鬼を討つ〜徳川十六将・渡辺守綱記〜

八ケ代大輔

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第四章「三河平定」

第十七話「蜂屋半之丞」

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「くっそ!本多平八に負けてなるものか!」
拙者は、大声を上げる半之丞に声をかける。
「半の字、そうかっかすんなや」
三河一向一揆の終結から間もない永禄七年の夏、拙者たちは今川方が治める東三河の吉田城を攻めておりました。この日、半之丞は平八郎と一番槍を競っておりましたが、わずかの差で平八郎に一番槍を取られてしまい苛立っておりました。拙者は、そんな半之丞をなだめる。
「一向一揆で失った信頼を一早く取り戻したい、と」
「その通り」
半之丞は胸を張って答える。
「しかし、功名心に駆られ深追いなどすると危険じゃぞ?」
拙者の言葉に半之丞はにやりと笑い答える。
「儂に手柄を取らせまいとそんなことを言っとるのか?」
聞き覚えのある言葉に拙者と半之丞は目を合わせ二人して大笑いをする。
「確か以前、儂がお主に言った言葉じゃったかな?」
拙者は、半之丞に問いかける。
「ああ、そう言ってお主は敵陣に突っ込み、案の定やられそうになったところを儂が助けてやったんじゃぞ」
「懐かしいの~」
二人して昔の事に思いを寄せておると、拙者はふと半之丞の腰元に目がいく。
「・・・それにしても」
半之丞の腰には、討ち取った敵の首がいくつも括(くく)りつけてありました。
「ようこんなにも首を取ったもんじゃの~」
拙者がそう言うと、半之丞はにやりと笑う。
「まだまだ、こんなもんでは儂の殿に対する忠義をあらわせられんわ」
半之丞の言葉を聞き拙者は呆れ返る。
「まだ首を取るつもりかや?まるで羅刹のようじゃの~。しかし、もう敵もほとんど逃げ・・・」
拙者がそこまで言った瞬間、拙者と半之丞の間を銃弾が掠(かす)める。
「!」
拙者と半之丞がすぐさま銃弾の出所を探ると銃撃の主はすぐに見つかりました。三十間ほど離れた丘の上、鉄砲を持った武者が一人。
「まだ残っておったか・・・」
半之丞が睨みつけると、その鉄砲武者は恐れをなして逃げて行く。
「逃がすか!」
「おい、半の字!」
拙者が止めるのも聞かず鉄砲武者を追いかけ、あっという間に拙者の視界からいなくなる半之丞。
「まったく・・・」
その時、一発の銃声が丘の向こうから聞こえて来る。
拙者は、はっとして急ぎ半之丞の後を追う。
丘の向こう側、そこには先ほどの鉄砲武者の喉元に槍を突き刺した半之丞の姿がありました。拙者は、ほっと一息つき半之丞に声をかける。
「半の字、こりゃまた豪快にやったの~」
しかし、半之丞は背中を向けたまま何も答えない。
拙者は、ゆっくりと半之丞に近づく。
「おい、半の字?」
そう言って拙者が半之丞の肩に手をかけると、半之丞は急に膝をつく。
拙者は思わず半之丞を抱きかかえて顔を覗き込む。
「!」
目をかっと見開いて正面を睨みつける半之丞。しかし、その眉間にはまん丸とした大きな銃弾の痕(あと)が残ってありました。拙者は堪らず大声で叫ぶ。
「は、半の字ーーー!」

蜂屋半之丞貞次、享年二十六歳でございました。
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