ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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初体験がいっぱい

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<side直純>

海の近くにある大きな建物。それが今から行く水族館らしい。

僕は家族で海に行った経験がない。それどころか、水族館にも映画館にも遊園地にも行ったことがない。そもそもどこかに泊まるような旅行も初めてで、家族で行った思い出があるとすれば、近所の公園くらいかな。
仕事で忙しい父さんがたまに連れ出してくれて、迎えにきた母さんと三人で歩きながら帰ったのは覚えてる。
あの時の僕は少なからず幸せだったんだと思うけど、今の幸せを知ってしまった後では少し寂しい思い出だ。

駐車場に着き、外に出るとふわっと漂ってくる匂いが違うことに気づく。

「わぁー、海の香りがするね」

あやちゃんの嬉しそうな声が聞こえてきて、これが海の香りなんだと知った。これも初めての経験だ。

昇さんから離れないようにってパパに言われたから、僕はしっかりと昇さんにくっついた。
こんな場所でみんなとはぐれてしまったら怖くてもう帰れなくなってしまうから。

離れないようにドキドキしながらも、目の前の大きな建物の中に入れるワクワク感で感情がおかしなことになっている。

チケット売り場と書かれた場所に進んでいくパパとあやちゃんの後ろから僕と昇さんもついていく。

「あそこでなにをするんですか?」

「水族館に入るためのチケットを買うんだよ。大人や子どもで料金が違うんだ。あ、そうだ。ちょっとごめんね」

昇さんは何かに気づいたみたいでパパに声をかけていた。僕が中学生がどうとか話をしていたけれど、大丈夫だったみたい。そして持っていたカードみたいなものをパパに渡すと、

「高校生も料金が違うみたいだから俺の学生証を渡したんだ」

と教えてくれた。

僕たちの順番が来てパパがみんなのチケットを買ってくれた。

「これ、直くんのチケットね」

パパから渡されたチケットには可愛いイルカさんの絵が載っている。これ、すっごく可愛いな。今回のお出かけの思い出として宝物にしよう。

そう思っていたのに、

「あそこの入り口でそのチケットを係の人に渡すんだよ」

と言われてしまった。

「これ、もうあげちゃうんですか?」

あまりにも寂しすぎてつい聞き分けのない言葉が漏れてしまったけれど、半分返ってくるからと言われてホッとする。イルカさんが載っている方だったらいいなと思いながら、係の人のところに向かった。もちろんこの時も昇さんと一緒に。

青藍せいらん水族館にようこそ!」

笑顔で声をかけられて

「あ、あのお願いします」

とチケットを渡すと、手慣れた手つきでピリッと半分に切り分けて

「ごゆっくりお楽しみください!」

と言いながら手渡してくれた。

渡されたチケットにはイルカさんが載っていてホッとする。

「ありがとうございます!」

お礼を言いながら、僕は貰ったチケットをシャツの胸ポケットに落ちないように入れて、ポンと叩いた。

入り口から中に入ると一気に部屋の中が暗くなる。でも真っ暗じゃなくてあちこちに明るい水槽が見える

「直くん、あっちで海の生き物たちと触れ合えるよ。行こう!」

前を歩いていたあやちゃんが笑顔で振り返りながら教えてくれた。

四人で一緒に行くと、上が空いている広い水槽にヒトデや長細い生き物がたくさんいるのが見える。

「この細長いのはなんですか?」

「これは、ナマコだよ。ね、伯父さん」

「ああ。怖くないよ」

パパはそう言ってくれたけれど、見た目がちょっと怖い。でも触ってみたい気はする。だって、初めて来たんだもん。色々体験しないともったいない気がする。

どうしようか悩んでいると、

「直くん、一緒に触ってみようか」

と昇さんが声をかけてくれた。

「俺が先に触ってみるから、直くんは俺の指の近くを触ったらいいよ」

「は、はい」

昇さんは僕の返事を聞いて、袖を捲り上げて手のひらを水の中にぽちゃんと入れた。

昇さんの人差し指と中指が、ナマコの背中に触れる。だけどナマコは何も動かない。これなら大丈夫かも。

僕は気合を入れて袖を捲り上げ、水の中に手を入れた。

「わ、もっと冷たいと思った」

「海水の温度にしてあるんだよ」

そんな発見がなんだか嬉しい。ドキドキしながら昇さんの指のすぐ近くでそっと人差し指だけをナマコに当ててみた。

「わっ、不思議な感触」

ぬるっとしてぷにっとして、ちょっとざらっとして一言では言い表せない不思議な感触。でもそれがなんだか楽しかった。
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