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放課後、遼矢は教室の窓からボンヤリと外を眺めていた。
「遼ちゃんなにしてんの?早く帰ろうよ。俺たち最後になっちゃうよ」
文人はスクールバッグを持ったまま不満げに眉を下げる。
「いいじゃん。ふみも見ろよ。アイツらめっちゃ足速い」
陸上部を指差しながら遼矢は文人を振り返った。実のところ、陸上部に興味があるわけではない。
嘘の告白とはいえ、告白現場を他人に見られるのは憚られて、遼矢は教室から人がいなくなるのを待っていた。
そんなことを知らない文人は「もう…」と呆れながらも遼矢の隣に立ち、外を眺め始める。
「見てあの人、超はえー」
「ほんとだ。遼ちゃんも足速いんだし混ざってきてみてよ」
「バッカお前、サッカー部じゃ敵わねーだろ」
しばらく外を見つめていると、文人は窓の縁に両腕を乗せたまま、待ちくたびれたと言いたげな視線を遼矢に投げる。
「ねえ、俺たち最後になっちゃったよ」
「…あー」
遼矢が振り返ると確かに教室には二人以外誰もいなかった。廊下もほとんど人が通っていない。
罰ゲームを達成させるなら今が絶好のタイミングだ。
「俺さぁ、文人のこと好きなんだよね」
遼矢は再び窓の外へと視線を投げ、緊張感のない声で告白をした。
「だから付き合ってくれませんかー…」
なーんて、と続けようとした言葉は文人の顔を振り返った瞬間、言えなくなってしまった。
文人は大きな瞳をさらに大きくして真っ直ぐと遼矢を見つめ、頬を赤く染めていた。
綺麗な黒髪がサラサラと窓から吹き込む風に揺れている。
その表情に驚きと喜びが滲んでいるのが遼矢にはすぐにわかった。
「ほ…本当?」
嘘だとは、ましてや罰ゲームだなんて言える雰囲気ではない。
「待って、うれしい。俺も遼ちゃんのこと好きで、でもずっと黙っとくつもりだったのに…まさか遼ちゃんから言ってくれると思わなかった。めちゃくちゃ嬉しい」
文人は口元を手で覆う。それでも照れて笑っているのがわかるほどに表情が緩んでいる。
遼矢は心底驚いたのを表に出さないようにぐっと堪える。なんと言うべきかわからず、最善の言葉を探しているうちにも文人は顔を綻ばせて言葉を続ける。
「じゃあ、今日から俺たち恋人ってこと?」
「…うん」
結局、遼矢は何も言えず、ただ笑みを張り付けて頷いた。
どんなに頭を働かせても最悪の結末しか思い付かない。
嘘だと明かして、軽蔑の目で見られるのも文人を傷付けるのも恐ろしかった。文人が好意を明かした今、元の関係には戻れないのはわかりきっている。
「遼ちゃんなにしてんの?早く帰ろうよ。俺たち最後になっちゃうよ」
文人はスクールバッグを持ったまま不満げに眉を下げる。
「いいじゃん。ふみも見ろよ。アイツらめっちゃ足速い」
陸上部を指差しながら遼矢は文人を振り返った。実のところ、陸上部に興味があるわけではない。
嘘の告白とはいえ、告白現場を他人に見られるのは憚られて、遼矢は教室から人がいなくなるのを待っていた。
そんなことを知らない文人は「もう…」と呆れながらも遼矢の隣に立ち、外を眺め始める。
「見てあの人、超はえー」
「ほんとだ。遼ちゃんも足速いんだし混ざってきてみてよ」
「バッカお前、サッカー部じゃ敵わねーだろ」
しばらく外を見つめていると、文人は窓の縁に両腕を乗せたまま、待ちくたびれたと言いたげな視線を遼矢に投げる。
「ねえ、俺たち最後になっちゃったよ」
「…あー」
遼矢が振り返ると確かに教室には二人以外誰もいなかった。廊下もほとんど人が通っていない。
罰ゲームを達成させるなら今が絶好のタイミングだ。
「俺さぁ、文人のこと好きなんだよね」
遼矢は再び窓の外へと視線を投げ、緊張感のない声で告白をした。
「だから付き合ってくれませんかー…」
なーんて、と続けようとした言葉は文人の顔を振り返った瞬間、言えなくなってしまった。
文人は大きな瞳をさらに大きくして真っ直ぐと遼矢を見つめ、頬を赤く染めていた。
綺麗な黒髪がサラサラと窓から吹き込む風に揺れている。
その表情に驚きと喜びが滲んでいるのが遼矢にはすぐにわかった。
「ほ…本当?」
嘘だとは、ましてや罰ゲームだなんて言える雰囲気ではない。
「待って、うれしい。俺も遼ちゃんのこと好きで、でもずっと黙っとくつもりだったのに…まさか遼ちゃんから言ってくれると思わなかった。めちゃくちゃ嬉しい」
文人は口元を手で覆う。それでも照れて笑っているのがわかるほどに表情が緩んでいる。
遼矢は心底驚いたのを表に出さないようにぐっと堪える。なんと言うべきかわからず、最善の言葉を探しているうちにも文人は顔を綻ばせて言葉を続ける。
「じゃあ、今日から俺たち恋人ってこと?」
「…うん」
結局、遼矢は何も言えず、ただ笑みを張り付けて頷いた。
どんなに頭を働かせても最悪の結末しか思い付かない。
嘘だと明かして、軽蔑の目で見られるのも文人を傷付けるのも恐ろしかった。文人が好意を明かした今、元の関係には戻れないのはわかりきっている。
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