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episode 1【Fullcolor Twins】
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学校帰り、猫背気味に狭い歩道を歩く少年・三宅直里(みやけ・なおさと)の後頭部をツインテールの少女が学生鞄でバコーンと叩き、追い抜いていった。
「いってぇな! 何すんだよ、冴里(さえり)!」
豪快につんのめった直里を見て、さも楽しげに笑う少女。何本も髪に結わえた組み紐がツインテールと一緒に揺れる。彼女の顔立ちは直里と瓜二つ。二人は二卵性の双子であった。
「えへへっ、ボーッと歩いてるからだよっ! 私、先に行ってるからね!」
「ったく……、泉樹もよくあんなのと付き合ってられるよな」
冴里の恋人で直里の友人でもある津ヶ原泉樹(つがはら・いずき)の姿を思い浮かべる。
温厚で物静かな泉樹と勝ち気で活発な冴里は真逆のタイプで、直里には二人の気が合うようには思えないのだが、もう付き合い始めて半年ほどになる。
「カレシが待ってるからって、あんな急いで行かなくても、スタバは逃げねぇだろ」
ブツブツと文句を垂れながら再び歩き出そうとした直里の視界に、白い紙飛行機が舞い込んできた。紙飛行機は吸い寄せられるように直里の手元へと下りてきて、ピタリと空中で動きを止める。
「千詠のヒコーキか……」
直里が手を差し出すと、紙飛行機は手のひらにそっと着地した。
この紙飛行機を飛ばしてきたのは、直里と冴里の友人・宗方千詠(むなかた・ちよみ)だと直里にはわかっていた。
千詠は紙に魔力を込める能力の持ち主だ。千詠の手によって折られた紙飛行機は、彼女の望む相手の元へと確実に飛んでいく。目立つ異能ではないため、仲間内の秘密の伝達手段としてよく使われている。
とは言っても、内容は大したことではない場合がほとんどなのだが。
直里が紙飛行機を開いてみると、待ち合わせ場所が近くのスタバからやや離れたところにあるカフェに変更になった、という連絡だった。
理由はだいたい予想がつく。イツメンの中にウーバーイーツのアルバイトで街中を走り回っている男がおり、彼の仕事の都合でこうして待ち合わせ場所が変わることは珍しくないのだ。
これから直里と冴里が会おうとしているのは【Felice
(フェリーチェ)】というシェアハウスに暮らす異能者たちで、二ヶ月ほど前、三宅兄妹もそこに仲間入りしたばかりだ。
フェリーチェの面々は年齢も肩書きも皆バラバラではあるが、普段は異能者だということを隠して生活している点だけは共通していた。
道を変更して少し進むと、直里と同じように紙飛行機を手にした冴里が佇んでいるのが見えた。何故か傍らの街路樹をじっと見上げたまま、直里を見ようともしない。
視線の先を追うと、木の枝の上で動かない子猫が一匹。どうやら下りられなくなったらしい。
「まさかアレ助けるとか言わねーよな」
「ほっとけないでしょ。よく見てよ、あの子の目」
子猫は片目に怪我をしているようだ。他の猫とケンカでもしたのだろうか。
「病院、つれてってあげなきゃ」
「こんな細い木、オレたちじゃのぼれねぇぞ」
「だったら、私たちの力で……」
「誰かに見られたらどうすんだよ。紙飛行機とはわけが違うんだからな」
「でも!」
兄妹で十分ほど言い合いをして、結局、直里が折れた。
「しゃーねーな……。受け止めるのはおまえに任すから、ちゃんとやれよ」
まずはキョロキョロと辺りを見回し、人通りがないことを確認。そして、直里がポケットから取り出したのは直径10mmほどの透明なガラスビーズだった。
目を閉じて集中すると、ガラスビーズが鮮烈な紅色へと変わる。
直里が使う異能の特徴は色。自らの魔力で物に色を付けることができ、その色の種類によって様々な特性の術が発揮される。紅色の特性は[衝撃]だ。
「いくぞ、冴里!」
「うん!」
手のひらの上から風を切るような音と共に撃ち出されたガラスビーズは、子猫がいる木の幹までもゴッソリとえぐり取った。
支えを失った子猫は宙を舞い、落下していく。
すかさず何本もの緑色の紐が地を這って子猫の元へ向かい、小さな身体を守るように巻き付いて受け止めた。
