学院最弱底辺の僕にだけ従う最強生徒会長

塞翁が馬

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2人だけのルール

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小さな部屋に流れる空気が、
 自分の息でさえ凍りつきそうだ。

 

 四畳半の真ん中で、
 白銀の魔女――セラフィーナ・ルクレールは、
 膝をつき、背筋を伸ばし、
 真っ直ぐ僕を見ている。

 

 「……だからさ、生徒会長――」

 

 僕が無意識にそう呼んだ瞬間、
 セラフィーナの瞳がかすかに揺れた。

 

 「……主さま。」

 

 「……えっ?」

 

 「二人きりの時は……
  “セラフィ”とお呼びくださいませ。」

 

 あの完璧な声で、
 小さく、でもどこか寂しそうにそう言われた。

 

 心臓が嫌な音を立てる。

 

 「……無理だって!
  俺が……いや、僕がそんな……。」

 

 息を整えようとするほど言葉が出なくなる。

 

 「……人前では“会長”。
  二人きりのときだけ“セラフィ”。
  ……それでいいな?」

 

 「……はい、主さま。」

 

 “主さま”。
 二人のときだけの、彼女だけの呼び方。

 

 これもまずい。誰かにこんなふうに呼ばせてるのがバレでもしたら人生が終わる。



 「会長僕の呼び方も名前で呼んでくれないか」


 「セラフィです」



 「せ、セラフィさん僕のことも名前で普通に呼んでもらってもいいですか」
 

 「わかりました、ではこれからは悠真くんとお呼びします」


 待て待て待て。


 主様とはまた別のヤバさがあるだろ、これ。


 「人前ではせめて苗字で読んでくれると助かるんだけど。」



 「では、人前では天城君とお呼びします」



 まぁここが妥協点か。



 「……っ、と、とにかく……
  呼び方以外もちゃんと決めよう!」

 

 僕は咳払いをして話をそらす。

 

 「一つ目! 勝手に合鍵で入らないこと!」

 

 「はい、悠真くん。」

 

 「……で、合鍵は返す。」

 

 「お守りとして保管しておきます。」

 

 「返せよ!!!」

 

 息を吐きながら、指を二本立てる。

 

 「二つ目! 人前では距離を取る!
  誰が見てるか分からないんだら……。」

 

 「はい、悠真くん。」

 

 やたら甘く響くのは気のせいじゃない。

 

 「で……何か必要があったら人前では名前で呼んでくれ。
  “主さま”とか口に出すなよ絶対……。」

 

 「かしこまりました、悠真くん。」

 

 ちゃんと分かってんのかこいつ……。

 

 「……じゃあ最後!
  秘密のことは絶対に誰にも喋るな!」

 

 「もちろんでございます、悠真くん。」

 

 完璧すぎる即答。
 なのに、微妙に心配になるのは何なんだ。

 

 「……人前では“会長”。
  二人のときは“セラフィ”。
  お前……いや、セラフィは僕のこと……二人のときは……?」

 

 「悠真くん。」

 

 にこ、と小さく微笑んだ気がした。

 

 心臓が変な方向に跳ねた。

 

 「……これ、ルール意味あるのか……。」

 

 情けない声が漏れる。

 

 誰かに見つかったら終わり。
 でもこの距離感で、守れる気がしない。



  「……じゃあ、これで呼び方のルールは……決まった……。」

 

 小さな部屋の真ん中で、
 僕は気まずさに耐えきれずに膝を抱えた。

 

 “人前では生徒会長、二人のときだけはセラフィ”。
 セラフィーナは僕を名前で、二人きりのときだけ“悠真くん”。

 

 おかしいだろ、この距離感。

 

 それでも決めないと、何も守れない。

 

 「……えっと……。」

 

 僕はふと思い立った。

 

 「……セラフィ。
  試しに……もう一度呼んでみてくれないか。」

 

 セラフィーナの長い睫毛が、すっと揺れる。

 

 「……はい。」

 

 正座したまま、背筋を伸ばす。

 

 部屋の中には僕と彼女の呼吸音しかない。

 

 「……悠真くん。」

 

 わずかに息を含んだその声が、
 部屋の壁に吸い込まれていく。

 

 僕の胸にだけ刺さった。

 

 心臓が馬鹿みたいに騒いだ。

 

 「……何だこれ……。」

 

 変な汗が額を伝う。

 

 名前を呼ばれただけ。
 それだけなのに、何もかも取り返しがつかない気がした。

 

 「……もう一回。」

 

 セラフィーナは黙って、
 少しだけ目を伏せて、同じ言葉を落とす。

 

 「……悠真くん。」

 

 僕の心臓がもう一度、
 縛られるように鳴った。


 《評価端末(SRT)》のランプが、
 ポケットの中でまた無機質に点滅していた。
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