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第一章「厭離穢土、欣求浄土」
第七話「本多」
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慶長二十年五月 大坂
「そんな訳で水野忠次殿改め信元殿のお力添えもあり、見事大御所様と織田信長殿は盟約を結ぶ事と相成り申した。しかし、この盟約に協力していただいた水野信元殿も、後に佐久間信盛の讒言(ざんげん)により武田との内通を信長殿に疑われたため、我ら三河衆の手によって暗殺することと相成ってしまいました」
「・・・なるほど。戦国の世の常とはいえ、皮肉なものじゃな」
「ええ。この暗殺を行ったのが、平岩主計頭(かずえのかみ)でございました」
老将の言葉に若武者は首を傾げる。
「主計頭がか?あやつが暗殺とは、想像もつかんな」
若武者の言葉に老将は微笑む。
「平岩主計頭親吉、またの名を七之助親吉」
「七之助・・・七之助と言わば、確か先ほどの?」
老将が頷くと、若武者は大いに驚いた。
「なんと!お主たち、そんな昔からの付き合いじゃったか。はっはっは、これはこれはおもしろき縁じゃな」
「まったくにございます。主計頭亡き後の後釜がまさか拙者になろうとは、よもやあの者も死後の世界で大層驚いておることでございましょう」
「まったくじゃ」
そして、若武者は顔をほころばせながら話を続ける。
「それにしても、酒井忠次、本多忠勝、平岩親吉、渡辺守綱とは、この頃からすでに錚々(そうそう)たる面子(めんつ)じゃな」
「ええ。しかし、それだけではございませんぞ。言い忘れておりましたが、大樹寺におった亀丸という名の童子・・・実は、後の榊原康政でございまする」
老将の言葉に若武者は再び驚愕する。
「なんと!あの榊原康政か。素晴らしや、徳川の英傑勢揃い・・・」
若武者がそこまで言った時、先ほどとはまた別の場所から鬨の声が上がった。
「ん、今度はいずこの陣じゃ?」
二人は声の上がった方に目を向ける。
遥か前方、敵陣に最も近いところから声は聞こえてきた。
「先鋒の部隊・・・本多出雲守(いずものかみ)の軍勢でございますかな」
老将が答える。
「冬の陣の折のことで、大御所様よりお父上の恥と叱咤されておりました故、此度の戦で名誉挽回と言ったところでございましょうか」
「本多出雲守の父・・・本多平八郎忠勝か。かの豊臣秀吉公からは『天下第一、古今独歩の勇士』と呼ばれたそうじゃが・・・先ほどの話じゃと、それほどの男でもやはり初陣の頃は血気に逸(はや)っておったか」
若武者の言葉に老将は頷く。
「ええ、どんな英傑であろうとも初陣の時は必ずあるというもの。若も此度の戦、冬の陣同様、血気に逸らぬようご注意下さいませ。ましてや、死に急ぐようなことは絶対にしてはいけませぬぞ」
老将の戒めに若武者は苦笑いを浮かべながら面倒臭そうに頷く。
「わかっておるわかっておる。お主最近、主計頭によう似てきたな・・・あやつは儂のことを考えてくれるのはよいが、ちと小言が多かったからな」
老将は微笑みながら若武者に教え諭す。
「心配だからこそ、小言も多くなるのでございまする。ま~しかし、血気というものも時にはいい方向に働く場合もございまするがな」
「ほほー。と言うと?」
若武者は、興味深く老将の話に耳を傾ける。
「あれは、三河長沢での戦の折のことでございましたかな・・・」
「そんな訳で水野忠次殿改め信元殿のお力添えもあり、見事大御所様と織田信長殿は盟約を結ぶ事と相成り申した。しかし、この盟約に協力していただいた水野信元殿も、後に佐久間信盛の讒言(ざんげん)により武田との内通を信長殿に疑われたため、我ら三河衆の手によって暗殺することと相成ってしまいました」
「・・・なるほど。戦国の世の常とはいえ、皮肉なものじゃな」
「ええ。この暗殺を行ったのが、平岩主計頭(かずえのかみ)でございました」
老将の言葉に若武者は首を傾げる。
「主計頭がか?あやつが暗殺とは、想像もつかんな」
若武者の言葉に老将は微笑む。
「平岩主計頭親吉、またの名を七之助親吉」
「七之助・・・七之助と言わば、確か先ほどの?」
老将が頷くと、若武者は大いに驚いた。
「なんと!お主たち、そんな昔からの付き合いじゃったか。はっはっは、これはこれはおもしろき縁じゃな」
「まったくにございます。主計頭亡き後の後釜がまさか拙者になろうとは、よもやあの者も死後の世界で大層驚いておることでございましょう」
「まったくじゃ」
そして、若武者は顔をほころばせながら話を続ける。
「それにしても、酒井忠次、本多忠勝、平岩親吉、渡辺守綱とは、この頃からすでに錚々(そうそう)たる面子(めんつ)じゃな」
「ええ。しかし、それだけではございませんぞ。言い忘れておりましたが、大樹寺におった亀丸という名の童子・・・実は、後の榊原康政でございまする」
老将の言葉に若武者は再び驚愕する。
「なんと!あの榊原康政か。素晴らしや、徳川の英傑勢揃い・・・」
若武者がそこまで言った時、先ほどとはまた別の場所から鬨の声が上がった。
「ん、今度はいずこの陣じゃ?」
二人は声の上がった方に目を向ける。
遥か前方、敵陣に最も近いところから声は聞こえてきた。
「先鋒の部隊・・・本多出雲守(いずものかみ)の軍勢でございますかな」
老将が答える。
「冬の陣の折のことで、大御所様よりお父上の恥と叱咤されておりました故、此度の戦で名誉挽回と言ったところでございましょうか」
「本多出雲守の父・・・本多平八郎忠勝か。かの豊臣秀吉公からは『天下第一、古今独歩の勇士』と呼ばれたそうじゃが・・・先ほどの話じゃと、それほどの男でもやはり初陣の頃は血気に逸(はや)っておったか」
若武者の言葉に老将は頷く。
「ええ、どんな英傑であろうとも初陣の時は必ずあるというもの。若も此度の戦、冬の陣同様、血気に逸らぬようご注意下さいませ。ましてや、死に急ぐようなことは絶対にしてはいけませぬぞ」
老将の戒めに若武者は苦笑いを浮かべながら面倒臭そうに頷く。
「わかっておるわかっておる。お主最近、主計頭によう似てきたな・・・あやつは儂のことを考えてくれるのはよいが、ちと小言が多かったからな」
老将は微笑みながら若武者に教え諭す。
「心配だからこそ、小言も多くなるのでございまする。ま~しかし、血気というものも時にはいい方向に働く場合もございまするがな」
「ほほー。と言うと?」
若武者は、興味深く老将の話に耳を傾ける。
「あれは、三河長沢での戦の折のことでございましたかな・・・」
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