ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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最高のチャンス

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<side直純>

「あっ、伯父さん。これ、お土産」

「ああ、ありがとう。早速いただくとしようか。昇、客間に荷物を置いておいで。場所はわかるだろ?」

「もちろん。じゃあ、お世話になります!」

そういうと、昇さんは持ってきた荷物を部屋に運んで行った。

「直純くん、こっちで座って待っていよう」

「あっ、はい」

ぼーっと昇さんが行った方を見つめていると、絢斗さんに声をかけられて、慌ててソファーに座った。

「ふふっ。昇くん、明るくていい子でしょう? だから、心配しなくていいからね」

「は、はい。あの、桜城大学目指してるって……」

「そうなんだよ。あの子は昔から、桜城大学の法学部に行って卓さんみたいな弁護士になりたいって話してて、ふふっ」

磯山先生みたいな弁護士……。
すごいなぁ。
でも、昇さんならできそう。

昇さんを待っている間に、磯山先生がお茶の支度をしてくれる。
手伝わなくていいのかなと思っていると、部屋から出てきた昇さんが自然にキッチンへと向かっていった。

そうして、仲良さそうに一緒にお茶の準備を始めた。

「昇くん、いつもああやって率先して動いてくれるの。だから、こっちはゆっくり待っていたらいいんだよ」

「そう、なんですね……」

絢斗さんと話をしながらも、目が昇さんを追ってしまう。
僕は一体どうしてしまったんだろう……。


「これ、直純くんのね」

昇さんが僕の前に置いてくれたマグカップからは美味しそうな匂いが漂ってくる。

「ミルクと砂糖多めのカフェオレにしてみたけど、飲んだら感想聞かせて」

「は、はい。いただきます」

ドキドキしながら、口をつけると程よい温度でホッとする。
その後で、甘さとふんわりとコーヒーの香りがした。

「――っ、すごく美味しいです!」

これからずっと飲んでいたいと思うほど、美味しいコーヒーに僕は驚いてしまった。

「気に入ってくれてよかった」

そう言って笑う、昇さんの優しい笑顔に僕の心臓はおかしくなりそうなほどドキドキしていた。

<side昇>

挨拶にかこつけて、彼の手を握る。
俺の大きな手にすっぽり包まれるくらい小さくて可愛い手。
でもそれがなぜか、ピッタリとおさまるような心地よい感覚を覚えた。

もう少し握っていたかったけれど、知らない人間の登場にまだ少し怯えているのか、彼の鼓動が繋いだ手から伝わってくる。
心が傷ついていると言っていたし、ここで無理をさせるのは良くない。

名残惜しくあるがお土産の話題を出し、彼の手をゆっくりと離した。

伯父さんに言われた通りに客間に荷物を置きにいく。
伯父さんと絢斗さんの部屋は、客間とは反対方向にある。
今でもラブラブな二人のそばで夜を過ごすのは気が引けるから、この客間の場所は実に居心地がいい。

きっと彼の部屋もこちら側にあるはずだ。

もしかしたら隣だったりして?
そう思うだけで興奮してしまう。

一目見て、可愛いと思った。
そして、手を握って心地良いと思った。

それはどちらも俺の人生で初めて湧き上がった感情だった。

俺はもしかしたら、彼のことが好きなのか?

誰にも特別な感情を抱かずに生きてきて、もしかしたらこのままかも……なんて思っていたけれど、

――大丈夫。心から愛する人に出会うと、すぐにわかるよ。

父さんも、伯父さんも、宗一郎さんも、伊織さんも……みんな、同じことを言っていた。
もしかしたら、これがそのことなのか?

まだ自分でも未確定な気持ちだ。

今はただ、この家に、そして彼に受け入れてもらえることだけ考えないと!

