学院最弱底辺の僕にだけ従う最強生徒会長

塞翁が馬

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檻の外と書記の距離感

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 林間学校当日――。

 

 荷物を抱えた生徒たちは朝のまだ薄い光の中をバスの列へと進んでいく。

 

 僕――天城 悠真も、重たいバッグを肩に掛けて、言いようのない不安を背負いながら乗り込んだ。

 

 (……セラフィーナは……別のバスか。)

 

 同じ学年じゃない。生徒会長という肩書きがあっても、この行事では学年班行動が絶対。

 

 (……檻が……外れた、みたいだ。)

 

 バスの中は、ざわめきと遠慮のない笑い声でいっぱいだ。

 

 楽しげに座席を選ぶ奴ら、誰と隣になるかでモメる奴ら――僕はできれば一番後ろの、誰も来なさそうな席に逃げたかった。

 

 でも。

 

 「――天城さん。」

 

 前から歩いてきたのは、制服の袖を少しだけ引きずりそうなカーディガンの先輩。

 

 村崎 天音。

 

 小柄で黒髪ボブ、大きなメガネの奥の瞳は、薄い朝の光に透けて柔らかく見えた。

 

 ノートを胸に抱えたその姿は、一見、ただの内気な書記のはずだった。

 

 「ここ……隣、いいですかぁ?」

 

 断れる空気じゃなかった。

 

 「……どうぞ。」

 

 僕はそっけなく言って、自分のバッグを足元に押し込んだ。

 

 それなのに。

 

 ――ふわっ。

 

 村崎が座席に腰を下ろすと、距離が、近い。

 

 (……え……近くないか?)

 

 バスの二人掛けなんて、普通に座ってても肩が触れそうになるのは分かってる。

 

 でも、村崎の肩は明らかに、僕の二の腕にふわっと当たっていた。

 

 すぐ横で感じるのは、柔らかい髪の毛の先が制服の袖をくすぐる感触。

 

 そして、カーディガンの袖口から覗いた細い手が、ノートを膝の上でそっと撫でていた。

 

 (……こいつ……距離感……おかしい……。)

 

 ゴトゴトとバスが揺れるたびに、わざとか?と思うほどに肩が触れた。

 

 息を吸うと、村崎の香りがした。
 シャンプーの匂いと、ほんの少しだけインクの匂い。

 

 (……いや……変なこと考えるな俺……。)

 

 視線をずらすと、村崎はメガネの奥で、ちらりと僕の横顔を覗いていた。

 

 ノートを開く気配がする。

 

 (何を書いてんだ……。)

 

 ごくりと喉が鳴った。
 自分の心臓の音がやけに響く。

 

 その時。

 

 「天城さん……。」

 

 小さな声が、耳元に落ちた。

 

 「林間学校って……寝顔、見れるんですよねぇ……。」

 

 僕の背筋を氷の爪で引っかくような言葉。

 

 「……え?」

 

 村崎はノートをめくりながら、ゆっくりと肩を僕の肩に預けてくる。

 

 髪の毛が僕の頬をくすぐった。

 

 「夜……寝返り……どのくらい打つか……ちゃんと、観察しないと……。」

 

 囁き声はふわふわしているのに、言ってる内容が完全にアウトだった。

 

 (……おい、近い……!怖い……近い……!)

 

 脳内で警鐘が鳴る。顔が勝手に赤くなるのを止められない。

 

 村崎の手が、そっと僕の袖を摘んだ。

 

 「何か……隠してませんよねぇ……?」

 

 (やめろ、やめろ、やめろ……。)

 

 遠くの席では同級生たちが笑っているのに、僕の隣だけ、空気が妙に生ぬるくて、冷たかった。

 

 そして。

 

 「じゃあ……寝顔も……ちゃんと、記録しますから……。」

 

 にこ、と音を立てるみたいに笑った村崎の瞳は――どこまでも黒く澄んでいた。

 

 窓の外を見たら、セラフィーナはいない。

 

 守ってくれる檻が、今だけは一切、どこにもなかった。

 
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