学院最弱底辺の僕にだけ従う最強生徒会長

塞翁が馬

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登校中の小さな事件

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朝の通学路は、
 どこか少し冷たい風が吹いていた。

 

 寮の前で僕――天城 悠真は、白銀の魔女と呼ばれる生徒会長――セラフィーナに当然のように迎えられた。

 

 「おはようございます、悠真くん。」

 

 「おはよう……。」

 

 言葉を返すだけで、まだ少しだけ胸がざわつく。

 

 でもそれを振り払うようにして、僕は歩幅を合わせた。

 

 学院への坂道を登っていくと、門の少し手前でざわざわとした声が耳に入った。

 

 「……何だ?」

 

 遠巻きに生徒たちが集まっている。
 人だかりの中心では、制服の襟を掴み合った男子生徒が2人。

 

 「お前みたいな評価値のやつと、一緒のグループとかふざけんなよ!」

 

 「はぁ? ふざけてんのはお前だろ!」

 

 声が荒い。殴り合い寸前だった。

 

 「……止めなくていいのか……?」

 

 思わず僕が小さく呟くと、隣で歩いていたセラフィーナが足を止めた。

 

 「少しだけ、待っていてください。」

 

 声は淡々としているのに、その瞳だけが一瞬で氷みたいに冷たくなった。

 

 セラフィーナは人だかりの中へすっと入っていく。

 

 「あなたたち、ここで何をしているのですか?」

 

 静かに響く声だった。

 

 だけど――その場にいた全員が背筋を伸ばした。

 

 「せ、セラフィーナ様……! い、いや……これは……。」

 

 「評価値の差で揉めるなら、評価値を見直す前に、自分の素行をもう一度整理しなさい。」

 

 たったそれだけ。

 

 それだけで、さっきまで襟を掴み合っていた2人の顔が真っ青になって、ばっと手を離した。

 

 「し、失礼しました……!」

 

 2人は小さく縮こまって、周囲の視線を避けながら門のほうへ逃げていった。

 

 集まっていた生徒たちも、さーっと蜘蛛の子を散らすみたいにいなくなる。

 

 門の近くで立っているのはセラフィーナだけだった。

 

 氷の瞳がふっと和らいで、僕のほうへ戻ってくる。

 

 「お待たせしました、悠真くん。」

 

 当たり前みたいに微笑んで、何事もなかったように手を伸ばす。

 

 「……すごいな。」

 

 思わず小さく漏れた僕の声に、セラフィーナは首を傾げるだけだった。

 

 ――やっぱり、この人には絶対逆らえないな。

 

 何でもない小さな事件なのに、僕の心臓は少しだけ冷たくなった。


朝のHRが終わったあと、僕――天城 悠真は教室の廊下に出ていた。

 

 今朝は学院の門前で小さな揉め事をセラフィーナが一言で収めた。

 

 “完璧すぎる生徒会長”。……誰も逆らえない理由を改めて思い知った。

 

 「はぁ……。」

 

 小さく息を吐いて廊下の壁にもたれる。

 

 周りの生徒たちの視線が、少しずつ集まっているのがわかる。

 

 (……やっぱり噂になってるよな。)

 

 セラフィーナと一緒に登校する姿も、昨日の門前の一件も。
 《クレア》に出る評価値の画面は見えなくても、誰もが僕の“特別扱い”に気づいている。

 

 ――目立ちたくなかったのに。

 

 「天城君。」

 

 柔らかい声が背後からかかった。

 

 振り向くと、そこには副会長――クラリス・アーデルハイトが微笑んで立っていた。

 

 「お疲れさま。昨日は……大変だったみたいね?」

 

 視線が笑っていない。

 

 「あ……ああ……。別に……大したことじゃ……。」

 

 言葉を濁す僕の顔を、クラリスは楽しそうに覗き込む。

 

 「天城君って、面白い立ち位置にいるよね。」

 

 「……何がだよ……。」

 

 声が少し震えた。

 

 クラリスは口元だけ笑って、小さくささやく。

 

 「――調子に乗らないでね。庶民の雑用係が“特別扱い”されてるって知ったら、周りはすぐ噛みついてくるから。」

 

 背筋が薄く冷たくなる。

 

 「……っ。」

 

 クラリスは一歩離れて、また“優しい副会長”の顔に戻った。

 

 「じゃあ……またね、天城。」

 

 呼び捨てで、小さく釘を刺す声が背中に残る。

 

 僕は廊下に立ったまま、ぎゅっと制服の袖を握りしめた。

 

 ふと、窓辺の方に視線を向ける。

 

 そこには、小柄な書記――村崎 天音がノートを抱えて立っていた。

 

 黒髪の前髪越しに、あのふわっとした笑みがわずかに見える。

 

 目が合うと、天音は唇の端だけをゆるく上げて、静かにノートに何かを書き留めた。

 

 (……あの人も……何を考えてるんだか……。)

 

 自分の心臓の音だけが廊下にやけに大きく響いていた。

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