ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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絶対に君を守る!

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<side昇>

今日は午後から、来年度入学希望者を集めた、受験前の最後の説明会ということで在校生である俺たちは午前中授業。

今までなら村山や他の友だちとどこかで軽く食べて家に帰ったりしていたけれど、今は直純くんが俺の帰りを待ってくれていると思うと寄り道をする気にもなれない。

いつもより早いからきっと

――わぁーっ、昇さん! お帰りなさいっ!!

と笑顔で出迎えてくれるに違いない。

「なんだよ、やけに嬉しそうだな」

「えっ? そう見えるか?」

「そんなにやけた顔して何言ってるんだよ。鏡を見てみろよ。お前の笑顔に女子たちがキャーキャー言ってるぞ」

その言葉に周りに目を向ければ、教室だけでなく、廊下からも視線を向けられていることに気づいた。
こんな視線に気づかないなんて……それくらい、もう俺はいつだって直純くんのことで頭がいっぱいなんだろう。

「もうそんなに帰る支度してるけど、今日はどこかで食べていかないのか?」

「ああ、悪い。今日はすぐに帰りたいんだ。また今度な」

「わかったよ。あの例の件だけ、話が決まったらすぐに教えてくれ」

「ああ、ありがとうな」

担任が入ってきて、

「帰っていいぞー」

の声と同時に教室を飛び出して、急いで直純くんが待っている伯父さんの家に帰った。

事務所の入り口とは違う扉から中に入り、そのまま上がって鍵を開け中に入る。

「ただいまー」

早く帰れた嬉しさから、いつもよりも弾んだ声をかけたけれど、いつものように直純くんが走ってきてくれる気配がまるでない。
しんと静まり返っているのがなんとも不気味で、何かあったのかと一気に不安な気持ちが込み上げてくる。

絢斗さんは今日は午後からの講義だと話していたからリビングにいるはずなのにその気配もないのが余計に不安を増す。

普通なら二人でどこかに出かけているのかも……と思わなくもないが、今の直純くんを外に連れ出すとは思えない。
そもそも伯父さんが絢斗さんと直純くんを二人で外に出すなんてさせるわけがない。

事務所には伯父さんがいるはずだ。
先にそっちに顔を出してきたら話が聞けたかもしれないのに……。

そう思いつつも、とりあえず部屋に荷物をおいて考えようと中に入ると、直純くんの部屋の扉が少し開いているのが見える。

なんだ、部屋にいるのか。
もしかしたら集中しすぎて俺が帰ってきたことに気づいていないだけなのかも。

ほんの少しホッとしながら、直純くんに声をかけようと扉を開けると目に飛び込んできたのは、大粒の涙を流しながら絢斗さんの胸で泣き続ける直純くんの姿だった。

「直純くん? どうして泣いてるんだ?」

あまりの衝撃に思わず声をあげてしまって、伯父さんが駆け寄ってくる。

「昇、もう帰ってきたのか?」

「あ、うん。今日は午前中授業だったから……って、そんなことより、どうして直純くんが泣いてるんですか?」

「ちょっと深い事情があるんだ、お前が冷静に聞けるならここで話すが、大声を出すならお前の部屋に行こう。どうする?」

どうすると言われても……すぐにでも話が聞きたいけれど、すぐそばで泣いている直純くんを見たら冷静ではいられないかもしれない。

「じゃあ、俺の部屋で……」

「わかった。絢斗、少し直純くんを頼む」

伯父さんが声をかけると、絢斗さんは視線を直純くんに向けたまま頷いた。
それくらい今の直純くんは目が離せないということなんだろう。

俺がいない間に一体何があったんだ?

「昇、行こう」

伯父さんに促され、後ろ髪を引かれる思いで直純くんの部屋の扉を閉めて、自室に向かった。

「昇、そこに座ってくれ」

伯父さんの真剣な表情にどきっとする。
何か悪い話なのか……。

言われるがままに腰を下ろすと、伯父さんはゆっくりと口を開いた。

「実は、直純くんの父親から手紙が届いたんだ」

「えっ、手紙……?」

「ああ、それには、父親から直純くんとの決別が綴られていた」

「はぁ? なんだよ、決別って!」

「怒る気持ちはわかるが、とりあえず最後まで話を聞いてくれ」

思わず感情が昂って声をあげてしまった。
やっぱりこっちにきて正解だったかもしれない。

「はい。すみません」

素直に謝ると、おじさんは話を続けた。

その話によれば、直純くんの父親は離れて過ごすうちに、直純くんのこれからの幸せな人生に自分の存在は必要ないと思って身を引いたのだそうだ。

父親なりに必死に考えぬいて出した結論なのだろう。
けれど、自分の存在を忘れて幸せになって欲しいと書かれていた言葉に、直純くんはショックを受けているに違いない。

「あの、じゃあ……これから直純くんはどうなるんですか?」

「そのことなんだが……私と絢斗の子どもにならないかと話した」

「えっ? 伯父さんと、絢斗さんの子ども?」

「ああ、正式には私の息子として籍に入れるつもりだ。絢斗と同じようにな」

現在の日本ではまだ同性同士の結婚は認められていない。
同じ戸籍に入るには養子縁組をするしか方法がなく、その際は年長者の戸籍に入ることになっている。
絢斗さんは大学では緑川絢斗と旧姓を使っているが、正式には磯山絢斗で伯父さんの息子ということになっている。

今回、そこに直純くんを入れるということだ。
だから、戸籍上、絢斗さんと直純くんは兄弟になる。

「じゃあ、直純くんは俺の従兄弟ってことになるんですか?」

「戸籍上はそういうことになるな。将来、お前と直純くんが一緒に暮らすようになっても、同じ苗字なら都合がいいだろう?」

「確かに……でも、直純くんはそれでいいって言ったんですか?」

「いや、まだ返事はしなくていいと言っておいた。ゆっくりと考える時間も必要だからな。父親に別れを宣告されてすぐに私たちの子どもになるとは考えられないだろう? だが、そういう選択もあることは知っておいて欲しかったんだ。父親のことがなくてもここにずっと居られるとわかっていて欲しかったからな」

伯父さんはその手紙を読んですぐにこんなことを言い出したんじゃない。
きっと直純くんを預かった時からずっと考えていたんだろう。
それくらい、伯父さんも絢斗さんも直純くんを愛している。

「昇……お前が直純くんのそばについて、話を聞いてやってくれ。今の直純くんの心を癒せるのはお前の存在だ」

「伯父さん……はい、任せてください」

伯父さんはようやく笑顔を見せると、俺の肩をポンと叩いて、

「じゃあ、直純くんの部屋に行こう。きっとお前がくるのを待っているよ」

と言って立ち上がった。

直純くん……君のことを絶対に守ると誓うよ。
そう決意して、俺は伯父さんと共に直純くんの部屋に向かった。
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