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episode 2【星良の災難な1日】エピローグ
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希以からの連絡で星良が重傷を負っていると聞いた梅子は、車を飛ばして廃ビルに駆けつけ、星良を医師のところまで搬送した。
といっても、普通の医師ではない。異能者を専門に診る、治癒系の異能を持つ医師だ。
きちんとした医師免許こそ所持していないものの、治癒能力者としての技能は非常に優秀で、梅子が確固たる信頼を寄せている人物の一人である。
彼の能力をもってしても一度の治療では完全には治せないほど星良の負傷度合いは酷く、意識が戻るまで三日かかったうえに、一ヶ月ほど入院し継続して治癒術をかけ続ける必要があるそうだ。
「今回は本当に災難だったね、星良」
ベッドで上体を起こして座っている星良に声をかけ、傍のパイプ椅子に腰掛ける。
隣の椅子では、陽出が果物ナイフで手際よくリンゴの皮を剥いている。
「ああ、危うく死ぬとこだった」
「生きててくれて良かったよ、本当に」
フェリーチェからエタンドルの犠牲者が出ないことを切に祈っていた梅子は、星良がクリーチャーと遭遇したとの連絡が入って気が気ではなかった。
しかし、異能を持たない梅子が現場にすぐ駆けつけたところで足手まといになるだけ。戦闘の救援は希以や直里たちに任せるしかない。
梅子にできたのは、予め医師と連絡を取り、負傷者が出た際にすぐ治療に取りかかれるよう頼んでおくぐらいのものだった。
「少し時間はかかるけど、腕も元通り動くようになるそうだよ」
「早いとこ治ってくれなきゃ困る。バイトがあるからな」
「入院中くらいバイトのことは忘れな。まったく、真面目なんだか不真面目なんだかわかんない子だね、あんたは」
重傷を負って入院しているにも関わらずバイトの心配をする星良に呆れ、梅子は苦笑いしつつ胸ポケットに手を伸ばし――
「おっと、ここは禁煙だったね」
取り出しかけた煙草の箱をスッとポケットの中に戻した。
「それも困るんだよなぁ。早く退院しねぇと煙草も吸えやしねぇ」
「じゃあ、星良に付き合って私も一ヶ月禁煙しようか」
「超絶ヘビースモーカーの梅さんが? 絶対ムリだろ」
「……だね。正直、自信ないからやめとくわ」
喫煙者同士、顔を見合わせて笑う。
「リンゴ剥けたよ、星良くん」
キレイに剥いて八等分に切り分けたリンゴの乗った皿を、陽出がオーバーテーブルに置く。
「はい、どうぞ」
陽出はごくごく自然な動作でリンゴにフォークを刺し、星良の口元に差し出した。
おそらく陽出は誰に対してもそうするのだろうが、星良は面白いほどに狼狽え、梅子は思わず笑いそうになるのを堪える。
「え、あ、いや、自分で食べれるから!」
「でも、腕に怪我してるし……」
「利き腕は無事だから大丈夫だって!」
星良が陽出を意識していることに気付いている梅子は、二人のやり取りが愉快でたまらない。
「いいじゃないか、重傷には違いないんだし今のうちに甘えときなよ」
「梅さん……!」
星良が何か言いたげに梅子を睨む。
「ご、ごめんなさい、私ってばすぐお節介しちゃって、迷惑だよね」
「いや、迷惑とかじゃ……」
「置いておくから、ゆっくり食べてね」
フォークの刺さったリンゴを皿に戻そうとした陽出の手を、星良の右手が掴んで口元に引き寄せ、一口かじった。
――おやおや、不器用な星良にしちゃ随分と大胆なことするじゃないか。
星良のとった行動に、梅子はにんまりと口角を上げた。
「あ、あの……、星良くん……」
「迷惑じゃないって言ったろ」
二人の目線が合い、お互いに頬を赤く染める。
「おーっす、一応見舞いに来てやったぜぇセーラちゃん」
いきなり直里が勢いよくドアを開け、病室に入ってきた。
そして、陽出の手を掴んだままの星良と、二人の赤らんだ顔を見てニヤリと笑う。
「へぇー、そっかそっか、俺はお邪魔虫みたいだなぁ」
「ちょっ……待っ……、これはだな、ただ、リンゴを……、っつーかオマエまたセーラちゃんって……」
何から訂正していいのかわからない様子であたふたする星良に、直里が畳み掛ける。
「ちょうどみんな時間が空いてたから全員で来たんだけど、そういうことなら出直すかぁ」
直里はクルリと背を向け、病室の外にいるらしい仲間たちに呼びかける。
「おーい、星良が今は陽出さんとイチャイチャしてるから来るなってよー」
直里の言葉に反応して、外からフェリーチェの仲間たちのざわめきが聞こえてくる。
「おいコラ、直里! 痛っ……」
直里を止めようと急に身体をよじったせいで、まだ治りきっていない傷が痛んだらしく、星良はベッドに倒れ込む。
「星良くん、大丈夫!? そんな急に動いちゃダメだよっ」
慌てて陽出が星良を気遣う。
「じゃあなー。ヒマでヒマでしょうがないときに気が向いたらまた来てやるよ」
そう言って直里は締めかけのドアの隙間から手をひらひらさせた。
「テメェは二度と来んな、クソガキぃぃっ!!」
負傷していない右手でサイドテーブルに置いてある雑誌を掴み、星良はドアに向かって思いきり投げつける。
耐えきれずに吹き出した梅子は、また星良に睨まれてしまった。
咳払いをして気を取り直し、今後のフェリーチェ入居者たちの暮らしについて考える。