「ふう……」
安堵の溜め息を吐いた冴里の髪は解けて腰の辺りまで垂れている。子猫の身体を受け止めたのは、彼女の髪を結わえていた組み紐だった。
冴里も直里と同様に色を使う異能の持ち主だが、彼女の場合、自分が魔力を込めて編んだ紐の色しか変えられない。その代わりに組み紐を自在に動かすという直里にはできない芸当が可能だ。
冴里は[ダメージ吸収]の特性を持つ緑色に変えた組み紐で守った子猫に近づき、手をかざして組み紐を解く。
しかし、冴里が抱き上げようとした途端、子猫はその手をすり抜けていってしまった。
「待って! 怪我の手当てがまだ……」
慌てて追いかけようとした冴里の足が止まる。
逃げてしまうと思われた子猫は、あるものに気を取られ、その場に留まっていた。
それは五匹のハムスターだった。ただし、背中には小さな羽根が生えており、子猫の周りをパタパタと飛び回っている。
空飛ぶハムスターを目で追うのに夢中になって逃げるのを忘れた子猫を、長髪の小柄な男がそっと抱き上げた。
その人物を直里も冴里もよく知っている。
「泉樹くん!」
カフェで待っているはずだったメンバーの一人・津ヶ原泉樹が、子猫を胸に抱いて穏やかな笑みを浮かべる。
「この子たちを連れてきてよかったよ、そろそろ時間切れのようだけどね」
泉樹が言い終えるのを待たずに、ハムスターたちはスゥッと消えていった。
彼の使う異能は、魔力を込めた筆記用具で描いた生物を一定時間具現化して操る、というものだ。先程の羽根が生えたハムスターのように現実離れした生物でも具現化は可能だが、描いたままのサイズにしかできず、大きければ大きいほどタイムリミットが早い等、様々な制約がある。
「わざわざ迎えにきてくれたの?」
「少し遅かったから心配になって……」
「泉樹くん優しいー、大好き!」
早速いちゃつき始めた二人にウンザリした表情になっていた直里の元に、新たな紙飛行機が飛んできた。
「え?」
紙飛行機を広げると、そこには「上を見て」と書かれていた。
広げた紙を持ったまま直里が顔を上げると、歩道橋の上から手を振り微笑む千詠の姿が見えた。
小学生と間違われるほど幼い外見をしていても、千詠は十七歳の三宅兄妹より二つ年上。性格も二人よりずっとしっかり者で大人びている。
そんな千詠に直里は仄かな恋心を抱いているのだが、その恋が実るかどうかは――また別のお話。
「いってぇな! 何すんだよ、冴里(さえり)!」
豪快につんのめった直里を見て、さも楽しげに笑う少女。何本も髪に結わえた組み紐がツインテールと一緒に揺れる。彼女の顔立ちは直里と瓜二つ。二人は二卵性の双子であった。
「えへへっ、ボーッと歩いてるからだよっ! 私、先に行ってるからね!」
「ったく……、泉樹もよくあんなのと付き合ってられるよな」
冴里の恋人で直里の友人でもある津ヶ原泉樹(つがはら・いずき)の姿を思い浮かべる。
温厚で物静かな泉樹と勝ち気で活発な冴里は真逆のタイプで、直里には二人の気が合うようには思えないのだが、もう付き合い始めて半年ほどになる。
「カレシが待ってるからって、あんな急いで行かなくても、スタバは逃げねぇだろ」
ブツブツと文句を垂れながら再び歩き出そうとした直里の視界に、白い紙飛行機が舞い込んできた。紙飛行機は吸い寄せられるように直里の手元へと下りてきて、ピタリと空中で動きを止める。
「千詠のヒコーキか……」
直里が手を差し出すと、紙飛行機は手のひらにそっと着地した。
この紙飛行機を飛ばしてきたのは、直里と冴里の友人・宗方千詠(むなかた・ちよみ)だと直里にはわかっていた。
千詠は紙に魔力を込める能力の持ち主だ。千詠の手によって折られた紙飛行機は、彼女の望む相手の元へと確実に飛んでいく。目立つ異能ではないため、仲間内の秘密の伝達手段としてよく使われている。
とは言っても、内容は大したことではない場合がほとんどなのだが。
直里が紙飛行機を開いてみると、待ち合わせ場所が近くのスタバからやや離れたところにあるカフェに変更になった、という連絡だった。
理由はだいたい予想がつく。イツメンの中にウーバーイーツのアルバイトで街中を走り回っている男がおり、彼の仕事の都合でこうして待ち合わせ場所が変わることは珍しくないのだ。
これから直里と冴里が会おうとしているのは【Felice
