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17話 ピザを食べると会話は弾む

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「それにしても、夜空の奴がこんな可愛い女の子と友達になってるなんてねぇ。今年地球は終わるのかしら」

 姉さんはピザを一切れ手に取りながら、さらっとアポカリプスなことを言った。
 その言葉を受けて、優木坂さんは慌てたように両手のひらを前に突き出して、ブンブンと横に振る。

「そんな、わたし可愛くなんてないですよ……!」
「ううん、その反応も含めてめっちゃ可愛い! ねえ、夜空?」
「え? 」

 姉さんは唐突に俺に同意を求める。
 話を振られると思ってなくて俺は思わず呆けた声で聞き返してしまった。

「え? じゃないでしょうが。ヨミちゃん可愛いよねって聞いてんの」
「あ……まあ、うん」

 可愛いよ、とは恥ずかしくて言葉にできないので、とりあえず無難に相槌を打つ。
 すると優木坂さんの頬にわかりやすく朱色が差した。
 その様子をみて、姉さんは満足そうにニヨニヨと笑う。心の中で「あー青春。これだけでビール三杯はいけるわ」とでも思ってそうな、鬱陶しいことこのうえない表情だ。

 このままだとせっかく打ち解けかけた優木坂さんがまた恐縮してしまいそうだったので、俺は強引に空気を変えることにした。

「優木坂さんもピザ食べよ? クワトロ四種類を頼んだから、好きな味選べるよ」
「う、うん。ありがとう。じゃあ一枚――」
 
 優木坂さんはシーフードミックスを一切れ手に取って、先端をはむっとくわえた。

「ん、おいしい」
「ね、宅配ピザって美味いよね。人を招いた時じゃないと頼まないから、中々食べる機会ないけど」
 
「そりゃアンタは友達が少ないからね」と姉さん。
「うっさいよ」

 そんなやりとりをしていると、優木坂さんも徐々にリラックスしてきたようで表情の固さが抜けてきた。
 そして何かを思い出したかのような表情を浮かべて、足元に置いてあった紙袋を手に取ってからテーブルの上に置いた。

「あのこれお土産です。青井くんのお姉さんが――」
「青井くんのお姉さんじゃ長いでしょ? 亜純でいいよっ」
「あ、はい。亜純さんがお酒好きって聞いたので。私の親も結構お酒を飲むんですけど、何かいいお土産ないかなって相談したら、これを持っていけって」

 そう言って優木坂さんは、紙袋の中からワイン瓶と小洒落たデザインの包装パックを取り出した。

「ワインとチーズセットです。もしお口に合えば……」

 それを目にした姉さんの瞳が途端にキラキラと輝きだす。

「わぁ嬉しい! ワインもチーズも大好きよ!」
「ホントですか? よかったです」

 俺はそんな様子を見てテーブルから立ち上がった。

「姉さん、どうする? さっそく飲む?」
「もちろん!」
「オッケー、じゃあワイングラスを持ってくるよ。あとチーズも切り分けてくるから」
「気が利くねえ。ありがとー!」
 
 ***

 それから俺たちは三人でわいわいと語り合いながらピザやつまみを食べ進めて、気づけば一時間ほど経過していた。
 
 姉さんはお土産のワインをするすると飲んでいき、すっかり赤ら顔だ。ベロベロに酔ったという感じではないけれど、いつもの高いテンションが、アルコールを摂取したことによって、より高めにチューニングされている。
 
 俺と優木坂さんは突然のことながらアルコールの類は一滴も飲んでいないのだけど、場の楽し気な空気につられてか、普段よりも明るげだ。

「でも、亜純さん、とっても綺麗でビックリしました! 大人の女性って感じで。最初見た時、モデルさんかと……」

 そんな優木坂さんが、ふと目を輝かせてそんなことを言った。

「ふふ、ありがとね。お世辞でも嬉しいわ」
「いえ、ホントのことですから!」

 姉さんの言葉に、優木坂さんは首を振って答える。

「俺と姉さん似てないでしょ?」
「うん。言われないと姉弟って分からないかも……」
「俺は父さん似で、姉さんは母さん似なんだ」
「そそ、こいつの目付きの悪さ、笑えるくらい父親そっくりよ。背も高いから威圧感があるし……中身は人畜無害な影キャなのにね」
「そうなんですか?」
「ねえ、ヨミちゃん。こいつの愛想笑いみたことある? 下手くそすぎて笑えるわよー」

