ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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幸せの食育

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<side卓>

「んっ……」

腕の中の絢斗が身動いでゆっくりと目を開ける。
私の顔が絢斗の瞳に映ったところで優しく声をかけた。

「おはよう。絢斗」

「あっ……す、ぐるさん……おはよう。今日はお休みなのにもう起きてたの?」

「ああ。絢斗の可愛い寝顔を見てた」

「私もたまには卓さんの寝顔を見たいな」

「ははっ。じゃあ、今からもう一度一緒に寝ようか」

「いいね」

笑顔で私の提案に乗りながら、抱きついてきてくれる。
いつまで経っても私の絢斗は可愛い。

「あ、そうだ。今日はお義父さんが朝食を作ってくれるんだよね?」

「ああ、だから今頃孫二人に囲まれて楽しい朝食をとっているだろう」

「そっか。お義父さん、本当に嬉しそうだったよね。昇くんとの仲もちゃんと認めてくれてたし」

「そうだな。戦前生まれで頑固なところもあるが、弁護士という職業柄、革新的なところがあるからな。あの時代に私たちのことを認めてくれた父だから、そこは心配はしてなかったよ」

「うん。そうだったね。お義父さんもお義母さんも最初から優しかったもん。私、すごく嬉しかった」

絢斗と一生を共にしたいと告げた時、驚いていたけれど、私が決めたことならば反対はしないと言ってくれた。
その代わりに絢斗の人生に責任を持てとも言われた。そして、父も母も絢斗のことを自分の息子のように可愛がってくれたし、毅の妻でもある二葉さんとも区別せずに同じように、息子の大事なパートナーという認識を変えることはなかった。
二葉さんも私たちを奇異的な目で見ることもなく、それどころか絢斗とは壁を作ることもなく親友として付き合ってくれた。
あの父と母に育てられたからこそ、私と毅は、共に素晴らしい相手と巡り会うことができたと思っている。

父と母は当時では珍しくないお見合い結婚だったが、そこで運命の相手と巡り会えたのは私が絢斗と巡り会えたのと同じくらい奇跡的なことだっただろう。

「そんな優しい父の朝食を食べに行こうか。さっきから絢斗のお腹の虫が鳴いてるぞ」

「えっ、聞こえてた?」

「ああ、可愛い音が聞こえていたよ」

「恥ずかしいっ」

「良いんだよ。可愛いから」

「卓さん……」

嬉しそうに見上げる絢斗の小さな唇に重ね合わせる。
チュッと小さな音を立てて、ゆっくりと唇を離した。

「じゃあ、行こうか」

「うん」

一緒にベッドを下り身支度を済ませて部屋を出ると、キッチンから漂ってくる甘い香りに絢斗が嬉しそうに顔を綻ばせた。

「お義父さん、おはようございます」

「ああ、絢斗くん。おはよう」

「良い匂いがしてますね」

「今から君たちの分も焼いてやろう」

「わぁ! やったぁ!」

絢斗の笑顔に父は嬉しそうにキッチンに向かった。

「パパ、あやちゃん。おはようございます」

「直くん、おはよう。もう朝食は食べた?」

「はい。おじいちゃまが作ってくれたパンケーキ。ふわっふわですっごく美味しかったです」

「ええー、楽しみ!」

絢斗は無邪気に喜んでいるが、私は父がパンケーキを朝食に選んだことに驚いていた。
食べさせたいものがあると言っていたが、まさかパンケーキとはな。

「今日の朝食はパンケーキですか?」

びっくりしてキッチンにいる父の元に向かい話しかけると、父は得意げな表情を私に見せた。

「シアトルのキッチンカーの店主に近々可愛い孫に会いに日本に帰ると話をしたら、ふわふわのパンケーキの焼き方を教えてくれたんだよ。ふわふわにするにはメレンゲの量が大事らしい」

そう話す父の手元ではしっかりとメレンゲが作られている。

「直くんのために頑張ってくれたんですね」

「まぁな。お前と一緒だ」

「えっ?」

「ははっ。隠さなくてもいい。あのストックの量を見ればわかる。直くんへの愛情の深さはな。食事は生きる上で重要なものだから、愛情たっぷりな料理を食べさせるのもある意味食育だよ」

「父さん……」

この歳になって父に褒められるとは思ってもなかったが、嬉しいものだな。

「それに今日は私も直くんに食育してもらったよ」

「えっ? それはどういうことですか?」

「直くんと昇が私のためだけに特別メニューを作ってくれたんだ。具が入っていない塩おにぎりと味噌汁。それに卵焼き。直くんの小さなおにぎりは最高だったな」

「塩、おにぎり……」

父の大好物、か。
父にとってこれほど嬉しい朝食はなかっただろうな。

「さぁ、もうすぐパンケーキが焼けるから絢斗くんのコーヒーを淹れてやれ。それはお前がしたほうがいいだろう?」

「はい。それは私の役目ですから」

父の横で絢斗と自分のコーヒーを落としていく。
二人でキッチンに並ぶ姿に何となくこそばゆい感じがする。
だが、絢斗と直くんが楽しそうにおしゃべりをしているのが見えて私も父も自然と笑みが溢れていた。
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