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休日
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――寮の一室、休日の午後。
昼間の光はまだ優しくて、窓から入り込んだ春先の風がカーテンをわずかに揺らしている。
僕――天城 悠真は、散らばった荷物の山に向かって溜め息を吐いていた。
(……林間学校の準備って、何でこんな面倒くさいんだ……。)
旅行バッグの口は開けっぱなしで、中身はあれこれ入れたり出したりの繰り返し。
部屋の片隅には完璧な制服姿の白銀の影――
セラフィーナ・ルクレールが、物音も立てずに控えていた。
「悠真くん。」
名前を呼ばれるだけで、思わず肩が跳ねる。
「……なんだよ……。」
「準備は進んでいますか?」
「……見ての通りだろ……。」
言いながら、詰め込んだつもりの防寒具がバッグの外にずり落ちているのを見て自分でも情けなくなった。
セラフィーナは無言のまま、すっと近づいて防寒具を拾い上げた。
白い指先が丁寧に畳み直し、バッグに収められていく。
「――僕が自分でやるって……。」
言いかけた声はセラフィーナの氷の瞳に軽く捉えられて、小さく尻すぼみになった。
「悠真くんは、不慣れなことを無理に一人で進めるべきではありません。」
「……お前な……。」
睫毛が揺れるたびに、冷たく澄んだ光が落ちる。
どこまでが“従属”で、どこまでが“心配”なんだか――分からなくなる。
「……気詰まりですか?」
セラフィーナが、畳んだ荷物の隙間に視線を落とした。
「……。」
図星だった。
準備をすればするほど、林間学校の班割り、評価値、村崎やクラリス、全部が脳裏にちらつく。
(……胃が重い。)
セラフィーナは、僕の息が詰まるのを察したかのようにふと顔を上げた。
「――悠真くん。」
名を呼ぶ声が、ほんの少しだけ優しかった。
「今日は、外へ出ましょう。」
「……は?」
「気分転換です。部屋に閉じこもっていては気が滅入るだけですから。」
「外って……。」
言いながら、僕は自分のだらしない部屋着に目を落とした。
「いや、別に……出なくても……。準備しないと……。」
「外で、必要な物を買い足しましょう。」
即答だった。
その瞳に揺れはない。
「私が付き添います。悠真くんはリストだけ作ってください。」
「……だからさ……別に一人でも……。」
「だめです。」
きっぱり言い切られた。
「私は悠真くんの従者です。荷物の準備も、健康管理も、心の安定も――全て把握する責任があります。」
(……“檻”って言葉が、頭に浮かぶ。)
口にする前に、セラフィーナが小さく息を吸った。
「それに……。」
視線がほんの一瞬だけ伏せられた。
「……外なら、少しは悠真くんも……息がしやすいでしょうから。」
そう呟く声は、どこか普段の冷たい従属の調子とは違って聞こえた。
(……何でお前がそんな顔すんだよ……。)
心の奥で小さく噛み締める。
「……分かったよ。買い出しついでにな。」
僕が渋々言うと、セラフィーナの唇が、ほんの少しだけ緩んだ。
「ありがとうございます、悠真くん。」
――微笑まないのに、どこか空気が和らぐのが分かる。
「……でも、外でもあんま大げさに“主様”とか呼ぶなよ。人目あるから。」
「分かっています。」
セラフィーナは、小さく一歩下がって姿勢を正した。
「外にいても――私は悠真くんの従者です。何かあれば、必ずすぐ呼んでください。」
(……結局それか……。)
窓の外に吹き込む春風が、ほんの少しだけ檻の隙間を開けた気がした。
休日の光は、それでも白銀の髪を静かに照らしていた。
昼間の光はまだ優しくて、窓から入り込んだ春先の風がカーテンをわずかに揺らしている。
僕――天城 悠真は、散らばった荷物の山に向かって溜め息を吐いていた。
(……林間学校の準備って、何でこんな面倒くさいんだ……。)
旅行バッグの口は開けっぱなしで、中身はあれこれ入れたり出したりの繰り返し。
部屋の片隅には完璧な制服姿の白銀の影――
セラフィーナ・ルクレールが、物音も立てずに控えていた。
「悠真くん。」
名前を呼ばれるだけで、思わず肩が跳ねる。
「……なんだよ……。」
「準備は進んでいますか?」
「……見ての通りだろ……。」
言いながら、詰め込んだつもりの防寒具がバッグの外にずり落ちているのを見て自分でも情けなくなった。
セラフィーナは無言のまま、すっと近づいて防寒具を拾い上げた。
白い指先が丁寧に畳み直し、バッグに収められていく。
「――僕が自分でやるって……。」
言いかけた声はセラフィーナの氷の瞳に軽く捉えられて、小さく尻すぼみになった。
「悠真くんは、不慣れなことを無理に一人で進めるべきではありません。」
「……お前な……。」
睫毛が揺れるたびに、冷たく澄んだ光が落ちる。
どこまでが“従属”で、どこまでが“心配”なんだか――分からなくなる。
「……気詰まりですか?」
セラフィーナが、畳んだ荷物の隙間に視線を落とした。
「……。」
図星だった。
準備をすればするほど、林間学校の班割り、評価値、村崎やクラリス、全部が脳裏にちらつく。
(……胃が重い。)
セラフィーナは、僕の息が詰まるのを察したかのようにふと顔を上げた。
「――悠真くん。」
名を呼ぶ声が、ほんの少しだけ優しかった。
「今日は、外へ出ましょう。」
「……は?」
「気分転換です。部屋に閉じこもっていては気が滅入るだけですから。」
「外って……。」
言いながら、僕は自分のだらしない部屋着に目を落とした。
「いや、別に……出なくても……。準備しないと……。」
「外で、必要な物を買い足しましょう。」
即答だった。
その瞳に揺れはない。
「私が付き添います。悠真くんはリストだけ作ってください。」
「……だからさ……別に一人でも……。」
「だめです。」
きっぱり言い切られた。
「私は悠真くんの従者です。荷物の準備も、健康管理も、心の安定も――全て把握する責任があります。」
(……“檻”って言葉が、頭に浮かぶ。)
口にする前に、セラフィーナが小さく息を吸った。
「それに……。」
視線がほんの一瞬だけ伏せられた。
「……外なら、少しは悠真くんも……息がしやすいでしょうから。」
そう呟く声は、どこか普段の冷たい従属の調子とは違って聞こえた。
(……何でお前がそんな顔すんだよ……。)
心の奥で小さく噛み締める。
「……分かったよ。買い出しついでにな。」
僕が渋々言うと、セラフィーナの唇が、ほんの少しだけ緩んだ。
「ありがとうございます、悠真くん。」
――微笑まないのに、どこか空気が和らぐのが分かる。
「……でも、外でもあんま大げさに“主様”とか呼ぶなよ。人目あるから。」
「分かっています。」
セラフィーナは、小さく一歩下がって姿勢を正した。
「外にいても――私は悠真くんの従者です。何かあれば、必ずすぐ呼んでください。」
(……結局それか……。)
窓の外に吹き込む春風が、ほんの少しだけ檻の隙間を開けた気がした。
休日の光は、それでも白銀の髪を静かに照らしていた。
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