銀河鉄道の夜に優しい君と恋をする

三月菫

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42話 図書室で勉強

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 そして放課後。

 もはや日課と化した教室の掃除を二人でサクッと終わらせた後、俺と詠は学校の図書室へとやってきた。
 ラウンジに置いてあるテーブルにリュックを置いて椅子を引く。隣では詠が「よいしょ」と言って腰かけた。

 図書館内には自習専用スペースも備えられているのだけど。勉強会ということで、多少のヒソヒソ声くらいは生まれることを見越みこして、小声であれば会話が許されるこの場所で勉強をすることにした。

 着席してから、ぐるりと首を回して辺りを見渡してみると、席の空き具合は半々といったところだった。
 黙々とシャーペンを走らせる殊勝しゅしょうな生徒や、ヒソヒソ声で時折おしゃべりをしながら勉強をするカップル、はたまた腕を枕に机の上に突っ伏してグースカ眠っているヤツなど、生徒たちの過ごし方は色々だ。

 俺と詠は、教科書やノートを取り出して、早速勉強に取り掛かることにした。

「閉館は八時。とりあえず一時間くらい頑張ろっか」
「オッケー」

 詠の提案に大人しく俺は返事をする。

「ちなみに、夜空くんの得意科目と苦手科目は? 教えて」
「うーん、数学はまだマシかな。苦手なのは英語と、特に国語がキツい……現国も、古文も」
「え、意外。夜空くん本読む人だし、勝手に文系科目は得意だと思ってた」

 詠がちょっとだけ目を丸くしながら、そんなことを言った。

 まあ、本を読むといっても詠のような読書ガチ勢じゃなくて、漫画やラノベばっかりだからね。
 しかも小説の範疇はんちゅうに収まるであろうラノベだって、有名な作品とか、アニメになってるような作品ばっかりだし。

あれ、改まって冷静に考えると、俺、本読む人違くない?

「なんていうか、数学の問題って、絶対的な答えがあるから。ヘンな話、公式を暗記して、使い方のパターンさえ覚えちゃえば何とかなるけど、国語ってそうじゃないっていうか……登場人物の気持ちを考えなさい! とか、作者の主張を答えよ! みたいなふわっとした問題多いじゃん? そういうのマジで苦手で……」
「なるほど。でも、その手の問題って、問題文とか下線部分を手がかりにして、出題者の意図をみ取れば割りと解けるし、そもそも学校のテスト程度だったら、授業さえ聞いてれば、ある程度点数取れると思うよ」

 詠はさらっとそんなことを言う。
 そりゃあ、詠くらい地頭じあたまがよければそうでしょうね。

 そんなちょっとしたイヤミが喉元まで出かけたとき、詠がカバンから一冊のノートを取り出して、俺の方へ差し出した。

「はいこれ。私が作った国語のノート。板書ばんしょだけじゃなくて、先生が喋ったこともまとめてあるから、多分役に立つと思う」
「え!? いいの!?」

 思わず声が大きくなってしまった。慌てて口を塞ぐ。
 そんな俺の様子を見て、詠がくすくす笑う。

「いいよ。テスト対策の役に立てて」
「ありがとう」

 詠に感謝しつつ、さっそく受け取ったノートを開く。
 するとそこには、綺麗な字で書かれた文字たちが整然と並んでいて――

「……すげぇ」

 つい感嘆の声が漏れてしまった。
 何というか、すごく見やすいのだ。

 まず字がキレイだ。女の子特有のやや丸みを帯びた可愛らしい字体だけど、整っていて読みやすい。

 それにノートの構成も見事だ。色分けは最低限で、シンプルなんだけど、どこが要点なのかがスッと頭に入ってくる。
 ただ黒板の文字を書き写しただけのノートとは全然違った。正直、参考書として金取れるレベル。
 
 それにわかりやすいだけじゃなく、時折ノートの余白に差し込まれる、猫のイラストが、『ここが重要だニャン』とか、いちいちフキダシ付きで差し込まれていて、とても可愛らしかった。
 授業中にこのイラストを描いている詠の様子を思い浮かべて、俺は思わず顔をほころばせる。

「ど、どうしたの? もしかして何か変なこと書いてあった?」

 ノートを開いて、そのまま固まった俺を見て、詠は不安そうな顔を浮かべていた。

「いや違うんだ。あまりにもわかりやすかったから、なんか感動しちゃって」
「もう、大げさなんだから」
「いやいや、本心だって」
「でもよかったぁ~。人に見せたことなかったから心配だったんだけど……」

 詠はほっとしたように胸を撫で下ろす。

「それじゃあ、まず国語から始めよ ? もしわからないところがあったら遠慮せずに言ってね。私にわかる範囲のことであれば教えるから」
「ありがとう。その時はよろしく頼むよ」

 こうして、俺たちの初めての勉強会がスタートした。
 苦手科目の国語だけど、詠のノートのおかげで、めちゃくちゃ捗る。

 しばらく黙々とノートに向き合って、気がつけば、あっという間に一時間が過ぎ去っていった。

 キリのいいところでシャーペンを置き、椅子にもたれかかって、軽く伸びをする。
 隣の詠に視線を移すと、彼女もまた一段落ついたところらしく、教科書を閉じると、ゆっくりと背もたれに体重を預けて、軽く息を吐いていた。

「お疲れ、詠」
「夜空くんこそ、お疲れさま」

 微笑みながら、一時間の健闘をいたわり合う俺たち。

「ちょっと休憩する?」
「そだね」
「自販機で飲み物でも買おうか」
「あ、賛成」

 俺の提案に、詠は笑顔で同意した。
 荷物はそのままで、貴重品だけ持って、図書室を出る。

「詠の素晴らしいノートのおかげさまで、とっても勉強がはかどりましたので、ここは俺がオゴらせていただきます」
「なーに、かしこまって。別にいいのに」
「いや、ほんと助かったから。ここはオゴらせて」
「ふふ。そこまで言うなら、じゃあお言葉に甘えて、ごちそうになります」

 詠は嬉しそうに笑ってくれた。
 そして俺たちは、二人で並んで廊下を歩いていった。
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