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2   少女の遊び相手

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ベアトリーチェが生まれてから一年が経とうとしていた。ベアトリーチェが生まれたことによってサーシャ王国の災害は嘘のように鳴りを潜めたが、災害によって広がった伝染病が、国を未だに蝕んでいた。


一方グリーエルス家では……


「姫様ー!ベアトリーチェ様ー、どこですかー?」

ベアトリーチェの専属メイドであるリリスが毎日走っていた。というのも、一人立ちが出来るようになった数日前から、一瞬目を離した隙にいなくなるという現象が起きていた。

「リリス、どうしたの?」

「奥様。実は、ベアトリーチェ様が一人立ちなさってから、気づいたら先程のとは別の場所に移動している事が多いのです。いつもは部屋の中で移動するだけなのですが…」

「今日は部屋にいなかったのね?」

そんな二人の会話の近くで、ベアトリーチェの楽しそうな笑い声が聞こえた。声のする方へ二人が向かってみると、中庭でお座りしながらどこかを見て笑っているベアトリーチェがいた。

生まれたばかりだと両親どちらの髪か判別がつかなかったが、父親の銀髪に母親のウェーブを見事に受け継いでいる。

「あ…。も、申し訳ございません!お叱りは何でも受けます。」

辞職しそうな勢いのリリスを宥めたエレナは、あっけらかんと言った。

「あの子は大丈夫よ。だって、精霊と遊んでいるだけですもの。」

「え……?私には精霊が部屋に入ってきた様子を見ておりませんが…。今も…。」

「あら?可笑しいわね。うーん。」

そう言って少し考えたエレナは、スッキリした笑顔でリリスに答えた。

「ああ!貴女がいつも見ている精霊は、力の強い精霊なの。今リーチェと遊んでくれている精霊はもっと小さな、そうねぇ、生まれたばかりの精霊やまだ形になっていない精霊達が殆どよ。」

「そんな精霊達が…。」

「案外この家だけでも沢山いるのよ?数えたことはないけれど、草木や物の数だけ…かしら。」

「えっ、ということは、今ベアトリーチェ様がいらっしゃる所は芝生の上ですので…」

ベアトリーチェに向かって花冠がふよふよ浮いて頭の上に乗せられた。エレナ精霊達を眺めながら答えた。

「ええ、私には大小無数の光がリーチェの周りを飛んでいるように見えるわ。でも、あの子にはもしかしたらその精霊の顔まで見えるのかもしれないわ。」

二人がそう話していると、ベアトリーチェがいきなりこちらを向いた。それと同時に、側にいた精霊達はベアトリーチェから少し散らばり道を開け、見守るように飛び始めた。

「まぁま、りぃりー!」

エレナとリリスを見止めたベアトリーチェが、花が綻ぶ様な笑顔を見せた。
笑顔を受け取った二人もつられて笑顔が浮かぶ。

ベアトリーチェはそのまま、無数の精霊の手助けを受けながら掴まり立ちした。
この様子に二人、特にこの場の精霊が僅かながらも見えているエレナは特に驚愕した。

「リーチェは精霊に触れられるのかしら?」

エレナの質問にリリスは再度驚き、ベアトリーチェの周りを凝視したが、リリスには残念ながら精霊を見る事は出来なかった。

しかし、二人にとって更なる気持ちの高ぶる出来事によって、ベアトリーチェが精霊に触れられる疑惑は頭からすっぽり抜けてしまった。


「リリス!リーチェが歩いたわ!!」

「奥様!初歩きでございます!しかも笑顔で!ああ、なんと可愛らしい!!」

よたよたとおぼつかない足取りで歩いて来ると、そのまま倒れながら二人の足にしがみつき、顔だけ上げて二人に自信で満ち溢れた笑顔を向けると……


感動と悶えが二人を襲った。
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