ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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直くんに会わせたい人

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<side昇>

直くんが風呂に入るとすぐに伯父さんから話があると呼ばれた。
リビングではなく、伯父さんの自室に呼ばれたことが何か重要な話だと想像できた。

一瞬養子縁組の話かと思ったけれど、あれは直くんの意思を尊重すると言っていたから焦って何かを話すことはないだろう。
とすれば、カールの話か。

あの時のビデオチャットの様子だと伯父さんもカールのことは気に入っていたように見えたけれど、何か問題でもあったんだろうか。

そんな考えが頭をよぎったけれど、一人で考えていても意味はない。
とりあえず伯父さんの話を聞くだけだ。

「そこに座ってくれ」

言われた通りに一人がけのソファーに腰を下ろし、伯父さんが話を始めるのを待った。

「お前には直くんのおかれた環境について大まかな話はしたが、今から詳細を話す。しっかり聞いていてほしい」

その真剣な表情によほどの内容だと察せられて、思わずごくりと息を呑んだ。

直くんがある事件がらみの被害者だとは聞いていた。
その事件が今世間を揺るがしている櫻葉グループご子息の誘拐事件に関わっていることもわかっていた。
だからこそ、俺はそのニュースは見ないようにしていた。
けれど、伯父さんの話はさらにその上をいくものだった。

「誘拐されたご子息の一花くんは、何も知らないまま実行犯の下で奴隷のように育てられ、義務教育もほとんど受けられず成長し、15歳になってある飲食店の店主に養子として引き取られた。けれど、実際には養子縁組はされていないにも関わらず子どもにしてやったという名目で長時間の無料労働をさせられていたんだ。食事も満足に与えられず睡眠もほとんど取れないまま長時間働かされて、限界を迎えていたある日。店主に買い物を言いつけられ、外に出た時にトラックに跳ねられそうになった相手を庇って大怪我を負い、車椅子の生活を余儀なくされ、一生歩けないかもしれないと宣告された」

「えっ……」

誘拐されたその子がその後、そんなに酷い人生を歩んでいたなんて……。

「その時、一花くんが身を呈して守った相手が貴船の奥さまだったんだよ」

「貴船って……貴船コンツェルンの?」

「ああ、そうだ。貴船の奥さまは一花くんのおかれた環境を可哀想に思われて、一花くんを貴船の籍に入れたんだ」

「えっ? 養子ってこと?」

「ああ、だが、養子にしたのはそれだけが理由じゃない。貴船コンツェルンの現会長である征哉くんが一花くんを見初めたんだよ」

「見初めたって……」

「私が絢斗に、お前が直くんに抱いているのと同じ気持ちだ。征哉くんは一花くんを一目見てそう悟ったそうだよ。だから人一倍感情をあらわにして一花くんを守った。そして、一花くんを傷つけた者たちを全てに罪を償わせるために調査を入れ、誘拐の共犯者である直くんの母親を導き出したんだ」

その時の貴船会長の気持ちを想像するだけで身体が震える。
俺だって、直くんが同じ立場ならどんなことをしてでも犯人を捕まえただろう。
それくらい怒りに震えていたんだ。

「普段の征哉くんなら、いくら犯人の近親者とはいえ子どもの直くんに敵意を向けることはないが、一花くんとほとんど同じ年頃で、幸せそうに過ごしていた直くんを見て憎しみを抱いてしまったと言っていた。今はそのことを悔い、反省していて、直くんともう一度じっくりと話がしたいと言ってきたんだ」

「えっ、でも……今の直くんには……」

「ああ、そうだろう。私もわかっているし、それは征哉くん自身もわかっている。だから、征哉くんと対面させるよりも前に直くんに会わせたい人がいると提案されたんだ」

「直くんに会わせたい人? それって誰ですか?」

「一花くんを、トラックで轢いた犯人だよ」

「えっ――!!」

思っても見なかった相手に、俺は一瞬聞き間違いかと思ってしまった。

「な、なんでその人が? 貴船会長にとっては直くんくらい憎い相手じゃないんですか? 一花さんの足を……」

「そうだな、誰もがそう思うだろうな。だが、その犯人……谷垣くんというんだが、今は一花くんの専属の理学療法士として一花くんのために日々リハビリをしているんだ」

「犯人が……理学療法士。で、でも……一花さんも自分を傷つけた相手を専属トレーナーにするなんて!」

「普通はそう思うだろうな。だが、一花くんは理学療法士として、もう一度歩けるようにリハビリを支えたいといった谷垣くんの思いを受け入れたんだ。今では、二人は兄弟のように仲良くリハビリに励んでいるようだよ。頑張れば将来歩けるようになるそうで頑張っているよ」

「そんな……」

「谷垣くんが一花くんを傷つけて一生歩けないかもしれないという十字架を背負わせたことは紛れもない事実だ。だが、今はお互いに相手のことを思って過ごせているんだよ。これは直くんも同じじゃないか? 直くんは何も悪いことはしていない。だが、一花くんをあの酷い環境にやったのは直くんの母親だという事実は一生消えない。直くんはこれからもずっとその罪悪感に苛まれ続けるだろう。それは、私やお前では決して共感できない部分だ。だが、一花くんに対して同じ罪悪感を持つ者同士、谷垣くんとなら直くんも悲しい胸の内を話せるんじゃないか? だからこそ、征哉くんは谷垣くんとの対面を勧めてきたんだと思う」

確かにそうかもしれない。
その谷垣さんが今、被害者である一花さんとの関係を修復しているというのなら、直くんにもきっとチャンスはある。
元々持たなくてもいい罪悪感だけど、優しい直くんだから、親の罪を自分のものとして罪を償う気持ちでいるんだ。
そんな気持ちを持っている直くんにとって、谷垣さんの話は気持ちを変えるために必要なものかもしれないな。

「私はこれを直くんにとっても良い機会だと思っているんだ。それで、早ければ今度の土曜日の午後1時にその対面が叶うと思う。昇も一緒にいてやってくれるか?」

「もちろん! それは俺からお願いしたいくらいだけど、直くんには先に話しておくんですか?」

「直くんと話をしたい人が来ることは伝えようと思うが、あまり緊張もさせたくないし、先入観を持たせたくないから、詳しいことは伝えないつもりだ」

「わかりました。じゃあ、俺もそのつもりでいます」

「言っておくが、谷垣くんが来たら直くんと二人で話をさせるつもりだからな」

「えっ、でも二人っきりは……」

「ふふっ。大丈夫だ。彼には最愛の恋人がいる。その恋人も一緒に来るから心配はいらないよ」

その言葉にホッとしつつも、土曜日のことを考えるだけで緊張してしまっている自分がいた。
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