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53話 灰かぶり
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その日以来、黒野は頻繁に話しかけてくるようになった。
主に休み時間。
爽やかな笑顔を浮かべ、気さくな口調でまず俺に話しかけてくるのだ。そして、隣の席に座る詠も巻き込んで、他愛のないことを話しだす。
てっきり黒野は、詠にばかりアタックするものだと思っていたから、それは少し意外だった。
黒野は、皆のいる前で堂々と「今日も可愛いね」とか、「さすが詠ちゃんは優しいね」とか詠のことを褒めまくる。
キング・オブ・陽キャの本領発揮といったところだろうか。
俺だって詠を褒めること自体は少なくないけれど、黒野みたいに、人前で言うことはムリだ。
ちなみに詠は、そんな黒野の発言に対して「冗談ばっかり」と笑うだけだ。頬を赤らめたり照れたりしている様子はない。
それどころか、「夜空くんに友達が増えて、私もうれしいよ!」と無邪気な笑顔を浮かべていたりする。
今のところ、黒野が詠に向ける異性としての好意に対して、詠が気付いた様子はない。
そのことに、ほっとしている自分がいた。
***
黒野が企画したクラス会は、終業式の直前の土曜日に開催されることになった。
随分急だなと思ったけれど、主催の黒野が、夏休みに入ると部活尽くしの日々になってしまうことがその理由らしい。
結局俺は、悩みに悩んで、クラス会に参加することに決めた。
その理由は二つ。
一つは黒野に言われた言葉を受けて。
何かと他人との間に壁を作りがちな自分を変えるキッカケになるかもしれない、そんな思いが俺の胸に棘みたいにチクリと刺さって、ずっと疼いていたということ。
俺は詠と知り合ってから、彼女と仲良くなれた。
だけど彼女は俺以外にも友達が多くて、教室では常に多くの人に囲まれている。
彼女が、そんな風に華やいでいる姿を見ると、なんとも言えないモヤモヤとした気持ちを抱いてしまう。
ああ、釣り合わないなぁって。
そう思ってしまう。明るい彼女と暗い自分。
劣等感みたいなジメジメした感情が、心の内から湧き上がるのを止められない。
そんな自分を少しでも変えたかった。
少しでも詠の隣に立つに、ふさわしい人間になりたかった。
これが一つ目の理由だ。
二つめの理由は、詠と黒野のこと。
俺に対して面と向かって、詠とお近づきになりたいと宣言した黒野。
奴はそれ以来、宣言通り、詠に向かってアプローチをかけまくっている。
最初はそれほどでもなかったのだけど、繰り返し、その姿を見るたびに、嫉妬じみた暗くカッコ悪い思いが胸の内に広がってきた。
俺のいないところで詠と黒野が二人で仲良く話している光景を想像すると、泣きたくなるほど心がさざめく。
黒野の前では強がりで「誰が誰を好きになろうと、俺が口出しする権利はない」的な台詞を言った俺だがとんでもなかった。
黒野と詠が会話するのがイヤでイヤでたまらない!
俺は自分で思っていた以上に、心が狭くてちっちゃい男だったらしい。これが二つ目の理由だ。
……そもそも。
たぶん、理由は二つということすら、ウソだ。
俺は、黒野と詠が、俺のいないところで会うことがイヤなだけなんだろう。
本当の理由はただそれだけ。
自分を変えるためとか、そういうのはもっともらしい後付けの理由でしかなかった。
とにかく、俺はクラス会に参加することを決めたのだ。
そして、迎えた当日。
俺は自分の決断を、早くも後悔していた。
クラス会は夕方から始まり、ボーリング、ファミレスで晩ご飯、カラオケというスケジュールで進行していった。
ボーリングとファミレスは、まだギリギリ乗り切れた。
だけど、カラオケが地獄だった。
全員が同じカラオケルームには入れないので、七、八人くらいのいくつかの小グループに分かれる。
俺の割り振られたグループには詠もいなければ、黒野もいなかった。というかその二人は俺とは別グループで一緒になっていた。
ただでさえ、アウェー戦。
しかも、俺はカラオケが苦手なのだ。知ってる音楽はアニメの主題歌やボカロ系くらいで、流行りの歌は全然知らない。
だけど、さすがに俺だけ歌わないわけにはいかない。乏しいレパートリーを駆使して、皆が知っていそうな曲をチョイスして歌う。
これで俺の歌が上手ければまだ救いがあったのだろうが、歌うどころか大きな声を出すこと自体に慣れてないので、その歌唱力は目も当てられないものだ。
一緒になったクラスメイトたちは、別にそんな俺をハブすることなく、気を使ってくれて、ときたま世間話を投げかけてくれたりする。
だけど、その気遣いを受けている感覚が、申し訳なくて、居心地が悪くて息が詰まってしまう。うまく会話をつなぐことができない自分が情けなくて不甲斐ない。
詠と友達になって、三か月くらい経つ。
彼女との付き合いを通して、多少は俺もマシになったと思っていたが、全然そうじゃなかった。
俺にとって詠が特別だったんだ。
