ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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三台目のピアノ

家の中に案内すると直くんはそのまま一直線にキッチンに向かった。
その後ろ姿を見ながら、そっと賢将さんに視線を向けると

「直くんからのサプライズがあるんです」

と小声で教えられる。

「なので少し冷蔵庫をお借りできますか?」

「もちろん」

直くんからの嬉しいサプライズか。ここは何も知らないふりだな

「直くん、ケーキは冷蔵庫に入れておいてくれ。もう使えるようになっているから」

キッチンには視線を向けずに声をかけると、はーいと嬉しそうな声がキッチンから聞こえてきた。
きっと今頃冷蔵庫にそれをしまってくれているのだろう。

「外からは見えない容器に入っているので、冷蔵庫を開けても見えませんから安心してください」

前もって教えてもらって助かる。
直くんが少し浮かれた様子で私たちの元にやってきた。

「暖房を入れておいたが寒くないか?」

「大丈夫です。あっ、あれ!」

直くんが和室を見ながら笑顔になった。
どうやらあれに気づいたらしい。

「こたつを出しておいたんだ。あそこでのんびりしていていいよ」

目を輝かせてこたつへ駆けていく。
近頃ではこたつのない家庭も多いと聞く。
部屋中を暖めてくれるものも増えたから無理もないが、やはり私は冬になるとこたつを出したくなる。

掛け布団とこたつのヒーターは数年ごとに買い替えてきたが、テーブルは卓が高校生になった頃に買い替えたのが最後だからかなり年季が入っている。だが、それもまた味だと思っている。
あのこたつに入りながら勉強をしていた卓にまとわりついていた毅の姿や、二人が独立して沙都と二人になってこたつが広く感じるようになった時のことも今でもはっきりと思い出せる。

そのこたつに今、卓の息子で私の孫となった直くんが入っているのかと思うと実に感慨深い。

「おじいちゃま、すっごくあったかいです」

「そうか。それはよかった。何か飲み物でも淹れよう」

賢将さんにも座るように声をかけ、私と賢将さんはお茶を、直くんにはさっき買ってきたジュースを出した。

「もうすぐピアノが搬入される。それが終わったら、近くにいいお店があるからランチを食べに行こうか」

「あっ、もしかして玉響ですか?」

思いがけず正解を告げられて驚いてしまった。

「直くん、玉響を知っているのか?」

「この前、パパとあやちゃんと三人で行ってきました。その日に桜守の合格通知が来て、お祝いに連れて行ってくれたんです。そこですごく美味しい特別ランチを食べさせてもらいました」

特別ランチ、か。
おそらく祥太郎くんが直くんのために本当に特別に作ってくれたのだろうな。
直くんがすぐに店の名前を口にするほどすごく印象的で美味しかったに違いない。

「そうか。それはよかった。今日は私たちと三人で行こう。可愛い孫と一緒にいるところを祥太郎くんたちに見せてあげたいからな」

玉響はいつも窓際の指定席に座ってゆったりとコーヒーをいただく、私の一人時間を支えてくれる落ち着いた雰囲気の店で、私の心の拠り所になっていた。

そこに可愛い孫を連れて行ける日が来るとは想像もしていなかったが、私のことをいつも気遣ってくれていた彼らにはお礼がてら一緒に行くのもいいだろう。

それからすぐにピアノの搬入業者がやってきた。
来てくれる人たちは皆三度とも同じ人だから安心だ。

「直くんはここで座ってみていなさい」

素直に返事をする直くんをこたつのある和室に残し、私と賢将さんで玄関に出迎えに行った。

「庭から搬入したほうが入れやすいだろう」

搬入の責任者を一人、庭に案内しピアノの置き場所を見せると大きく頷いた。
そして、すぐにピアノが運ばれてくる。

数人がかりで運ばれたピアノはあっという間に設置され、古いダイニングルームが真っ黒なグランドピアノの美しい姿と見事に調和して思わず感嘆の声が漏れた。

直くんに視線を向けると、美しいピアノに魅入っているのがわかる。

「この短期間に三台ものピアノをお買い求めいただき設置したのは初めての経験でしたが、全てのご自宅にピッタリなものをお選びいただき嬉しく思っています。どうぞ末長くお使いください」

搬入業者は大満足の仕事をしたとでもいうように満面の笑みで帰っていった。

「直くん。せっかくだから一曲弾いてくれないか?」

私の声かけに嬉しそうにピアノに駆け寄ってきた直くんは、嬉しそうにピアノと同じ色の椅子に座り、真っ白な鍵盤に人差し指を当てた。

ポーンと美しい音が広がる。

ああ、沙都が琴を弾いていた時のことを思い出す。
ここにもまた幸せの音が響き始めた。
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