8 / 15
7話 地味女子~あこがれる世界~
しおりを挟む
1階のフロアはだいたい見終わったのではないかと思う。
2階に行くために、まだ開かないであろう玄関の方まで戻る。玄関前の階段を照らすと、赤いレッドカーペットのようなものが敷かれていて、これだけで豪華に見えた。
住んでいた人がいるはずなのに全てが置きっぱなしで、目に視えるものを疑う。
普通、引っ越すにしても全てをそのまま置いていくのだろうか。
ここには時間のせいか、外に生えている手入れのされていない木々のせいかうっすらとしか光が入らないようだ。
そんなことを考えつつ、階段を転ばないように少し錆びた金色の手摺を持って一段一段上がっていくとはっと気づく。霊の気配に。
上をスマホのライトで照らすと、あからさまに構ってほしそうなショートカットの女…の子?
寝ぐせでぴよんぴよんと跳ねた髪の子が、階段の一番上の左側に座っているのが視えた。
心なしか私達を待っていたかのようにも思える。
私はいつも通り、気づかなかったですよーと心の中で呟きながら思いっきり右に逸れてコツコツと階段を上っていく。
「あっ……あっ……明菜さん!!」
どもった声でやっと絞り出したかのように震えた声が後ろから聞こえる。
バレた、という思考より先に、何故名前まで知られているのだ……と疑問が浮かび上がった。なんだかんだ結構騒いだりしていたから、聞こえていてもおかしくはないのだが。
「呼ばれてるぞ明菜」
「呼ばれてるわね」
「うん、呼ばれてる」
後ろにいた竜介とさやかと王子が口々に言う。こいつらは私がなるべく厄介ごとは避けたいというのを分かっているのか面白がっているのか。
先頭を歩いていた私はばっと振り返り、
「全員で言わなくてもわーかっとるわい!」
と半ば八つ当たりで叫んだ。屋敷内に声が響いた気がする。
そして溜息をついてがくり、と肩を落とし……
「……なんでしょう?」
と胸の前でぎゅっと両手を握りしめ、期待の眼差しを送ってくる幽霊に仕方なく応答した。
首を横に傾けて、右の眉をぴくぴくさせながらも笑顔を作っている。
「ほっ……ほっ……本物やあ! 握手してもろてもいいですか?」
「へっ?」
一瞬、自分はアイドルだったっけ、と思うくらい相手の瞳はきらきらと輝いている。
ぽかんとする私の手を勝手に取って興奮気味にぶんぶん振っている。
「うっ……うち、キャバのホームページで明菜さんを見てから憧れっ……憧れてたんです!!」
どうやら女の子のようだった。言ってはいけないのだろうが、幸の薄そうな顔をしているな、という印象を受ける。それに加え、相手の気迫に圧倒されたが、わざわざうちのキャバクラのホームページをチェックしてくれたのか、と納得した。
「そうなの。ありがとう」
無難にお礼を言う。
「うちもっ……キャバ嬢になりたくてっ……体入に……行ったんですけど、10件以上断られてしもうて……」
基本的にキャバはこんな化粧っけがなくて、寝ぐせのすごい子は雇わないだろう。
「……その、どんな格好でどんな化粧、していったの?」
私は遠慮がちに聞いてみる。
「うちっ……周りから地味だ、地味だって馬鹿にされてて、必死に化粧の勉強を雑誌とか動画で研究して、うちなりには頑張ったんですっ……でもどこも面接さえしてくれんところもあって……」
俯いてへこんでいる彼女には少しきついことかもしれないが、ツッコミをいれずには居られなかった。
「……その髪は? 寝ぐせだよね? 化粧も大事だけど、髪型も大事だよ?」
彼女は自分の髪の毛を触り、あっ……と呟いた。
「うち、髪のことなんて何も考えてなかった……化粧に気を取られてしもうて」
「それじゃどこも受からないかもよ?」
「そっそうですよね……」
彼女は悲しそうに笑う。悪い子では、ないのだろうけど。
「あと、夢を壊すようで申し訳ないんだけど、キャバは他にも大変なことたくさんあるよ? あなたが思うような、キラキラしてるだけの世界じゃない。ナンバー争いもあるし、26を超えたら賞味期限切れ、なんて言われるし。営業もがんがんしなきゃお客さんついてくれないしね」
「ほぁー……そんな大変なんですね……」