 姉さんはそう言って、「ちょっと笑ってみなさい」と俺を促した。
 なんでそんなことを……と思ったけれど、思いの外、優木坂さんが興味津々と言った様子でこちらを見つめている。仕方なしに俺は姉さんの言うとおりにすることにした。

「ニィィ――」

 目尻と口角を意識して、自分なりの笑顔を作る。
 
「ひっ――」

 それを見た優木坂さんが、この世の終わりを見たような顔をして、短く悲鳴を上げた。
 
「あっはっはっは! この邪悪な笑顔、いつ見ても最高だわ! 嫌なことがあっても明日から頑張ろうって気持ちになれる」
 
 姉さんは腹を抱えてゲラゲラと笑う。

 ……そんなに怖い顔をしているんだろうか。

「あ、ご、ごめんね!? 青井くん。そんなつもりじゃ……」
「大丈夫。自覚してるから」

 と言いつつも、ちょっとシュンとする俺。

「とまあさ。こんな周囲に瘴気しょうきを撒き散らす弟でごめんねー? 最初、ヨミちゃんも怖かったんじゃない?」

 姉さんがそう問うと、優木坂さんは苦笑いを浮かべた。
 
「あはは、実はちょっと。話しかけづらいっていうのはあったかもです。……あ、今は全然違うからね!? 青井くんとちゃんと話すようになる前の印象だから!」

 優木坂さんは慌てたような様子でフォローしてくれる。
 大丈……夫。自覚……してるから……

「何かと誤解されやすい弟でさー。この通り友達も少ない。私が知る限り、こいつが家に友達を呼んだのはヨミちゃんが初めて」

「え、そうなんですか?」
 
 優木坂さんは意外といった様子で、姉さんと俺の顔を見比べてそう言った。

「そそ、家でも基本的に自分の部屋に引きこもってゲームとか? アニメとか? とにかくそんなのばっかりなのよ。休みの日も滅多に外出しないし。せっかく人生で一度きりしかない貴重な青春時代を送っているのに、あまりに不毛な時間の使い方をしていて、我が弟ながら悲しくなってくるわー」

 姉さんがチーズをつまみながら言いたい放題言ってくる。
 
「そんなの人の勝手だし、俺は俺で今しかできないことをやってるつもりだけどな。俺は自分の判断で、自分の好きなことに時間を充ててるわけだし、それに余暇を趣味に全振りなんて贅沢な時間の使い方、それこそ時間が余ってる学生にしかできないでしょ」
 
 俺がそう反論すると、姉さんはやれやれというように肩をすくめて、視線を優木坂さんに移した。

「ねーヨミちゃん」
「はい?」
「夜空はこのとおり、ほっとくと永遠に引きこもっていれるようなインドアな奴だから、よかったらヨミちゃんが外に連れ出してやって」

「ちょっと姉さん……」

 またしてもこの姉は何を言い出すのか。
 そんなことを頼まれた優木坂さんはさぞ困っているだろうと思って彼女の方に目を向けてみると――
 
「はい……あの、わたしでよければ」
「えっ!?」
 
 少しはにかみながらも、姉さんの言葉に対して優木坂さんは首を縦に振ったので、思わず驚きの声を上げてしまった。
 そ、それってつまり……俺と二人で遊びに行ってもいいということなのだろうか。
 それってどうなの? 傍目からだと色々と勘違いされない?
 
 まあ、誰にでも優しい優木坂さんのことだから、基本的に頼まれごとは絶対に断らないっていうことなんだろうな。
 うん、きっとそうだ。姉さんに頼み事をされて、それを断れなかったということに過ぎない。
 俺たちはあくまでも友達という関係であって、そこに優しさ以外の他意はないのだ。不毛な勘違いはしてはいけない、俺。
 
「ふふ、ありがとね。よかった、ヨミちゃんみたいな良い子が夜空の友達になってくれて。夜空こいつをよろしくね」
「はい、こちらこそです!」

 優木坂さんはバカ丁寧にペコリと頭を下げながらそう言った。
 それから俺の内心のドキドキを他所に、姉さんと優木坂さんはあっという間に打ち解けていって、気づけば連絡先の交換までしてしまっていた。
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