鬼を討つ〜徳川十六将・渡辺守綱記〜

八ケ代大輔

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第十二章「本能寺の変(裏)」

第六十三話「穴山梅雪」

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天正十年六月二日 山城国

六月二日早朝、我らは和泉国・堺を出て河内国に移動。そこで先行した本多平八郎忠勝が茶屋四郎次郎殿を伴い合流。案の定、京・本能寺にて織田信長殿が討たれたとの知らせをもたらす。我らは、それを聞き急ぎ進路を三河へと向ける。そして、その道中、山城国での事でした・・・。

「何故、もっと早く進まんのだ」
穴山梅雪殿が駕籠の中から愚痴をこぼす。
「申し訳ありませぬ。我ら徳川が先行し道の安全を確保した上で梅雪殿には通っていただこうと思いまする故、何卒ご理解下さいませ」
そう答えたのは榊原小平太康政。
小平太の言う通り、この時、徳川勢と穴山勢は別行動を致しておりました。徳川勢が先を行き、その一里後を穴山勢が進むという形でした。名目上は安全の為。しかし、その実は別行動をしたが為に穴山勢は落ち武者狩りに遭ってしまったという口実作りの為。
拙者は、穴山勢と共に歩みながら一人苦笑いを浮かべる。
こういう狡(こす)い手は、おそらく酒井左衛門殿の考えであろうな~。ま、確かに直接徳川が殺したとなると色々と問題もあろうが。
そこで拙者は周囲を見渡す。梅雪殿の御付きの者は約十名。一方の我らは五名。
一人当たり二人を相手にすると言う訳か。一人は奇襲をかけて一撃で仕留め、残り一人を相手にする・・・意外と余裕そうだな。
拙者が頭の中で一人、闘いの流れを確認していると、先頭を行く大久保治右衛門が顔だけ振り返り、こちらに視線をよこす。
・・・そろそろか。
徳川勢が互いに顔を見合わせた後、治右衛門が急に立ち止まると、その後ろを行く穴山勢も皆立ち止まる。
「ん、どうした?」
駕籠の中にいる梅雪殿が声を上げる。その直後、治右衛門がすぐ後ろにいた一人を抜き身で斬りつける。
一撃で倒れる侍。驚く穴山勢を余所に、同時に徳川の他の者達も近くにいる穴山勢に斬り掛かる。
拙者も抜刀し隣の侍の首元を斬りつけると、血飛沫を上げ倒れる侍。
周囲でも同様の光景が繰り広げられ瞬く間に街道が赤い血で染まる。
穴山勢の人数が半分になったところで、ようやく駕籠の中にいた梅雪殿が慌てて飛び出して来る。
「ひゃあ、ああ!」
逃げ惑う梅雪殿を一人の侍が追いかける。
井伊万千代直政である。
逃げ惑う梅雪殿を万千代は何のためらいもなく背後から斬りつける。
「ぐあぁ!」
背中からの一撃を食らい倒れる梅雪殿。しかし、すぐさま起き上がり万千代の方に向き直る。
「ま、待て!儂がお主らに何をしたと言うのだ?」
梅雪殿の問いに、万千代は表情を変えずに答える。
「徳川、しいては天下泰平の為」
そう言うと万千代は左手で梅雪殿の頭を掴み右手の刀をその腹に突き刺す。
「がぁ!」
口から血を吐き出す梅雪殿。
万千代は梅雪殿の背中まで突き出た刀を思い切り抜き取ると大声で叫ぶ。
「穴山梅雪。この井伊万千代が討ち取った!」
それを聞いた穴山勢は恐れを為し逃げ出そうとするが、徳川勢は逃がすまいと各個斬り倒していく。そして、あっと言う間に死体の山ができあがる。
辺り一面血の色で覆い尽くされた街道で、残された徳川勢は呆然と立ち尽くす。
・・・終わった。
血の付いた刀を拭い鞘に納め一息つくと、治右衛門が皆に告げる。
「急ぎ殿に追いつくぞ」
一同は頷き、すぐさまその場を後にする。

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