間の抜けた声を上げ、またしてもがっかりした様子を見せる。そして「うちには絶対向いてないです」と付け加え苦笑した。
さやかはうんうん、と頷いて聞いている。王子は何の話だ?という顔をしていた。
彼女は心残りなこともあったけど、それを聞いて結局自分に向いてなかったからしょうがなかったんだと独り勝手に納得し、邪魔にならんとこ行っときます、と言って下に降りて行った。
「明菜はそんなことまでしていたのか、ただ破廉恥なだけじゃなかったんだな」
竜介は感心したように声をあげた。
「あたしを何だと思ってんのさ」
「ねーちゃんはすげーんだぞ!!」
わけの分かってない王子は私を勝手に上げてくれる。
「営業はあたしも骨が折れたわ……」
さやかは独りごとのように呟いた。
また、絡まれてしまったけど、平和に解決?出来てよかったわ、と私は思うのだった。
2階に行くために、まだ開かないであろう玄関の方まで戻る。玄関前の階段を照らすと、赤いレッドカーペットのようなものが敷かれていて、これだけで豪華に見えた。
住んでいた人がいるはずなのに全てが置きっぱなしで、目に視えるものを疑う。
普通、引っ越すにしても全てをそのまま置いていくのだろうか。
ここには時間のせいか、外に生えている手入れのされていない木々のせいかうっすらとしか光が入らないようだ。
そんなことを考えつつ、階段を転ばないように少し錆びた金色の手摺を持って一段一段上がっていくとはっと気づく。霊の気配に。
上をスマホのライトで照らすと、あからさまに構ってほしそうなショートカットの女…の子?
寝ぐせでぴよんぴよんと跳ねた髪の子が、階段の一番上の左側に座っているのが視えた。
心なしか私達を待っていたかのようにも思える。
私はいつも通り、気づかなかったですよーと心の中で呟きながら思いっきり右に逸れてコツコツと階段を上っていく。
「あっ……あっ……明菜さん!!」
どもった声でやっと絞り出したかのように震えた声が後ろから聞こえる。
バレた、という思考より先に、何故名前まで知られているのだ……と疑問が浮かび上がった。なんだかんだ結構騒いだりしていたから、聞こえていてもおかしくはないのだが。
「呼ばれてるぞ明菜」
「呼ばれてるわね」
「うん、呼ばれてる」
後ろにいた竜介とさやかと王子が口々に言う。こいつらは私がなるべく厄介ごとは避けたいというのを分かっているのか面白がっているのか。
先頭を歩いていた私はばっと振り返り、
「全員で言わなくてもわーかっとるわい!」
と半ば八つ当たりで叫んだ。屋敷内に声が響いた気がする。
そして溜息をついてがくり、と肩を落とし……
「……なんでしょう?」
と胸の前でぎゅっと両手を握りしめ、期待の眼差しを送ってくる幽霊に仕方なく応答した。
首を横に傾けて、右の眉をぴくぴくさせながらも笑顔を作っている。
「ほっ……ほっ……本物やあ! 握手してもろてもいいですか?」
「へっ?」
一瞬、自分はアイドルだったっけ、と思うくらい相手の瞳はきらきらと輝いている。
ぽかんとする私の手を勝手に取って興奮気味にぶんぶん振っている。
「うっ……うち、キャバのホームページで明菜さんを見てから憧れっ……憧れてたんです!!」
どうやら女の子のようだった。言ってはいけないのだろうが、幸の薄そうな顔をしているな、という印象を受ける。それに加え、相手の気迫に圧倒されたが、わざわざうちのキャバクラのホームページをチェックしてくれたのか、と納得した。
「そうなの。ありがとう」
無難にお礼を言う。
「うちもっ……キャバ嬢になりたくてっ……体入に……行ったんですけど、10件以上断られてしもうて……」
基本的にキャバはこんな化粧っけがなくて、寝ぐせのすごい子は雇わないだろう。
「……その、どんな格好でどんな化粧、していったの?」
私は遠慮がちに聞いてみる。
「うちっ……周りから地味だ、地味だって馬鹿にされてて、必死に化粧の勉強を雑誌とか動画で研究して、うちなりには頑張ったんですっ……でもどこも面接さえしてくれんところもあって……」
俯いてへこんでいる彼女には少しきついことかもしれないが、ツッコミをいれずには居られなかった。