――この街も平和とは言えなくなっちまったね……。なるべくこの子たちの生活は変えたくないから移転はしないけど、またこんなことにならないように何か対策をしておかないと……。
といっても、普通の医師ではない。異能者を専門に診る、治癒系の異能を持つ医師だ。
きちんとした医師免許こそ所持していないものの、治癒能力者としての技能は非常に優秀で、梅子が確固たる信頼を寄せている人物の一人である。
彼の能力をもってしても一度の治療では完全には治せないほど星良の負傷度合いは酷く、意識が戻るまで三日かかったうえに、一ヶ月ほど入院し継続して治癒術をかけ続ける必要があるそうだ。
「今回は本当に災難だったね、星良」
ベッドで上体を起こして座っている星良に声をかけ、傍のパイプ椅子に腰掛ける。
隣の椅子では、陽出が果物ナイフで手際よくリンゴの皮を剥いている。
「ああ、危うく死ぬとこだった」
「生きててくれて良かったよ、本当に」
フェリーチェからエタンドルの犠牲者が出ないことを切に祈っていた梅子は、星良がクリーチャーと遭遇したとの連絡が入って気が気ではなかった。
しかし、異能を持たない梅子が現場にすぐ駆けつけたところで足手まといになるだけ。戦闘の救援は希以や直里たちに任せるしかない。
梅子にできたのは、予め医師と連絡を取り、負傷者が出た際にすぐ治療に取りかかれるよう頼んでおくぐらいのものだった。
「少し時間はかかるけど、腕も元通り動くようになるそうだよ」
「早いとこ治ってくれなきゃ困る。バイトがあるからな」
「入院中くらいバイトのことは忘れな。まったく、真面目なんだか不真面目なんだかわかんない子だね、あんたは」
重傷を負って入院しているにも関わらずバイトの心配をする星良に呆れ、梅子は苦笑いしつつ胸ポケットに手を伸ばし――
「おっと、ここは禁煙だったね」
取り出しかけた煙草の箱をスッとポケットの中に戻した。
「それも困るんだよなぁ。早く退院しねぇと煙草も吸えやしねぇ」
「じゃあ、星良に付き合って私も一ヶ月禁煙しようか」
「超絶ヘビースモーカーの梅さんが? 絶対ムリだろ」
「……だね。正直、自信ないからやめとくわ」
喫煙者同士、顔を見合わせて笑う。
「リンゴ剥けたよ、星良くん」
キレイに剥いて八等分に切り分けたリンゴの乗った皿を、陽出がオーバーテーブルに置く。
「はい、どうぞ」
陽出はごくごく自然な動作でリンゴにフォークを刺し、星良の口元に差し出した。
おそらく陽出は誰に対してもそうするのだろうが、星良は面白いほどに狼狽え、梅子は思わず笑いそうになるのを堪える。
「え、あ、いや、自分で食べれるから!」
「でも、腕に怪我してるし……」
「利き腕は無事だから大丈夫だって!」
星良が陽出を意識していることに気付いている梅子は、二人のやり取りが愉快でたまらない。
「いいじゃないか、重傷には違いないんだし今のうちに甘えときなよ」
「梅さん……!」
星良が何か言いたげに梅子を睨む。
「ご、ごめんなさい、私ってばすぐお節介しちゃって、迷惑だよね」
「いや、迷惑とかじゃ……」
「置いておくから、ゆっくり食べてね」
フォークの刺さったリンゴを皿に戻そうとした陽出の手を、星良の右手が掴んで口元に引き寄せ、一口かじった。
――おやおや、不器用な星良にしちゃ随分と大胆なことするじゃないか。
星良のとった行動に、梅子はにんまりと口角を上げた。
「あ、あの……、星良くん……」
「迷惑じゃないって言ったろ」
二人の目線が合い、お互いに頬を赤く染める。
「おーっす、一応見舞いに来てやったぜぇセーラちゃん」
いきなり直里が勢いよくドアを開け、病室に入ってきた。
そして、陽出の手を掴んだままの星良と、二人の赤らんだ顔を見てニヤリと笑う。
「へぇー、そっかそっか、俺はお邪魔虫みたいだなぁ」
「ちょっ……待っ……、これはだな、ただ、リンゴを……、っつーかオマエまたセーラちゃんって……」
何から訂正していいのかわからない様子であたふたする星良に、直里が畳み掛ける。
「ちょうどみんな時間が空いてたから全員で来たんだけど、そういうことなら出直すかぁ」
直里はクルリと背を向け、病室の外にいるらしい仲間たちに呼びかける。
「おーい、星良が今は陽出さんとイチャイチャしてるから来るなってよー」
直里の言葉に反応して、外からフェリーチェの仲間たちのざわめきが聞こえてくる。
「おいコラ、直里! 痛っ……」
直里を止めようと急に身体をよじったせいで、まだ治りきっていない傷が痛んだらしく、星良はベッドに倒れ込む。
「星良くん、大丈夫!? そんな急に動いちゃダメだよっ」
慌てて陽出が星良を気遣う。
「じゃあなー。ヒマでヒマでしょうがないときに気が向いたらまた来てやるよ」
そう言って直里は締めかけのドアの隙間から手をひらひらさせた。
「テメェは二度と来んな、クソガキぃぃっ!!」
負傷していない右手でサイドテーブルに置いてある雑誌を掴み、星良はドアに向かって思いきり投げつける。
耐えきれずに吹き出した梅子は、また星良に睨まれてしまった。
咳払いをして気を取り直し、今後のフェリーチェ入居者たちの暮らしについて考える。
――この街も平和とは言えなくなっちまったね……。なるべくこの子たちの生活は変えたくないから移転はしないけど、またこんなことにならないように何か対策をしておかないと……。
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