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暗闇と走馬灯
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……名前…は――
暗闇の中、何者かに問いかけられる。
夢かと思ったが、その中で自分は考えている。明晰夢ってやつだろうか?
ならば思い通りになるかもと、いろいろ試すが何も変わらない。
しょうがない。つまんねぇ夢だなーと不貞腐れながら、名乗る。
「大原 恭平だ」
…過去のこと…教えて――
うわーざっくりすぎる質問来たー。自分の夢なんだから、できればもうちょっとお題を絞ってほしいなー。
石のこと――
石?その辺にあるような?違うよなぁ。と、思い当たることを探ろうとすると、記憶が 全てほどけた。
憶えていること、忘れたと思っていたこと、深くしまいこんだこと、他の思い出で視界に入った道端の石ころのことまで、自分の中のあらゆる「石」に関する記憶がものすごい速さで逆再生されていく。この場所面白かったしご飯も美味かったなー。つまづいて転んだの多すぎ。こんなことあったっけ?忘れてただけか。あー 走馬灯ってこんな感じかな?あ、あれ?俺、もしかして死んでる?
不安を感じる間に、37年の時間が流れ終える。そのなかで声の主がお気に召すような記憶があったようで、そこがピックアップされて経験した時と同じ速度で再生された。
4歳の頃の記憶、ひいじいちゃんが若いころに閉山した鉱山跡。スズや黄銅鉱が採掘・選別された後の捨て石が集められたズリ山と呼ばれる場所が、俺たちの冒険の場所だった。
山に向かう道中で、ビニールのマントを羽織り、木の枝の剣を振りかざし、おもちゃの銃でマンガやテレビで見た怪物たちを想像の中でやっつけながら、やつらの住みかの山でお宝を探す。一番お宝を見つけた者が次回に隊長になれる。それがいつもの冒険ごっこだ。
山に転がる白っぽい石英まじりの石塊、俺たちは怪物の宝箱と呼んでいたそれを、他の石にぶつけて砕く。割れた石の中に稀に見つかる金色の輝き。黄銅鉱だ。
大人たちの選別から漏れたクズ石だが、子供たちにとってはお宝の輝きだった。
ピックアップされた記憶は、いつものなかで俺だけお宝を見つけられなかった嫌な思い出の日。だが俺だけのお宝を手に入れた日でもあった。
しげちゃんも、よっしーも、いちばんヘタだったカズくんだってみつけたのに、きょうは ぼくだけ みつけられない。
はしゃぐみんなとは離れた小山で、上手くいかない自分への苛立ちと、芽生えた嫉妬を抑えられず石を岩にたたきつける。だが、これもハズレだった。このままじゃビリになって、次の冒険で下っ端になる。武器を持たされない、つまらない役は嫌だ。そろそろ夕暮れ、冒険の終わり。やけくそになって、普段は持ち上げられないような大きな塊を力任せに放り投げた。バランスを崩し、転ぶ。
泣き叫んで情けない姿をみんなに見られたくない。痛みと悔しさを抑え込み、顔をあげると、涙ににじむ視界に真っ二つに割れた大石と、その間に落ちている鈍く輝く銀色の塊。いつも見つけるものとは違う、お宝。
さっきまでの悔しさも痛みも吹き飛んで、誇らしい気持ちが湧き上がる。クレヨンくらいの大きさの銀塊をそっと手に取ると、見た目に反してずしりと重い。そして、心なしか あたたかい。
ぎゅっと握りしめていると、今まであった、みんなに自慢したいという気持ちが静かにしぼみ、自分だけの大切な秘密のお宝にしたい気持ちにかわっていく。
この最高のお宝があれば、冒険ごっこでビリになること、次に下っ端隊員になることなんて全然気にならなくなった。
自分の大事なものがあれば多少の困難でも乗り越えられる、そんな心の持ち方をこの日に学んだのである。
ただ、この4日後、家にいるときには欠かさず握っていた銀塊が、朝起きると忽然と消えてしまった。
思い当たるところや、家具のすき間、裏側も親に頼んで探してもらったが、見つからなかった。
当然落ち込んだが、すぐに立ち直った。辛いことを我慢すれば、またお宝が見つかるかもしれないからだ。
――俺の人生の基盤となったこの出来事が、声の主の探していることなんだろうか?
長い沈黙。目の前には銀塊を手にしていた時の映像が何回も、高速で再生されている。
…変化の無さに飽きてきた。自分の夢で退屈するって変な感じだな。体を動かそうとすると目が覚めるんだっけ?
目覚めようと目を開けたり体を動かすイメージをするが、暗闇は全く変わらず、動かそうとした体の感覚もない。
あれ?これ、本当に死んじゃった?それとも植物状態か? やばいやばいやばい!
さすがに我慢ではどうにもならないと思い、とにかく目覚めるイメージを強くしていると――
『 こ れ だ ・ ・ ・ ! 』
轟音のようなささやきに、今まで感じられなかった自分の存在が揺さぶられた。そして、
何かとつながる感覚。カチリと何かがはめ込まれる音。
真っ白な光に、意識が覚醒した―――
暗闇の中、何者かに問いかけられる。
夢かと思ったが、その中で自分は考えている。明晰夢ってやつだろうか?
