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4章 戦乱の中へ

32話 決戦

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 おれは昔から世界が嫌いだ。

 ナンバーズ、ノーブル、ノーマル、二ードレス…

 こんな身分の違いで人間は区別される世の中…

 歴史を見てもカーストの中で人々は生きてきた。

 それを覆すことは出来ないし、人ひとりの力で帰ることは出来ない。

 革命なんて甘い言葉を囁く者もいるが、結局新しい指導者の元に階級がリセットされてまた新たなカーストが出来上がる。

 なんなんだ?

 人間って一体なんなんだ?

 こんなくだらない制度を元に一部の人間が世の中を支配する。

 もちろん中には有能な指導者もいるし、その下で幸せに暮らすことも出来るだろう。

 しかしそのような場合に自由とはあるのか?

 決められた法律の中で制限された生活を送る。

 社会の歯車となって社会のために生き、そして朽ち果てる。

 嫌だ。

 そんなのは自由と言わない。

 綺麗事を並べて何を言ってもこの不条理な世界の中では自分という人間はただの歯車でしかない。

 奴隷身分の人間はもはや人間とは呼べないし、モノとして扱われる。

 何が違うんだ?

 おれ達は変わらない人間のはずなのに…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 おれは八戸を追った。

 世の中の不条理を壊すために。

 誰かがおれに与えた力…

 その力を使い、世の中を変えてやる。

 捕えられた桃を助けるために…

 取り残された栗栖を迎えにいくために…

 守れなかった久遠を取り戻すために…

 八戸はきっと地下のあの拷問部屋に桃を連れていくだろう、栗栖もそこにいるはずだ。

 おれはさっきの階段を降りてまたあのドーム型の部屋に戻った。

 そこには見るも無残な光景が広がっていた。

 栗栖と桃は二人とも十字架にかけられ、栗栖は銃弾で撃たれたのか、出血が酷い。

「やぁ!来ると思っていたよ!」

 そこには八戸の姿もあった。

「八戸…!」

「いいよ!その顔!今日はそそる顔がたくさん見れて嬉しいよ!ハハハ!」

 八戸は光悦の表情で高笑いをする。

「さて、では始めるか」

 そう言って八戸はそばにいた栗栖の傷口に指を突っ込んだ。

「ウワァァァ!」

 栗栖が悲鳴をあげる。

 八戸の指は確実に肩口の栗栖の傷口を抉り、それを広げている。

「やめろ!八戸!」

「動くな!」

 おれは突っ込もうとしたが、八戸の声に留まってしまった。

「あっちのチビには爆弾を仕掛けておいた。そんなに大きくないが、数が多くてね。すべて爆発したら死んでしまうよ?キヒヒヒヒヒ」

「卑怯だぞ!」

 これでは迂闊に動けない。

 桃は気を失っている。

 しかしよく見ると首や手足に小さな爆弾が仕掛けられているのが見える。

「そこで大人しく見ているがいい!」

 八戸はもう一方の手の指を栗栖の別の傷口に突っ込んだ。

 栗栖がまた悲鳴をあげる。

「春臣…うちらの事はもうええ…気にせんと逃げ…イタァァ!」

「いいねぇ。その仲間思いな気持ちが神田春臣に届くかなぁ?」

 どうする!?

 このままでは栗栖が危ない。

 かと言って動けば桃の体が吹っ飛んでしまう。

「八戸!お前だけは許さねえ!」

「フフフ、不思議だが何故か君の心は読めないんだよ。だが、その感情は間違いなく怒りだね。それは大好物だよ」

「うるせえ!」

「いい…実にいいね!じゃあこのボタンを押すとしよう!」

 八戸は桃の爆弾のスイッチを押した。

 足の爆弾が爆発する。

「…!!!イャァァァ!」

 桃が爆発の衝撃と痛みで目が覚めた。

 足は無残にも焦げ、表面の肉は半分くらい無くなっていた。

 ギリギリのところで繋がっている足は骨が見えている。

「八戸ェェ!」

 おれは動いていた。

「ふっ…馬鹿な!」

 八戸は次にボタンを押す。

 それはやつの右ポケットに入っている。

 おれは沙織に刺さっていたナイフをやつの右腕に向かって投げる。

 それは当たらなかったが、八戸の動きを封じるには充分な時間を稼げた。

「何!?」

「喰らえ!」

 おれは懐に忍び込み、やつのみぞおちに右ストレートをぶち込んでやった。

「うっ!」

 しかし浅かった。

 寸前で身を引かれて、致命傷には至らなかった。

「何故なんだ!何故読めない!?」

「お前はその能力が無ければクズ以下の存在だな」

「お前は…!まさか…零崎の系統の…!?」

「零崎…?」

「まさか…なぜお前が!」

 八戸は訳の分からないことを言うとこちらに向かって突進してきた。

「喰らうわけねえだろ」

 おれは身を翻し、八戸の腕を掴む。

 そのまま逆に力を入れ、腕を本来曲がらない方向に曲げてやった。

「イテエエエエエエエ!」

 これでやつの右腕は使い物にならない。

「待て!分かっているのか!?八戸家の当主の私を殺るってことはナンバーズに喧嘩を売るって事なんだぞ!」

「喧嘩を売る?何言ってんだよ?」

 おれはそう言って八戸の視界から消える。

「ウグッ…」

「視覚を利用した簡単な意識誘導だよ。お前の能力はお前には使いこなせなかったみたいだな」

 八戸の首元にナイフを突き刺した。

「なぜお前が私の能力を…?ぐふっ…」

 八戸は倒れた。

「何故って…?不条理を正すためだよ」

 おれはナンバーズの一人を倒してしまった。

 
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