彼女はきっと、俺に魔法をかけてくれていたんだろう。
その魔法が解けた今、俺はみじめな灰かぶりでしかなかった。
主に休み時間。
爽やかな笑顔を浮かべ、気さくな口調でまず俺に話しかけてくるのだ。そして、隣の席に座る詠も巻き込んで、他愛のないことを話しだす。
てっきり黒野は、詠にばかりアタックするものだと思っていたから、それは少し意外だった。
黒野は、皆のいる前で堂々と「今日も可愛いね」とか、「さすが詠ちゃんは優しいね」とか詠のことを褒めまくる。
キング・オブ・陽キャの本領発揮といったところだろうか。
俺だって詠を褒めること自体は少なくないけれど、黒野みたいに、人前で言うことはムリだ。
ちなみに詠は、そんな黒野の発言に対して「冗談ばっかり」と笑うだけだ。頬を赤らめたり照れたりしている様子はない。
それどころか、「夜空くんに友達が増えて、私もうれしいよ!」と無邪気な笑顔を浮かべていたりする。
今のところ、黒野が詠に向ける異性としての好意に対して、詠が気付いた様子はない。
そのことに、ほっとしている自分がいた。
***
黒野が企画したクラス会は、終業式の直前の土曜日に開催されることになった。
随分急だなと思ったけれど、主催の黒野が、夏休みに入ると部活尽くしの日々になってしまうことがその理由らしい。
結局俺は、悩みに悩んで、クラス会に参加することに決めた。
その理由は二つ。
一つは黒野に言われた言葉を受けて。
何かと他人との間に壁を作りがちな自分を変えるキッカケになるかもしれない、そんな思いが俺の胸に棘みたいにチクリと刺さって、ずっと疼いていたということ。
俺は詠と知り合ってから、彼女と仲良くなれた。
だけど彼女は俺以外にも友達が多くて、教室では常に多くの人に囲まれている。
彼女が、そんな風に華やいでいる姿を見ると、なんとも言えないモヤモヤとした気持ちを抱いてしまう。
ああ、釣り合わないなぁって。
そう思ってしまう。明るい彼女と暗い自分。
劣等感みたいなジメジメした感情が、心の内から湧き上がるのを止められない。
そんな自分を少しでも変えたかった。
少しでも詠の隣に立つに、ふさわしい人間になりたかった。
これが一つ目の理由だ。
二つめの理由は、詠と黒野のこと。
俺に対して面と向かって、詠とお近づきになりたいと宣言した黒野。
奴はそれ以来、宣言通り、詠に向かってアプローチをかけまくっている。
最初はそれほどでもなかったのだけど、繰り返し、その姿を見るたびに、嫉妬じみた暗くカッコ悪い思いが胸の内に広がってきた。
俺のいないところで詠と黒野が二人で仲良く話している光景を想像すると、泣きたくなるほど心がさざめく。
黒野の前では強がりで「誰が誰を好きになろうと、俺が口出しする権利はない」的な台詞を言った俺だがとんでもなかった。
黒野と詠が会話するのがイヤでイヤでたまらない!
俺は自分で思っていた以上に、心が狭くてちっちゃい男だったらしい。これが二つ目の理由だ。
……そもそも。
たぶん、理由は二つということすら、ウソだ。
俺は、黒野と詠が、俺のいないところで会うことがイヤなだけなんだろう。
本当の理由はただそれだけ。
自分を変えるためとか、そういうのはもっともらしい後付けの理由でしかなかった。
とにかく、俺はクラス会に参加することを決めたのだ。
そして、迎えた当日。
俺は自分の決断を、早くも後悔していた。
クラス会は夕方から始まり、ボーリング、ファミレスで晩ご飯、カラオケというスケジュールで進行していった。
ボーリングとファミレスは、まだギリギリ乗り切れた。
だけど、カラオケが地獄だった。
全員が同じカラオケルームには入れないので、七、八人くらいのいくつかの小グループに分かれる。
俺の割り振られたグループには詠もいなければ、黒野もいなかった。というかその二人は俺とは別グループで一緒になっていた。
ただでさえ、アウェー戦。
しかも、俺はカラオケが苦手なのだ。知ってる音楽はアニメの主題歌やボカロ系くらいで、流行りの歌は全然知らない。
だけど、さすがに俺だけ歌わないわけにはいかない。乏しいレパートリーを駆使して、皆が知っていそうな曲をチョイスして歌う。
これで俺の歌が上手ければまだ救いがあったのだろうが、歌うどころか大きな声を出すこと自体に慣れてないので、その歌唱力は目も当てられないものだ。
一緒になったクラスメイトたちは、別にそんな俺をハブすることなく、気を使ってくれて、ときたま世間話を投げかけてくれたりする。
だけど、その気遣いを受けている感覚が、申し訳なくて、居心地が悪くて息が詰まってしまう。うまく会話をつなぐことができない自分が情けなくて不甲斐ない。
詠と友達になって、三か月くらい経つ。
彼女との付き合いを通して、多少は俺もマシになったと思っていたが、全然そうじゃなかった。
俺にとって詠が特別だったんだ。
彼女はきっと、俺に魔法をかけてくれていたんだろう。
その魔法が解けた今、俺はみじめな灰かぶりでしかなかった。
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