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第十一章「信康切腹」
第六十話「織田信長」
しおりを挟む慶長二十年五月 大坂
「皆、慕っておったのだな我が長兄を」
「ええ」
若武者の言葉に老将は頷く。
「もしかしたら主計頭(かずえのかみ)は、儂に長兄を重ねて見ていたのかもしれぬな・・・」
「それは多いにあるかと思われまする」
老将は口元に笑みを浮かべて答える。
「七之助は信康様亡き後、大御所様の八男である仙千代様を託されておりましたが、その仙千代様も幼くして亡くしてしまい、最後の望みとして若を育てたのでありましょう」
「・・・儂が生まれる前に、そんなにも色々な事があったとはな」
若武者は嘆息をもらす。
「しかし、我が父も長兄を死に追いやられながらもよく織田信長に従っておったものじゃ」
「ええ、それが大御所様の凄いところでございましょう。大事の為ならば、どんな苦難であろうと耐える。大御所様が生涯、心してきた事でございます」
「しかし、もし儂が父と同じ立場におったら我慢しきれず織田信長に反旗を翻していたかもしれんな」
若武者の発言に老将が苦言を呈する。
「若。何事も我慢が大切ですぞ」
「わかっておる」
若武者がそう返事をすると、老将はそこで一つ咳払いをして話題を変える。
「しかし、若と同じような考えを持つ者も当時少なくはございませんでした」
「どういう事じゃ?」
若武者の問いに老将は不敵な笑みを浮かべる。
「織田信長に不満を持つ者が溢れていたという事です」
老将は話を続ける。
「そして、ついにその時が来たのであります」
「その時?」
若武者の質問に、老将はゆっくりとした口調で話す。
「・・・織田信長の最期でございまする」
そこで若武者は生唾を飲む。
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