ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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大おじさんの涙

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玄関のチャイムを鳴らすとインターホン越しに直くんの声が聞こえた。

「俺だよ。昇」

「昇さん、おかえりなさい! 今、開けますね」

その嬉しそうな声に俺が帰ってくるのを待ってくれていたようで嬉しくなる。

カチャっと鍵を開ける音が聞こえて、引き戸を開けると可愛い直くんの笑顔に出迎えられた。

「おかえりなさい」

「ただいま」

笑顔の直くんを抱き寄せてちゅっと唇を重ねる。
それだけで一気に幸せになる。
直くんが俺の手を握ろうとして指先に触れた途端、身体を震わせる。

「わっ、冷たい!」

「あ、ごめん」

走って帰ってきたから身体中熱いけど、指先は冷えていたみたいだ。

「今日、外寒かったですもんね。大丈夫です、僕があっためてあげます」

直くんは俺の冷たい手を嫌がるどころか、俺の両手を直くんの小さな両手で握り、はぁー、はぁーっとあったかい息をかけてくれる。そしてまだ冷たい俺の両手を自分の頬に当てる。

俺は直くんの体温を吸い取ってどんどんあったかくなっていくけれど、直くんは冷たいはずだ。

「直くんが風邪ひくよ」

「大丈夫です。僕、ずっとあったかいこたつに入ってたので身体も全部ぽかぽかなんです。それより昇さん、少しはあったかくなりましたか?」

「直くんのおかげであったまったよ。ありがとう」

俺のその言葉だけで嬉しそうに笑ってくれる。
ああ、もう本当に直くんは可愛すぎる。

手を繋いで一緒に中に入ると、一番目立つ場所に大きなピアノが置かれている。

「じいちゃん、大おじさん。ただいま。ピアノ、ここに置いたんだね」

「ここにある方が、直くんの演奏をみんなで聴けるからね。この家に揃うのはイベントの時だから、あえてここにピアノを置くことにしたんだよ」

「いいね! 直くん、俺急いで着替えてくるからピアノ弾いてよ。直くんの演奏聴きたい」

「わかりました」

直くんが指慣らしのためか、さっとピアノの椅子に腰を下ろした。

その姿を見送って俺も急いで手洗いを済ませて、着替えに行く。
直くんと昨日の夜に詰めておいたお泊まりセットに俺の部屋着を入れてもらっている。

奥の和室に置かれていたバッグから部屋着を取り出して着替える間もずっとピアノの柔らかな音色が聞こえていた。

楽な姿になってみんなのいる部屋に戻ると、じいちゃんと大おじさんがピアノのすぐ近くにあるローソファーに座ってのんびりしていた。

「直くん、さっき弾いてくれたあの曲、弾いてくれないか?」

じいちゃんからのリクエストを聞いて直くんが曲を弾き始める。

これはばあちゃんが琴でよく弾いていた曲か。
懐かしい。

琴とピアノとでは同じ演奏でも全く違うもののはずだけど、なぜだろう。
直くんのピアノを聞いていると、ばあちゃんを思い出す。

まるでばあちゃんとの二重奏を聴いているようだ。
だからじいちゃんがリクエストしたんだろうか。

すごく落ち着くな。


「直くん、すごくよかったよ。めちゃくちゃ感動した。直くんが疲れてないなら、もっと聞きたいな」

「何がいいですか?」

「俺はあんまりわからないから、直くんの好きな曲を弾いてほしい。あ、大おじさんたちがリクエストがあるならそれでも……」

俺は大おじさんに視線を向けたけれど、大おじさんは笑顔で首を横に振った。

「直くんの演奏が聞きたいから好きな曲を頼むよ」

「わかりました」

直くんは嬉しそうに告げると、ピアノを前に深呼吸をして指を鍵盤にのせた。

「あ、この曲知ってる」

耳馴染みのある曲が聞こえてきて楽しくなるが、じいちゃんたちはどうだろう?
そっと視線を向けると、大おじさんが驚きの表情を浮かべている。

どうしたんだろう?

気になったけれど、直くんの演奏の邪魔をしたくない。
直くんの演奏に心を癒されつつ、大おじさんをみると直くんの曲を聴きながら涙を流している。
じいちゃんがそっとハンカチを渡すと、涙を拭い、大おじさんは顔を上げたまま目を瞑っていた。

もしかしたらこの曲に思い出があるんだろう。
いや、絶対にそうだろうな。

直くんがそれを知ってて選んだのかわからないけれど、あの大おじさんを泣かせるなんて……直くんは凄すぎる。

直くんの演奏が終わって、なんて声をかけようか悩んでいたけれど、大おじさんが立ち上がり直くんの元に向かった。
俺とじいちゃんはその様子を見守るしかなかった。

「直くん、最高の演奏だったよ。ありがとう」

「おじいちゃんに喜んでもらえて嬉しいです。おじいちゃんが喜ぶからって、おばあちゃんが教えてくれたんですよ」

「秋穂が……やっぱりそうか……。直くんが演奏している間、ずっと秋穂の気配を感じていたよ。秋穂が近くにいてくれているんだな」

「はい。そこに。おばあちゃまと一緒にいますよ」

笑顔で教えてくれる直くんに、俺もじいちゃんも大おじさんも驚くしかなかった。
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