俺はパンと両頬を叩き、部屋を出てキッチンに向かった。

彼は絢斗さんとソファーで楽しそうに会話をしている。
俺に見せていた緊張の表情とは違って柔らかい。

もうすっかり絢斗さんには慣れているということなのだろう。
そんな姿に羨ましいと思ってしまう。

「昇、直純くんのコーヒーを用意してくれないか?」

「あ、はい」

手慣れた手つきで絢斗さんのコーヒーを淹れる伯父さんは、もう絢斗さんの好みも全て頭に入れているんだろう。

「直純くんは、最近コーヒーを飲み始めたばかりだから、コーヒーの香りや味を感じる程度でいい。あとはたっぷりのミルクと砂糖を入れてあげてくれ」

「わかりました」

彼に美味しいと言ってもらいたい!
その一心でカフェオレを作る。

「どうですか?」

「ああ、見た目はいいね。あとは味かな」

とりあえず、見た目の第一関門は突破だ。
砂糖が甘すぎたり、逆に足りなかったりしていなければいいんだけど……。

ドキドキしながらも必死に冷静を装って彼にマグカップを差し出す。

彼の口がそのカップにつき、ごくっと喉が動くまで俺は目を離すことができなかった。

「――っ、すごく美味しいです!」

直純くんのその、花が綻ぶような可愛らしい笑顔を見た瞬間、俺はわかった。

彼が俺の運命だったんだと。

まさか、こんな形で運命の相手に出会うなんて思わなかった。
でも、うまくいけば、彼とここで一緒に暮らせる。

まだ14歳だという彼に、手を出せないのはもちろんわかっているけれど、この4年の間に直純くんの気持ちを俺に向けることはできる。

これは運命が与えてくれた、最高のチャンスだ!
俺はこのチャンスを絶対に逃したりはしない。


「このプリンはどこで買ったんだ? 美味しそうだな」

心の中で誓いを立てていると、伯父さんに声をかけられた。

「これ、母さんがハマってるケーキ屋のプリンなんですよ、絢斗さんなら知ってるかな? 『Arco irisアルコイリス』」

「あっ、前に皐月が持ってきてくれたケーキ屋さんだよ。あの時はショートケーキとチーズケーキを食べたけどすごく美味しかった」

「母さん曰く、ここのはどれも美味しいけどこのプリンアラモードが絶品なんだそうですよ」

「そうなんだ。二葉ふたばさんのおすすめなら、期待しちゃうな」

嬉しそうに笑う絢斗さんと直純くんの前にプリンアラモードを乗せた皿をおくと、

「ありがとうございます」

と可愛らしく微笑まれる。
ああ、この笑顔。最高に可愛い!!

「わぁ、果物がいっぱい乗ってますね」

「ああ、直純くんはどの果物が好き?」

「えっ、えっと……苺が好きです」

「そうか、王道だよね。俺も苺好きだよ」

「あっ、えっと……お揃い、ですね」

少し照れたように返してくれる直純くんの表情に癒される。

直純くんは、嬉しそうにプリンアラモードのカップを眺めてから、ゆっくりと苺を口に入れた。

「んっ、美味しいっ!!」

「――っ!!!」

ああ、本当に可愛すぎる。



「あの……皐月さんって、お友達ですか?」

プリンを食べ終わって、一息ついた頃に思い出したように直純くんが絢斗さんに尋ねた。

「んっ? ああ、そう。学部は違うけど同じ教授で歳が同じだから仲良しなんだよ」

「へぇー、先生たちで仲良しって楽しそうですね」

「ふふっ。今度皐月にも紹介するね。直純くんのこと話したら会いたいって言ってたから」

「えっ、そうなんですか? でも、緊張しちゃいますね」

「大丈夫、それなら俺も一緒に会うよ」

不安そうな直純くんを見て、俺は思わず会話に入り込んでしまっていた。


「えっ……」

目を丸くして俺を見つめる彼をみて、しまった! と思いつつも、そんな彼の表情を可愛いと思ってしまう。

「あ、いや……その、俺たち年も近いし、大人の中で一人だけよりはいいかなって……」

慌てて理由をつけて説明すると、

「ふふっ。そうだね。昇くんが一緒の方が直純くんも心強いかもね」

と絢斗さんが助け舟を出してくれる。

その言葉に直純くんは少し恥ずかしそうに頬を染めて、

「あの、じゃあお願いします……」

と言ってくれた。

「ああ、任せておいて!」

彼の言葉が嬉しくて、ついつい声が大きくなってしまったけれど、そこは許してもらおう。

直純くんの食べていたプリンアラモードが空になった頃、

「そういえば、直純くんがやりたいことを探すって話をしていたでしょう? もしよかったら、昇くんに語学を習うのはどうかな?」

と絢斗さんが突然そんな話をし始めた。

「えっ、でも……」

直純くん自身は戸惑っている様子だったけれど、その話は気になる。

「やりたいこと探すって、どういうことですか?」

「直純くんね、今までやったことがない新しいことに挑戦しようと思っていろいろ探している最中なんだよ。それで、卓さんに料理を教えてもらうのもいいなあと思っていたんだけど、新しい言語を学ぶのも楽しいんじゃないかと思ったんだ。昇くんはどう思う?」

「あー、確かに新しい言葉を覚えるのは楽しいかも。話せるようになったら、その場所に行ってみたいとか、友人を作ってみたいとか思えるようになるし、いろんな国の言葉で自分の気持ちを表現できるようになるのは楽しいと思いますよ」

「うんうん、だよね。ねぇ、直純くんはどうかな?」

「えっと……僕……」

俺たちみんなに見つめられて、どうしていいかわからないのか、直純くんの顔がどんどん赤くなっていく。
心に傷を抱えているって言ってたし、あんまり無理をさせない方がいいのかもしれない。

「今すぐに返事をする必要はないよ。直純くんがやりたいと思った時に声をかけてくれたら、俺の方はすぐに対応できるから。でも、今までやったことがないことを始めるってかなりチャレンジだよね。直純くんはそれに挑戦しようと思っているだけすごいよ」

そういうと、直純くんはほっとしたように俺をみて笑ってくれた。

ああ、この笑顔を守りたい。
心からそう思った。
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