ならば思い通りになるかもと、いろいろ試すが何も変わらない。
しょうがない。つまんねぇ夢だなーと不貞腐れながら、名乗る。
「大原 恭平だ」
…過去のこと…教えて――
うわーざっくりすぎる質問来たー。自分の夢なんだから、できればもうちょっとお題を絞ってほしいなー。
石のこと――
石?その辺にあるような?違うよなぁ。と、思い当たることを探ろうとすると、記憶が 全てほどけた。
憶えていること、忘れたと思っていたこと、深くしまいこんだこと、他の思い出で視界に入った道端の石ころのことまで、自分の中のあらゆる「石」に関する記憶がものすごい速さで逆再生されていく。この場所面白かったしご飯も美味かったなー。つまづいて転んだの多すぎ。こんなことあったっけ?忘れてただけか。あー 走馬灯ってこんな感じかな?あ、あれ?俺、もしかして死んでる?
不安を感じる間に、37年の時間が流れ終える。そのなかで声の主がお気に召すような記憶があったようで、そこがピックアップされて経験した時と同じ速度で再生された。
4歳の頃の記憶、ひいじいちゃんが若いころに閉山した鉱山跡。スズや黄銅鉱が採掘・選別された後の捨て石が集められたズリ山と呼ばれる場所が、俺たちの冒険の場所だった。
山に向かう道中で、ビニールのマントを羽織り、木の枝の剣を振りかざし、おもちゃの銃でマンガやテレビで見た怪物たちを想像の中でやっつけながら、やつらの住みかの山でお宝を探す。一番お宝を見つけた者が次回に隊長になれる。それがいつもの冒険ごっこだ。
山に転がる白っぽい石英まじりの石塊、俺たちは怪物の宝箱と呼んでいたそれを、他の石にぶつけて砕く。割れた石の中に稀に見つかる金色の輝き。黄銅鉱だ。
大人たちの選別から漏れたクズ石だが、子供たちにとってはお宝の輝きだった。
ピックアップされた記憶は、いつものなかで俺だけお宝を見つけられなかった嫌な思い出の日。だが俺だけのお宝を手に入れた日でもあった。
しげちゃんも、よっしーも、いちばんヘタだったカズくんだってみつけたのに、きょうは ぼくだけ みつけられない。
はしゃぐみんなとは離れた小山で、上手くいかない自分への苛立ちと、芽生えた嫉妬を抑えられず石を岩にたたきつける。だが、これもハズレだった。このままじゃビリになって、次の冒険で下っ端になる。武器を持たされない、つまらない役は嫌だ。そろそろ夕暮れ、冒険の終わり。やけくそになって、普段は持ち上げられないような大きな塊を力任せに放り投げた。バランスを崩し、転ぶ。
泣き叫んで情けない姿をみんなに見られたくない。痛みと悔しさを抑え込み、顔をあげると、涙ににじむ視界に真っ二つに割れた大石と、その間に落ちている鈍く輝く銀色の塊。いつも見つけるものとは違う、お宝。
さっきまでの悔しさも痛みも吹き飛んで、誇らしい気持ちが湧き上がる。クレヨンくらいの大きさの銀塊をそっと手に取ると、見た目に反してずしりと重い。そして、心なしか あたたかい。
ぎゅっと握りしめていると、今まであった、みんなに自慢したいという気持ちが静かにしぼみ、自分だけの大切な秘密のお宝にしたい気持ちにかわっていく。
この最高のお宝があれば、冒険ごっこでビリになること、次に下っ端隊員になることなんて全然気にならなくなった。
自分の大事なものがあれば多少の困難でも乗り越えられる、そんな心の持ち方をこの日に学んだのである。
ただ、この4日後、家にいるときには欠かさず握っていた銀塊が、朝起きると忽然と消えてしまった。
思い当たるところや、家具のすき間、裏側も親に頼んで探してもらったが、見つからなかった。
当然落ち込んだが、すぐに立ち直った。辛いことを我慢すれば、またお宝が見つかるかもしれないからだ。
――俺の人生の基盤となったこの出来事が、声の主の探していることなんだろうか?
長い沈黙。目の前には銀塊を手にしていた時の映像が何回も、高速で再生されている。
…変化の無さに飽きてきた。自分の夢で退屈するって変な感じだな。体を動かそうとすると目が覚めるんだっけ?
目覚めようと目を開けたり体を動かすイメージをするが、暗闇は全く変わらず、動かそうとした体の感覚もない。
あれ?これ、本当に死んじゃった?それとも植物状態か? やばいやばいやばい!
さすがに我慢ではどうにもならないと思い、とにかく目覚めるイメージを強くしていると――
『 こ れ だ ・ ・ ・ ! 』
轟音のようなささやきに、今まで感じられなかった自分の存在が揺さぶられた。そして、
何かとつながる感覚。カチリと何かがはめ込まれる音。
真っ白な光に、意識が覚醒した―――
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