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伝説と衝突って本気か!?

9話

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泣きじゃくる女の子が俺にしがみついて離さない。
「お兄ちゃんたち、冒険者さんなんでしょ!?助けてよ!」
「わかりましたから、落ち着いてください?必ず助けてきますから、ね?」
 
優しく女の子に接しているガブ。珍しく天使らしいことをしているじゃないか。
…て、おい。
 
「何を勝手に助けにいくなんて決めてんだよめんどくせぇ。」
仮にも天使の男が俺の気持ちを代弁してくれた。助けにいくなんてそんなことする気力はないのに。
 
「うぁぁぁぁぁ、たすけてよぉ!」
あぁ、もううるさい。
こんな喚かれる位なら助けに行くだけ行こう。
「わかったよ、助けに行くから泣き止んでくれよ。」
「ほんと?リーダーのお兄ちゃん。」
「あぁ、だから泣くのは止めてくれ。」
「わかった…。」
そういうと女の子は唇を噛みながら泣かないように努めていた。
この子は強いな。
 
「おい、お前良いのかよ。」
「バラク、ありがとうな。お前は天使みたいなやつだ。けど、大丈夫。行こう。」
「まぁ、お前が良いなら良いんだけどな。」
バラクは少し不思議そうな顔をしながらも納得してくれた。
多分なんだが、こいつ悪いやつではないんだろうな。 
 
「よしよし、お嬢ちゃん!何があったのかおねぇちゃん達に教えてくれるかな?」
優しく問いかけるリリー。こいつ母性本能に目覚めてるな。
 
女の子は泣くのを堪えながら、話始めた。。
「えっとね。パパとママと3人で畑の仕事をしていたの。そしたらね?畑に普段は来ないような大きなキメライオンのつがいがやって来たの…。パパが戦ったんだけどダメで。結局二人とも連れていかれちゃったの。」
「つがいですって…?」
やめろ、今お前の相手をしている余裕はない。
 
というより、え?ライオンに連れていかれたってそれ生きてるんだろうな?
「妙だな。」
リリーが呟く。こいつは本当にこの世界に詳しいな。
「何が妙なのかしら?」
「いや、この辺りに辺りにそんなモンスターの生息は確認されていないぞ。聞いたことがない。」
「うん、普段はいてもガゼルくらいだから…」
そんなところに急にライオン?てか、キメライオンってもしかして…
 
「なぁリリー。キメライオンって…?」
「そうだな、私たちの出会いのきっかけになったあいつだ。あれはまだ小さめのやつだったから今回も同じとは言えないけどな?」
そうだったのか。あれでも小さめとは恐ろしいな。
 
「それじゃ、まずはお嬢ちゃん。畑の辺りに連れていって貰えるかな?」
「うん。」
そうして俺たちは畑の辺りへと向かっていった。
途中で出てくるモンスターもグラスドッグや大型の熊のような生き物などで…。
 
「お前ら、ちょっとどいてろよ!」
バラクがそう言いながら睨みを効かすとモンスター達は慌てて逃げていく。
何者なんだこいつは。助かった。
正直、こいつがいなかったら俺たちも女の子を守りながらだと危なかったぞ。
 
「なにがどうなっていやがる。おい!処女!お前の言ってたことは正しいんだろうな。」
「おい、お前撃つぞ。…いや、間違えてはない。それにもし私の言った通りでないなら、こんなところに畑なんて作るわけもない。」
それもそうだ。わざわざそんな危険なところで農作業なんてしないだろう。
 
そこから少し歩いて、畑が見えてきた。
「ここ、畑。」
「嘘…。こんなのって酷すぎます…。」
女の子が指を指したその先には確かに畑らしきものがあったのだが。
すっかり、モンスターによって荒らされてしまっていた。
 
そしてミシェルは恐怖の色に顔を染めながら震える。
「ねぇ、あの足跡って…。もしかして。」
「もしかしても何もない。あれしかないだろ。」
「さすがに。こいつは厄介なことになりそうだなおい。おい、悪魔。お前の血の出番だぞ。」
ミシェルはバラクの悪魔呼ばわりもおそらく聞こえていない。
 
それもそのはずだ。俺たちの知っているキメライオンからは想像もつかないような大きさの足跡が畑には残されていた。
それは例えるなら、家一軒建つのではないかと思うほどの大きさであった。
 
「まぁ、足跡が残っていたのはラッキーだったな。」
「でも、ここに女の子を1人では置いていけないわ。かと言って連れていくわけにも。」
バラクとミシェルが真面目に話している。事の深刻さを理解しているからか、いつものようなふざけは一切消えていた。
 
「いや、全員で行くべきだ。この子を守るだけの戦力とキメライオンを倒す戦力。両方とも削ぐわけにはいかない。かと言って今から応援を呼んでいれば手遅れになる。だから、危険だが全員で向かうぞ。」
「流石リーダーだな。確かに、力を分けている余裕は今の私たちにはない。」
「そうですね、そうしましょう。ただ、この子を守ることを最優先に考えましょう。」
 
久しぶりに意見を言ったのだが、どうにも受け入れてもらえたようだ。
…これが失敗したらどうしよう。俺のせいで。
「これで失敗したら、それは全員の力不足だ。気にするなよ。」
バラクが見過ごしたように俺の肩を叩く。
なにこいつ、仲間だとこんなに頼もしいのかよ。
 
「そしたら、話も決まりましたし、すぐにでも行きましょう!」
「そうよね!行きましょう!君も良いわね?…えーっと、ごめんね。お名前は?」
「私はマリアっていうの。」
「そう、マリアちゃんね!」
 
その名前を聞いてリリーが女の子の肩に手を置いた。
なんだ安心させようとして…
 
「あぁ、良かった。お化けかと思った。」
 
…おい
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