Pomegranate I

Uta Katagi

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第四章 真理

菜美ちゃんとバル

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 翌週の金曜日、菜美ちゃんと就業後にヨーロッパ旅行の事前打ち合わせを兼ねた前祝いと称して、会社の最寄り駅から歩いていける場所に位置するバルに行った。ここは、スペイン風のおしゃれな雰囲気のお店だ。天井の梁がむき出しになっていて、その梁の合間に取り付けられたLEDランプの照明がテーブル席を明るく照らしている。どこかの会社の職場の飲み会だろうか、少し離れたテーブルには、7、8名くらいのグループ客が歓談している。

 菜美ちゃんは飲める方なので、中ジョッキで生ビールを頼んだが、私は小さなサイズのグラスでサングリアを注文した。話題はもちろん、旅行の予定だった。日程は松野さんと既に相談して、8月末から9月にかけた合計2週間で確定している。二人が同時に休暇を取れないので、先に菜美ちゃんが出国し、後から詩が出国する予定だ。ただ、現地の週末は一緒にパリで遊ぶことになっている。

 先に出発する菜美ちゃんがまず、彼女のプランを話し出した。
「私ね、もう既にネットでイタリアの街の著名な絵画を見るチケットを予約したの。だから先にイタリアに行くね。それから、電車でフランスに入って、金曜の夜にパリに行って詩ちゃんを空港で出迎えに行くね。」

 「ありがとう。私はいつも添乗員のいるツアーで海外旅行していたから、旅慣れた菜美ちゃんがいると本当に助かる。」
 「いえいえ、私が言い出した海外旅行だし、現地の空港で待ち合わせってなんか楽しいじゃん。喜んで迎えに行くよ。」
 アメリカの留学経験のある菜美ちゃんは、英語がペラペラで本当に心強い。菜美ちゃんといると、私も英語勉強しないといけないなといつも思う。

 「じゃあ、パリの滞在中は私に任せておいてね!先に着いて下見しておくから。それと良さそうなホテルが見つかったら、私が予約しておくね。」
 「うん、ありがとう。パリでは菜美ちゃんの行きたいところに行こうね!」
海外では私が、どうこう言うよりも、菜美ちゃんをツアーガイド役にしておけば絶対に間違いない。

 「ところで、詩ちゃんは帰りのフライトとホテルの予約はどうする?場所と予定を教えてくれたら、一緒に予約しておくよ。格安便で良いよね。」
 「え、一緒に予約してくれるの。それは助かる!私、そういうのが不慣れなの。」
 この菜美ちゃんの提案は本当に助かる。ネットで検索して予約すれば良いのだろうが、現地での移動手段やどのホテルが良いのとかを調べるのが面倒なので、詩はいつも旅行会社が提案するパック旅行にしていたからだ。

 「ところでドイツに行きたいって言っていたけど、どこに行くの?」
 菜美ちゃんが詩の行く場所を尋ねてきたので、ドイツ南部の有名な都市名を答えた。そこは、いっちゃんが出張中に滞在した場所で是非、行ってみたい。しかも、その都市から薔薇島のある湖まで、電車で30分くらいの距離ということがわかっている。なので、その都市のホテルに宿泊して薔薇島に日帰りで行くつもりだ。きっと、いっちゃんもその方法で行ったに違いない。

 「なるほど、そこも歴史のある街で良いよね。足を伸ばせばアルプスの方にも行けるし、近隣に有名なお城もたくさんあるし。じゃあ、そこの都市のホテルを予約しておくね。それと往復のフライトを手配しておくから安心して。予約は私に任せておいて。」
 ここまで親切に言ってくれているのだから、今回は菜美ちゃんに甘えようと詩は思った。この旅行は、彼女が旅行代理店だ。

 そういえば、薔薇島に行くことだけにこだわっていたので、それ以外の場所を調べてなかった。だけど、せっかく海外に行くのだから、現地の観光地にも行ってみよう。会社の人や家族へのお土産話も必要だ。お土産と言えば、芽依ちゃんには普段の御礼に何か良いものを買ってあげたい。そうだ、今度彼女に欲しいものを聞いてみようと詩は思った。

 バルで美味しいパエリアを口にしながら、その日は菜美ちゃんが提案する複数のパリのホテルについて、あれこれと議論した。価格もそうだが、空港や観光地へのアクセスとか部屋の内装とか、どれが良いか考えた挙句に、凱旋門の近くのホテルに泊まることを選択した。ここは主要な観光地へのアクセスも良く、シャンゼリゼ通りのショッピングに行くにも最適だ。エッフェル塔やセーヌ川の船着き場にも比較的近いし、近くに地下鉄の駅もある。早速、菜美ちゃんが予約してくれることになった。

 こうして、芽依ちゃんのリードでヨーロッパ旅行の計画が着々と決まった。私も早くドイツの予定を考えないといけない。そのためにも、真理の書に記載されている北の面以外の箇所を読む必要がある。詩は、二杯目に注文した白ワインベースのサングリア・ブランカのグラスを見ながら、あらためてそう思った。
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