学院最弱底辺の僕にだけ従う最強生徒会長

塞翁が馬

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課題の提出

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森の奥に佇む、古い修道院跡地。
 何百年も前に建てられたという石造りの建物は、今では林間学校の研修施設として学院が管理している。

 昼の熱気がまだ残っているのに、
 石壁に囲まれた廊下を歩くと、空気はひんやりとしていて、
 足音が吸い込まれていく。

 修道院の旧食堂――
 かつて修道士たちが祈りと食事を共にしたというその部屋は、今では簡易のAI端末ブースに改装されていた。

 壁には古いステンドグラスが残され、かすかな陽光が青や赤に揺れている。

 その光の中で、無機質なモニターに少女の姿が映し出されていた。

 AI監視システム――クレア。

 学院内では当たり前の存在でも、こんな場所では一層、浮世離れして見える。

 封筒を胸元に抱えた村崎天音が、ステンドグラスの淡い光を受けながら、静かに端末の前に立った。

 「課題の提出、お願いします。」

 くすりと笑っているようにも見える声でそう告げると、クレアの瞳がわずかに瞬いた。

 《課題提出を確認しました。解析を開始します。》

 僕――天城悠真は、瑞穂と結城、乙葉と並んでその様子を遠巻きに見つめていた。

 白い石造りの壁の冷気が背中にじわりと張り付く。

 「もし間違ってたら……やばいよね?」

 瑞穂の声が、小さく震えていた。

 「俺、何もしてねえからな……。」

 結城が自嘲気味に笑う。

 乙葉は不安そうに天音の背中をじっと見つめ、手帳をぎゅっと握りしめていた。

 僕は――何も言えなかった。

 天音がすらすらと解いた三つの謎は、どう考えても僕一人では辿り着けなかった。

 《正解です。》

 短く、冷たい機械音声が、旧食堂の静寂を切り裂いた。

 《班全員は、修道院跡地の森の奥に残された旧校舎跡地へ向かい、封印された“鍵の標”を探し、それを写真に収めて提出してください。制限時間は夜明けまでです。》

 クレアの映像がぱたりと消える。

 古い修道院の壁に再び、青いステンドグラスの影だけが揺らめいていた。

 外に出ると、森の冷たい風がすっと頬を撫でていった。

 瑞穂が真っ先に声を上げた。

 「すごい……天音ちゃん、本当に一発で……!」

 「だな……俺、こんな頭回るの見たことねえ。」

 結城が不器用に頭をかき、乙葉は天音の袖をそっと引っぱった。

 「天音さん、すごいです……。安心しました……!」

 天音は、石畳の上で少しだけ頬を赤らめて笑った。

 「そんな、私だけじゃないですよ?みんながいたからです。」

 そんなわけない。

 誰がどう聞いても、全部一人で解き切ったのは天音だ。

 僕だけは少しだけ距離を置いて、みんなの輪を眺めていた。

 やっぱり――すごいやつだ。

 笑顔も仕草も柔らかいのに、やるときは全部自分で終わらせてしまう。

 羨ましいと思うのに、胸の奥が少しだけ冷たく締めつけられた。

 修道院の古い壁に当たった風が、僕の背中だけに纏わりついているような気がした。

 「……天城くん。」

 その冷気を断ち切るみたいに、すぐ背中で呼ばれた。

 気づけば天音は、他のみんなに見えない角度で僕のすぐ横にいた。

 「……天城くんは、何も言ってくれないんですね。」

 ステンドグラスからこぼれる青い光が天音の髪の端にだけ淡く滲む。

 さっきまでみんなに向けていた笑顔が、僕の前だけで少しだけ形を変えた。

 「……別に……言わなくてもいいだろ。」

 うまく声が出ない。

 「ほかのみんなは、いっぱい褒めてくれたのに。」

 小さく指先が、僕の制服の袖をつまむ。

 「天城くんは……何も言ってくれないんですか?」

 耳元に落ちる声は、この石の壁よりずっと冷たいのに、なのにどこかで甘く絡みつく。

 「……思ってるよ。」

 喉を絞り出すように言うと、天音はふわっと目を細めて笑った。

 「ほんとに?」

 無邪気に笑ったのに、袖をつまむ指先だけは、離れるときも一瞬だけ離さない。

 修道院の古い壁に吹き込む森の風が、さっきより少しだけ冷たく感じた。
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