【完結】王宮騎士と元引きこもりな鈍感令嬢の文通記録

しののめ

文字の大きさ
31 / 39

22.

しおりを挟む
今日はピクニックという事でニコラウスと2人、王都から少し離れた街までやって来ている。

また屋敷に尋ねるとニコラウスは言っていたものの、一応前向きに検討している縁談が来ている手前、やめておいた。

まだニコラウスにはルークさんとの件については話していない。

まだ正式に婚約は受けていないため、世間に大々的に知らさている訳では無い。きっとまだニコラウスは知らないでいるだろう。

…………うん、違うわ私。今日はそんな後ろ向きなことは考えちゃダメよ。精一杯今日を楽しむんだから。 


もしかしたらこれが最後になるかも知れない………

そう考えるとやはりまだ胸の奥底が痛む。


「レティシア……?具合でも悪い?」

しばらくぼーっと考え込んでいたレティシアに、ニコラウスが心配そうな声音で問いかけた。

「いいえ、全く!ほらこの通り元気!」

そう言ってレティシアは腕を折り曲げ、力こぶを見せるようなポーズをとった。

「筋肉なんて全く無いでしょ。」

そんな他愛もない会話をしばらく続けていると目的の場所に到着した。



「うわぁ……………!とっても綺麗!」

「本当に噂通りだね。」

2人が見た先には、1面のラベンダーが広がっていた。


暖かな日差しに2人は目を細めた。


「ねぇ、あちらのベンチでお茶にしませんか?」

「勿論、いいですとも。」

そう言うと、ニコラウスはレティシアの前に手を差し出した。


今までとは何か違うフワフワとした感覚に、酔ってしまいそうになる。

静かに温もりを感じながら、その手を取った。





♢♢♢





「これはレティシアが?」

「えぇ、そうなの。お口に合いました?」

「勿論。すごく美味しいよ。」

「ふふふ、それは良かったわ。」

2人はベンチに腰掛け、先程出店で買ってきたハーブティーと共にバスケットに詰めてきたクッキーを頬張っている。

「ねぇレティシア、このクッキーが1番美味しいよ。ほら、」

そう言うとニコラウスはクッキーを1枚、丁度レティシアの口元の高さへと差し出してきた。


これってつまり、『あーん』ってこと………?

今日のニコラウス糖度高すぎないかしら???

レティシアは、恥ずかしさに打ち震えながらも口を小さく開き、ぱくりと差し出されたクッキーを頬張った。


「お、美味しい……です?」

それを皮切りにニコラウスは味を占めたのだろうか、「これもどう?」と次々にクッキー口へ放りこんでくる。

とっくに脳の処理が追いついていないレティシアは顔を赤く染め、なすがままにそのクッキーを受け入れている。


まさに鯉の餌やり状態だ。


しばらくが経つと、レティシアのお腹も流石に限界を迎えたようでニコラウスによるクッキー攻撃は打ち止めとなった。


「に、ニコラウス!違うの!今日はお話したいことが沢山あって………先日お貸しした小説のお話でしょ…それに家のメイド長のお話!それから………」

「うん、いくらでも付き合うよ。」

うぅ………、キラキラ笑顔が眩しいです………………


レティシアは、一旦事態を整理する意味合いも込めて、ハーブティーをこくりと流し込んだ。


「これからみっちりお話付き合ってもらいますからね!」

「俺も話したいことは山ほどあるんだ。」

2人は目を見合わせると、どちらからともなく肩を揺らして笑い始めた。



あぁ、こんな時間が永遠に続けば良いのにと、心の内で密かに願った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。 子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。 ――彼女が現れるまでは。 二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。 それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

処理中です...