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伝説と衝突って本気か!?

2話

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がらがらと引かれる馬車。秋の色も徐々に見え始めたそんな心地よい昼下がり。日本で言えば9月頭といった頃なのだろうか。

「ミシェルはまだそういう経験がなかったのね!?なになに、今まで私をからかっておいて、わたしより経験がないじゃない?」
大層嬉しそうなミシェル。必死さすら感じられるリリーへの弄りは最早同情の余地すらある。
なんというか、そう。惨めだ。

「う、うるさいなぁ。そういうのは好きな人とって決めてるんだよ。アプローチなら沢山されてきたわ!」
顔を赤らめながらも答えるリリー。まぁ、それもそうだよな。リリーは外見は本当に美しいのだから。

「まぁ、リリーがモテないわけないもんな。凄く美人だし。スタイルも良い。」
「おぉ、なんだ、お前急に。ちょっとそんなこと言われても何も出ないからな?」
この手の話題になると随分しおらしくなるリリー。
とてもギャンブル中毒の女には見えない。

「ミツルさん!クランケットの町が見えてきましたよ!」
馬車の運転手が声をかけてくれる。随分と平穏に済んだのは、やはり町で一番の運転手を貸してもらったからということなのだろう。流石とも言うべきか。

「ミツルさん!クランケットです!やっと帰ってこれましたよ!」
「住めば都とはこのことねぇ。なんの変哲もないようなこの町でも、やっぱり帰ってくると安心するのね。」
「よし!換金だ!バラキエルは1億だから全員で割っても2500万ハンスだぞ!なにに使おうかな!」
お前はまずは借金返せ。なにをさらっと水に流そうとしているんだお前は。

でも、2500万か。当分はゆっくりできそうで安心した。龍の件でごたつくまではのんびりしていよう。
…まぁ、龍の件が起きたら必死に謝って許してもらおう。そして、極力はなにもしないでいたい。


町の入り口に辿り着き、運転手は馬車を停める。
「皆さん!到着しましたよ!長旅お疲れ様でした!」
長旅と言っても半日もかかっていないんだけどな。本当に行きの苦労はなんだったのだろう。

俺たちは運転手さんと互いに例を言い合うとその場を離れ、町の中へと入っていった。
なにはともあれ、まずは酒場へ。換金をしなくてはならない。

「よっしゃ!まずは換金をするぞ!リーダー早く早く!」
そんなに焦らなくても受付嬢は逃げません。まぁ、でもそうだな。受付嬢には一つ文句を言ってやらねばなるまい。

宝の地図と嘘をついて戦わせたこともそうだし、正直、あんな化け物と戦うのに10万ハンス程度とか少なすぎるだろ。途中でガゼル売った金で過ごしてたわ。

リリーがいつもの酒場に到着すると、勢いよく扉を開ける。
「たのもーう!帰ってきたぞ!」
静まり返る酒場。リリーの帰還がそんなにも珍しかったのか。さてはこいつら知ってたな。

俺が酒場に入ると、まず見たのが受付嬢の方。凄く気まずそうに目をそらしている。まぁ、そうなるわな。

そんな受付嬢の様子を見ると怒るにも怒れなくなったので、俺はとりあえず換金をするために受付嬢のところに行った。そして、黙ってステータス帳を見せる。
「凄い宝だったよ。まさか動くとはな。」
「ハハハ…。」
俺の皮肉に受付嬢はつい苦笑い。こんなにも字義通り苦しそうな笑いはそうそうない。

「いや、まぁ。はい!まさか、でも。あのバラキエルを本当に狩ってくるなんて。堕天使との戦闘なんて、それこそ最早英雄ですよ!おめでとうございます!」
倒したら英雄レベルのモンスターとか。お前、俺たちのこと殺そうとしてたのかって責められてもおかしくないからな?

そんなことはお構い無しに、報酬金に他のやつらは浮かれている。
酒場も大盛り上がりだ。

「勇者ミツルにかんぱーい!」
「この町のヒーローからこの地方のヒーローになったな!」
「これは龍の討伐の日も近いんじゃないのか!?」
悪い気はしない。悪い気はしないんだが、龍とかは本当に無理だからやめてくれ。

報酬の確認に行っていた受付嬢が戻ってきた。
「さて、ミツルさん。騙していたことは申し訳ありませんでした。今回の報酬は1億円になります!」
酒場はその額を聞くと大盛り上がりとなった。

まさか、家の机の引き出しの中から始まった冒険がこんな結果になるなんて思いもしなかった。
これだけ聞くとどこぞの青狸の話と勘違いされそうだ。

でも、命の危険をさらして、人に感謝されて、現実を知って。

そうして俺たちは今回の旅でかなり強くなった。
身体的にも精神的にも。
だから、今回のリリーの借金も受付嬢の嘘もガブの怠惰もミシェルのめんどくさい絡みも。

全て許そう。そんな気分になった。

「今日は吐くまで飲みますよー!」
お前は懲りろ。このワンチャン天使が。

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