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紫ノートの中身
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林間学校の班編成が発表されてから数日後――
僕――天城 悠真は、教室の隅で自分の荷物をまとめていた。
(……準備とか言っても、俺が班でやれることなんか……。)
小さく溜息をついたとき、足元に黒いノートが落ちているのに気がついた。
(……村崎のか。)
ブカブカのカーディガンに埋もれて、いつも胸に抱えているあのノート。
机の後ろを振り返ると、村崎 天音が、教室の窓辺で相変わらずふわっとした顔をしていた。
「あー……村崎。」
声をかけようとしたけど、彼女はこっちを見て微かに笑っただけで、何も言わない。
(……落ちたの気づいてない?)
仕方なくノートを拾い上げた。
背表紙は柔らかくて、薄いペン跡がぎっしりと刻まれている。
何気なく、ほんの数ページだけめくった。
――そこにあったのは、淡い水彩みたいなインクで描かれたおぞましくも綺麗な“絵”だった。
(……は?)
セラフィーナに正座させられて、上半身裸で鞭を振り下ろされている――“僕”がいた。
(……は?)
次のページには、クラリスの足元に額を擦り付けて地面に土下座している“僕”がいた。
(おい……。)
頬に赤い跡が走っていて、その上に丁寧な字で
『服従する庶民』
『主と奴隷の逆転』
『評価値の秩序崩壊』
――意味がわからない。
(……何考えてんだ……こいつ……。)
教室の喧騒が遠のいた気がした。
汗が背中を滑り落ちる。
――全部妄想?
ページを閉じようとした瞬間、すぐ横に小さな影が立っていた。
村崎 天音――。
「……読んじゃったんですね。」
声は、いつも通りのふわっとした調子だった。
「……お前……。」
言葉が続かない。
村崎は指先でノートの端をそっと撫でた。
「落ちちゃったの、気づきませんでしたぁ……。」
――嘘だ。絶対わざとだ。
「……これ……どういう……。」
村崎はくすりと小さく笑った。
「天城さんと会長の関係、どうなってるのかなぁって。」
黒髪の奥の瞳だけが、どこか光を宿している。
「正座……鞭……土下座……。私、普段からいろいろな妄想をしているんです。」
ノートを取り戻そうとすると、
村崎は指先でそっと抑えて言った。
「――感想、ありますか?」
(……何が感想だ。)
僕は凍りついた背中を震わせながら、ノートを村崎の手に押し返した。
「……ない。何もない。」
「……そうですかぁ……。」
ぱたんとノートが閉じられる。
村崎は相変わらず小さく微笑んだ。
「でも……私は天城さんのこと、もっと知りたいので。特に最近の会長との関係とか。」
ふわっとした声のまま――
教室のざわめきの奥に溶けていった。
――背筋の奥に、
またひとつ“檻”が増えた気がした。
僕――天城 悠真は、教室の隅で自分の荷物をまとめていた。
(……準備とか言っても、俺が班でやれることなんか……。)
小さく溜息をついたとき、足元に黒いノートが落ちているのに気がついた。
(……村崎のか。)
ブカブカのカーディガンに埋もれて、いつも胸に抱えているあのノート。
机の後ろを振り返ると、村崎 天音が、教室の窓辺で相変わらずふわっとした顔をしていた。
「あー……村崎。」
声をかけようとしたけど、彼女はこっちを見て微かに笑っただけで、何も言わない。
(……落ちたの気づいてない?)
仕方なくノートを拾い上げた。
背表紙は柔らかくて、薄いペン跡がぎっしりと刻まれている。
何気なく、ほんの数ページだけめくった。
――そこにあったのは、淡い水彩みたいなインクで描かれたおぞましくも綺麗な“絵”だった。
(……は?)
セラフィーナに正座させられて、上半身裸で鞭を振り下ろされている――“僕”がいた。
(……は?)
次のページには、クラリスの足元に額を擦り付けて地面に土下座している“僕”がいた。
(おい……。)
頬に赤い跡が走っていて、その上に丁寧な字で
『服従する庶民』
『主と奴隷の逆転』
『評価値の秩序崩壊』
――意味がわからない。
(……何考えてんだ……こいつ……。)
教室の喧騒が遠のいた気がした。
汗が背中を滑り落ちる。
――全部妄想?
ページを閉じようとした瞬間、すぐ横に小さな影が立っていた。
村崎 天音――。
「……読んじゃったんですね。」
声は、いつも通りのふわっとした調子だった。
「……お前……。」
言葉が続かない。
村崎は指先でノートの端をそっと撫でた。
「落ちちゃったの、気づきませんでしたぁ……。」
――嘘だ。絶対わざとだ。
「……これ……どういう……。」
村崎はくすりと小さく笑った。
「天城さんと会長の関係、どうなってるのかなぁって。」
黒髪の奥の瞳だけが、どこか光を宿している。
「正座……鞭……土下座……。私、普段からいろいろな妄想をしているんです。」
ノートを取り戻そうとすると、
村崎は指先でそっと抑えて言った。
「――感想、ありますか?」
(……何が感想だ。)
僕は凍りついた背中を震わせながら、ノートを村崎の手に押し返した。
「……ない。何もない。」
「……そうですかぁ……。」
ぱたんとノートが閉じられる。
村崎は相変わらず小さく微笑んだ。
「でも……私は天城さんのこと、もっと知りたいので。特に最近の会長との関係とか。」
ふわっとした声のまま――
教室のざわめきの奥に溶けていった。
――背筋の奥に、
またひとつ“檻”が増えた気がした。
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