(フェリーチェ)】というシェアハウスに暮らす異能者たちで、二ヶ月ほど前、三宅兄妹もそこに仲間入りしたばかりだ。
フェリーチェの面々は年齢も肩書きも皆バラバラではあるが、普段は異能者だということを隠して生活している点だけは共通していた。
道を変更して少し進むと、直里と同じように紙飛行機を手にした冴里が佇んでいるのが見えた。何故か傍らの街路樹をじっと見上げたまま、直里を見ようともしない。
視線の先を追うと、木の枝の上で動かない子猫が一匹。どうやら下りられなくなったらしい。
「まさかアレ助けるとか言わねーよな」
「ほっとけないでしょ。よく見てよ、あの子の目」
子猫は片目に怪我をしているようだ。他の猫とケンカでもしたのだろうか。
「病院、つれてってあげなきゃ」
「こんな細い木、オレたちじゃのぼれねぇぞ」
「だったら、私たちの力で……」
「誰かに見られたらどうすんだよ。紙飛行機とはわけが違うんだからな」
「でも!」
兄妹で十分ほど言い合いをして、結局、直里が折れた。
「しゃーねーな……。受け止めるのはおまえに任すから、ちゃんとやれよ」
まずはキョロキョロと辺りを見回し、人通りがないことを確認。そして、直里がポケットから取り出したのは直径10mmほどの透明なガラスビーズだった。
目を閉じて集中すると、ガラスビーズが鮮烈な紅色へと変わる。
直里が使う異能の特徴は色。自らの魔力で物に色を付けることができ、その色の種類によって様々な特性の術が発揮される。紅色の特性は[衝撃]だ。
「いくぞ、冴里!」
「うん!」
手のひらの上から風を切るような音と共に撃ち出されたガラスビーズは、子猫がいる木の幹までもゴッソリとえぐり取った。
支えを失った子猫は宙を舞い、落下していく。
すかさず何本もの緑色の紐が地を這って子猫の元へ向かい、小さな身体を守るように巻き付いて受け止めた。
「ふう……」
安堵の溜め息を吐いた冴里の髪は解けて腰の辺りまで垂れている。子猫の身体を受け止めたのは、彼女の髪を結わえていた組み紐だった。
冴里も直里と同様に色を使う異能の持ち主だが、彼女の場合、自分が魔力を込めて編んだ紐の色しか変えられない。その代わりに組み紐を自在に動かすという直里にはできない芸当が可能だ。
冴里は[ダメージ吸収]の特性を持つ緑色に変えた組み紐で守った子猫に近づき、手をかざして組み紐を解く。
しかし、冴里が抱き上げようとした途端、子猫はその手をすり抜けていってしまった。
「待って! 怪我の手当てがまだ……」
慌てて追いかけようとした冴里の足が止まる。
逃げてしまうと思われた子猫は、あるものに気を取られ、その場に留まっていた。
それは五匹のハムスターだった。ただし、背中には小さな羽根が生えており、子猫の周りをパタパタと飛び回っている。
空飛ぶハムスターを目で追うのに夢中になって逃げるのを忘れた子猫を、長髪の小柄な男がそっと抱き上げた。
その人物を直里も冴里もよく知っている。
「泉樹くん!」
カフェで待っているはずだったメンバーの一人・津ヶ原泉樹が、子猫を胸に抱いて穏やかな笑みを浮かべる。
「この子たちを連れてきてよかったよ、そろそろ時間切れのようだけどね」
泉樹が言い終えるのを待たずに、ハムスターたちはスゥッと消えていった。
彼の使う異能は、魔力を込めた筆記用具で描いた生物を一定時間具現化して操る、というものだ。先程の羽根が生えたハムスターのように現実離れした生物でも具現化は可能だが、描いたままのサイズにしかできず、大きければ大きいほどタイムリミットが早い等、様々な制約がある。
「わざわざ迎えにきてくれたの?」
「少し遅かったから心配になって……」
「泉樹くん優しいー、大好き!」
早速いちゃつき始めた二人にウンザリした表情になっていた直里の元に、新たな紙飛行機が飛んできた。
「え?」
紙飛行機を広げると、そこには「上を見て」と書かれていた。
広げた紙を持ったまま直里が顔を上げると、歩道橋の上から手を振り微笑む千詠の姿が見えた。
小学生と間違われるほど幼い外見をしていても、千詠は十七歳の三宅兄妹より二つ年上。性格も二人よりずっとしっかり者で大人びている。
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