「……その髪は? 寝ぐせだよね? 化粧も大事だけど、髪型も大事だよ?」
彼女は自分の髪の毛を触り、あっ……と呟いた。
「うち、髪のことなんて何も考えてなかった……化粧に気を取られてしもうて」
「それじゃどこも受からないかもよ?」
「そっそうですよね……」
彼女は悲しそうに笑う。悪い子では、ないのだろうけど。
「あと、夢を壊すようで申し訳ないんだけど、キャバは他にも大変なことたくさんあるよ? あなたが思うような、キラキラしてるだけの世界じゃない。ナンバー争いもあるし、26を超えたら賞味期限切れ、なんて言われるし。営業もがんがんしなきゃお客さんついてくれないしね」
「ほぁー……そんな大変なんですね……」
間の抜けた声を上げ、またしてもがっかりした様子を見せる。そして「うちには絶対向いてないです」と付け加え苦笑した。
さやかはうんうん、と頷いて聞いている。王子は何の話だ?という顔をしていた。
彼女は心残りなこともあったけど、それを聞いて結局自分に向いてなかったからしょうがなかったんだと独り勝手に納得し、邪魔にならんとこ行っときます、と言って下に降りて行った。
「明菜はそんなことまでしていたのか、ただ破廉恥なだけじゃなかったんだな」
竜介は感心したように声をあげた。
「あたしを何だと思ってんのさ」
「ねーちゃんはすげーんだぞ!!」
わけの分かってない王子は私を勝手に上げてくれる。
「営業はあたしも骨が折れたわ……」
さやかは独りごとのように呟いた。
また、絡まれてしまったけど、平和に解決?出来てよかったわ、と私は思うのだった。
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
『後宮薬師は名を持たない』
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。
帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。
救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。
後宮が燃え、名を失ってもなお――
彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】
remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。
本宮 のい。新社会人1年目。
永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。
なんだけど。
青井 奏。
高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、
和泉 碧。
初恋の相手らしき人も現れた。
幸せの青い鳥は一体どこに。
【完結】 ありがとうございました‼︎
僕らの10パーセントは無限大
華子
青春
10%の確率でしか未来を生きられない少女と
過去に辛い経験をしたことがある幼ななじみと
やたらとポジティブなホームレス
「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」
「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよ」
もし、あたなら。
10パーセントの確率で訪れる幸せな未来と
90パーセントの確率で訪れる悲惨な未来。
そのどちらを信じますか。
***
心臓に病を患う和子(わこ)は、医者からアメリカでの手術を勧められるが、成功率10パーセントというあまりにも酷な現実に打ちひしがれ、渡米する勇気が出ずにいる。しかしこのまま日本にいても、死を待つだけ。
追い詰められた和子は、誰に何をされても気に食わない日々が続くが、そんな時出逢ったやたらとポジティブなホームレスに、段々と影響を受けていく。
幼ななじみの裕一にも支えられながら、彼女が前を向くまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる