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おもり役、フル稼働中
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放課後――僕が教室で荷物をまとめていると、そのすぐ横で、なにやら“過保護な気配”が膨らみつつあった。
「天城くん、帰り支度、進んでますか?」
ふわりとした声に振り向くと、そこには――
いつもの穏やかな笑顔を浮かべる村崎天音がいた。
ただしその手には、「手提げ袋(保温仕様)」「水筒」「お手拭きシート」「何かのリスト表」など、明らかに“異常な装備”が揃っていた。
「えーと……それ、なに?」
「お帰りフルサポートセットです。今日は風が冷たいので、帰り道はこれを……はい、ホットゆず茶です」
差し出された水筒はすでに湯気が立っていた。どのタイミングで準備したんだこれ。
「いやいや、僕別にそんな大層な帰宅じゃないし、普通に歩いて帰るだけだし――」
「だからこそ、気を抜いて体を冷やすんです。あと、今日は午後から曇ってましたから、湿度と体感温度に差があります」
「なんでそんな気象庁並みの分析してんの!?」
「では、まずお鞄をどうぞ」
スッと差し出された両手。
いや、なんで当然のように僕の鞄を持つ構えになってるんだ。
「いや、鞄くらい自分で――」
「……持たせてください。天城くん、左肩、少し下がってました。たぶん疲れてます」
「見ただけでそこまで分かる!? エスパーなの!?」
結局、押し切られるようにして鞄を預けることになった。
すると今度は、彼女が手にしていたメモ帳をペラリと開く。
「今日の天城くん観察メモ……ふむふむ。午前は三回あくび、二限目で背中をかいてた、昼食はおにぎり2個と唐揚げ、飲み物は麦茶、午後の五限で一瞬まぶたが落ちた……」
「こっわ!? ログ取られてる!!?」
「えへへ……ちゃんと見てますから」
嬉しそうに微笑まれても全然安心できない。
「じゃあ、帰り道はこっちです。今日の予測だと、風が弱くて坂道の少ないルートを選びました。コンビニも通りますので、帰りに栄養補給を」
「なんで僕が災害時の避難誘導みたいな扱いされてるの!?」
「ちなみに、非常時用のエナジージェルもありますよ。……ポーチに三本、入れてきました」
「持ちすぎ!! 登山か!!?」
しかもそのポーチ、たしかに腰にぶら下げてる。かわいい顔してどんだけガチなんだ。
道中、僕がくしゃみをひとつしただけで――
「……っ!? はい、すぐにのど飴!」
「ちょ、ちょっと待って! それは早すぎる!?」
「念のため、うがい薬とマスクもあります。あ、マスクは不織布とガーゼの二種類用意してきたので、お好みでどうぞ」
「いやだから! 過剰! 過保護! 過ぎる!!」
「“か”が多いですね。ふふ……かわいがってる、ってことで」
「上手くまとめようとしないで!!」
――こうして。
僕の“おもり役”に就任した天音は、その日からさっそく、命を削る勢いの全力サポートを発動してきたのだった。
本人は終始にこにこ。
とても困った様子など見せない。
けれど、帰り際――
「……今日は、悠真くんが倒れたりしないか、ちょっとドキドキしてたんです」
と、小さく呟いたその声は、
ほんの少しだけ、張り詰めていた。
僕が驚いて顔を向けると、
天音はふわりと笑って首を振る。
「大丈夫。これからは、あたしがいますから」
その言葉に――
セラフィーナと同じくらい、重たい安心を感じてしまったのは、たぶん気のせいじゃない。
「天城くん、帰り支度、進んでますか?」
ふわりとした声に振り向くと、そこには――
いつもの穏やかな笑顔を浮かべる村崎天音がいた。
ただしその手には、「手提げ袋(保温仕様)」「水筒」「お手拭きシート」「何かのリスト表」など、明らかに“異常な装備”が揃っていた。
「えーと……それ、なに?」
「お帰りフルサポートセットです。今日は風が冷たいので、帰り道はこれを……はい、ホットゆず茶です」
差し出された水筒はすでに湯気が立っていた。どのタイミングで準備したんだこれ。
「いやいや、僕別にそんな大層な帰宅じゃないし、普通に歩いて帰るだけだし――」
「だからこそ、気を抜いて体を冷やすんです。あと、今日は午後から曇ってましたから、湿度と体感温度に差があります」
「なんでそんな気象庁並みの分析してんの!?」
「では、まずお鞄をどうぞ」
スッと差し出された両手。
いや、なんで当然のように僕の鞄を持つ構えになってるんだ。
「いや、鞄くらい自分で――」
「……持たせてください。天城くん、左肩、少し下がってました。たぶん疲れてます」
「見ただけでそこまで分かる!? エスパーなの!?」
結局、押し切られるようにして鞄を預けることになった。
すると今度は、彼女が手にしていたメモ帳をペラリと開く。
「今日の天城くん観察メモ……ふむふむ。午前は三回あくび、二限目で背中をかいてた、昼食はおにぎり2個と唐揚げ、飲み物は麦茶、午後の五限で一瞬まぶたが落ちた……」
「こっわ!? ログ取られてる!!?」
「えへへ……ちゃんと見てますから」
嬉しそうに微笑まれても全然安心できない。
「じゃあ、帰り道はこっちです。今日の予測だと、風が弱くて坂道の少ないルートを選びました。コンビニも通りますので、帰りに栄養補給を」
「なんで僕が災害時の避難誘導みたいな扱いされてるの!?」
「ちなみに、非常時用のエナジージェルもありますよ。……ポーチに三本、入れてきました」
「持ちすぎ!! 登山か!!?」
しかもそのポーチ、たしかに腰にぶら下げてる。かわいい顔してどんだけガチなんだ。
道中、僕がくしゃみをひとつしただけで――
「……っ!? はい、すぐにのど飴!」
「ちょ、ちょっと待って! それは早すぎる!?」
「念のため、うがい薬とマスクもあります。あ、マスクは不織布とガーゼの二種類用意してきたので、お好みでどうぞ」
「いやだから! 過剰! 過保護! 過ぎる!!」
「“か”が多いですね。ふふ……かわいがってる、ってことで」
「上手くまとめようとしないで!!」
――こうして。
僕の“おもり役”に就任した天音は、その日からさっそく、命を削る勢いの全力サポートを発動してきたのだった。
本人は終始にこにこ。
とても困った様子など見せない。
けれど、帰り際――
「……今日は、悠真くんが倒れたりしないか、ちょっとドキドキしてたんです」
と、小さく呟いたその声は、
ほんの少しだけ、張り詰めていた。
僕が驚いて顔を向けると、
天音はふわりと笑って首を振る。
「大丈夫。これからは、あたしがいますから」
その言葉に――
セラフィーナと同じくらい、重たい安心を感じてしまったのは、たぶん気のせいじゃない。
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