銀河鉄道の夜に優しい君と恋をする

三月菫

文字の大きさ
54 / 64

53話 灰かぶり

しおりを挟む
 その日以来、黒野は頻繁に話しかけてくるようになった。

 主に休み時間。
 爽やかな笑顔を浮かべ、気さくな口調でまず俺に話しかけてくるのだ。そして、隣の席に座る詠も巻き込んで、他愛のないことを話しだす。
 
 てっきり黒野は、詠にばかりアタックするものだと思っていたから、それは少し意外だった。
 
 黒野は、皆のいる前で堂々と「今日も可愛いね」とか、「さすが詠ちゃんは優しいね」とか詠のことを褒めまくる。
 キング・オブ・陽キャの本領発揮といったところだろうか。
 俺だって詠を褒めること自体は少なくないけれど、黒野みたいに、人前で言うことはムリだ。

 ちなみに詠は、そんな黒野の発言に対して「冗談ばっかり」と笑うだけだ。頬を赤らめたり照れたりしている様子はない。
 それどころか、「夜空くんに友達が増えて、私もうれしいよ!」と無邪気な笑顔を浮かべていたりする。

 今のところ、黒野が詠に向ける異性としての好意に対して、詠が気付いた様子はない。
 そのことに、ほっとしている自分がいた。

 ***

 黒野が企画したクラス会は、終業式の直前の土曜日に開催されることになった。
 随分急だなと思ったけれど、主催の黒野が、夏休みに入ると部活尽くしの日々になってしまうことがその理由らしい。

 結局俺は、悩みに悩んで、クラス会に参加することに決めた。
 
 その理由は二つ。
 
 一つは黒野に言われた言葉を受けて。
 何かと他人との間に壁を作りがちな自分を変えるキッカケになるかもしれない、そんな思いが俺の胸にとげみたいにチクリと刺さって、ずっとうずいていたということ。
 
 俺は詠と知り合ってから、彼女と仲良くなれた。
 だけど彼女は俺以外にも友達が多くて、教室では常に多くの人に囲まれている。

 彼女が、そんな風にはなやいでいる姿を見ると、なんとも言えないモヤモヤとした気持ちを抱いてしまう。

 ああ、釣り合わないなぁって。

 そう思ってしまう。明るい彼女と暗い自分。
 劣等感みたいなジメジメした感情が、心の内から湧き上がるのを止められない。

 そんな自分を少しでも変えたかった。
 少しでも詠の隣に立つに、ふさわしい人間になりたかった。
 これが一つ目の理由だ。
 
 二つめの理由は、詠と黒野のこと。
 俺に対して面と向かって、詠とお近づきになりたいと宣言した黒野。
 奴はそれ以来、宣言通り、詠に向かってアプローチをかけまくっている。

 最初はそれほどでもなかったのだけど、繰り返し、その姿を見るたびに、嫉妬じみた暗くカッコ悪い思いが胸の内に広がってきた。
 俺のいないところで詠と黒野が二人で仲良く話している光景を想像すると、泣きたくなるほど心がさざめく。
 
 黒野の前では強がりで「誰が誰を好きになろうと、俺が口出しする権利はない」的な台詞を言った俺だがとんでもなかった。

 黒野と詠が会話するのがイヤでイヤでたまらない!
 俺は自分で思っていた以上に、心が狭くてちっちゃい男だったらしい。これが二つ目の理由だ。

 
 ……そもそも。
 たぶん、理由は二つということすら、ウソだ。
 
 俺は、黒野と詠が、俺のいないところで会うことがイヤなだけなんだろう。
 本当の理由はただそれだけ。
 自分を変えるためとか、そういうのはもっともらしい後付けの理由でしかなかった。

 とにかく、俺はクラス会に参加することを決めたのだ。


 そして、迎えた当日。
 俺は自分の決断を、早くも後悔していた。

 クラス会は夕方から始まり、ボーリング、ファミレスで晩ご飯、カラオケというスケジュールで進行していった。
 
 ボーリングとファミレスは、まだギリギリ乗り切れた。
 
 だけど、カラオケが地獄だった。
 全員が同じカラオケルームには入れないので、七、八人くらいのいくつかの小グループに分かれる。
 俺の割り振られたグループには詠もいなければ、黒野もいなかった。というかその二人は俺とは別グループで一緒になっていた。
 
 ただでさえ、アウェー戦。
 しかも、俺はカラオケが苦手なのだ。知ってる音楽はアニメの主題歌やボカロ系くらいで、流行りの歌は全然知らない。

 だけど、さすがに俺だけ歌わないわけにはいかない。乏しいレパートリーを駆使して、皆が知っていそうな曲をチョイスして歌う。
 これで俺の歌が上手ければまだ救いがあったのだろうが、歌うどころか大きな声を出すこと自体に慣れてないので、その歌唱力は目も当てられないものだ。

 一緒になったクラスメイトたちは、別にそんな俺をハブすることなく、気を使ってくれて、ときたま世間話を投げかけてくれたりする。
 だけど、その気遣いを受けている感覚が、申し訳なくて、居心地が悪くて息が詰まってしまう。うまく会話をつなぐことができない自分が情けなくて不甲斐ない。
 
 詠と友達になって、三か月くらい経つ。
 彼女との付き合いを通して、多少は俺もマシになったと思っていたが、全然そうじゃなかった。

 俺にとって詠が特別だったんだ。

 彼女はきっと、俺に魔法をかけてくれていたんだろう。
 その魔法が解けた今、俺はみじめな灰かぶりでしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...