手をとって一緒に玄関まで歩いていく。
後ろから賢将さんと昇もついてきている。
驚くほど豪奢な玄関の前でチャイムを鳴らすと「はーい」と楽しげな声が聞こえる。
これは敦己くんのような気がする。
磯山と答えると、しばらくして扉が開いた。
「あけましておめでとうございます。どうぞ中にお入りください」
出迎えてくれたのは祥也くん。
もう随分と会っていなかったが、表情に滲み出るほど幸せそうでいい。
きっと隣にいる彼と毎日楽しく過ごしているのだろう。
「ああ。あけましておめでとう。この子は私の可愛い孫の直だよ。直くん、挨拶できるかな?」
そっと背中に手を回すと、直くんは少し緊張しながらも笑顔を見せた。
「僕、磯山直です。よろしくお願いします」
ぺこっと頭を下げると、祥也くんの隣にいた小柄な可愛い彼が
「可愛いー!」
と嬉しそうな声をあげた。
「さぁ、行こうか」
年末に用意しておいた<星彩庵>のカステラと最中の箱をそれぞれ風呂敷に包み、直くんに声をかけた。
今日はマンションに戻るから、賢将さんと昇はここの食材を全て保冷ボックスに詰め込んでトランクに運び入れてくれている。
「はーい。おじいちゃま。あの、昨日のお餅も日下部のおじいちゃんのところに持って行っていいですか?」
床の間の鏡餅と並べて保管していた、餅が入ったタッパーを指差して尋ねてくる。
「あのお餅、すごく美味しかったからおじいちゃんとお孫さんにも食べてもらいたくて……」
「ははっ。そうか、じゃあ持って行くとしよう」
日下部さんなら直くんの気持ちを汲んでくれるだろう。
その場で焼いて食べてくれるかもしれないな。
直くんは焼き餅を食べるのは初めてだから喜ぶだろう。
「これに包むといい」
直くんに沙都が好んで使っていた風呂敷を渡すと、上手に包んでいた。
「直くん、上手だな」
「さっきおじいちゃまが包んでいるのを見てたので真似してみました。風呂敷っていっぱい包み方があるんですよね。前に本で読んだことがあります」
「ああ。慣れればどんなものでも包んで運べるようになるよ」
「わぁ、頑張ります!」
もうすぐ十五歳になる直くんとは七十五歳ほど歳が離れていて、普通ならこんな爺さんがいうことを素直に聞いたりしないだろう。だが、直くんはいつだって喜んで受け入れてくれる。それが私をどれだけ喜ばせてくれることか……
本当に素直で優しい子が私の可愛い孫になってくれたものだ。
直くんは包んだ餅入りのタッパーを持ち、もう片方の手で私と手を繋いでくれた。
そうして玄関に向かうと、ちょうど昇が私たちを迎えにきていたところだった。
「直くん。それ何?」
「昨日作ったお餅です。日下部のおじいちゃんに食べてもらおうと思って……」
「そうか。きっと喜ぶよ。じいちゃん、助手席でいい?」
それは昇が直くんと二人で後部座席に座りたいという意味だ。
「ああ、構わないよ」
そう答えてやると、昇はあからさまに嬉しそうな表情を見せた。
直くんを車に乗せ、笑顔で乗り込んでいく昇を見ながら私は助手席の扉を開けた。
「賢将さん、頼むよ」
「ええ。任せてください」
車はゆっくりと動き出した。日下部さんが住んでいるのは都内屈指の高級住宅街にある。
その地に入っただけで一気に様相が変わる。
どの家も広くて高い塀に囲まれて、玄関にはそれはそれは立派な正月飾りが飾られている。
「わぁー、すごいー!」
我が家にも大きな門松としめ飾りを飾っていたが、この辺りは洋風の可愛らしい色合いのしめ飾りも多く見られる。
「日下部さんのご自宅はそろそろだよ。ほら、あの家だ」
そう言って現れた広い邸宅に直くんはもちろん、昇も驚いているようだった。
「スゲェー。さすが大企業の会長の家だなー」
この反応だけ見ると、昇も普通の高校生だな。
賢将さんと顔を見合わせて笑いながら、車を来客用駐車場に止めた。
もしかしたらお孫さんたちだけでなく、他にも挨拶に来ている仕事関係の人たちがいるのではないかと実のところ心配していたのだが、駐車場には他の車は見えなかった。
「さぁ、直くん。おいで」
車から降り、直くんの手をとって一緒に玄関まで歩いていく。
後ろから賢将さんと昇もついてきている。
驚くほど豪奢な玄関の前でチャイムを鳴らすと「はーい」と楽しげな声が聞こえる。
これは敦己くんのような気がする。
磯山と答えると、しばらくして扉が開いた。
「あけましておめでとうございます。どうぞ中にお入りください」
出迎えてくれたのは祥也くん。
もう随分と会っていなかったが、表情に滲み出るほど幸せそうでいい。
きっと隣にいる彼と毎日楽しく過ごしているのだろう。
「ああ。あけましておめでとう。この子は私の可愛い孫の直だよ。直くん、挨拶できるかな?」
そっと背中に手を回すと、直くんは少し緊張しながらも笑顔を見せた。
「僕、磯山直です。よろしくお願いします」
ぺこっと頭を下げると、祥也くんの隣にいた小柄な可愛い彼が
「可愛いー!」
と嬉しそうな声をあげた。
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