69 / 90
第十二章「本能寺の変(裏)」
第六十三話「穴山梅雪」
しおりを挟む天正十年六月二日 山城国
六月二日早朝、我らは和泉国・堺を出て河内国に移動。そこで先行した本多平八郎忠勝が茶屋四郎次郎殿を伴い合流。案の定、京・本能寺にて織田信長殿が討たれたとの知らせをもたらす。我らは、それを聞き急ぎ進路を三河へと向ける。そして、その道中、山城国での事でした・・・。
「何故、もっと早く進まんのだ」
穴山梅雪殿が駕籠の中から愚痴をこぼす。
「申し訳ありませぬ。我ら徳川が先行し道の安全を確保した上で梅雪殿には通っていただこうと思いまする故、何卒ご理解下さいませ」
そう答えたのは榊原小平太康政。
小平太の言う通り、この時、徳川勢と穴山勢は別行動を致しておりました。徳川勢が先を行き、その一里後を穴山勢が進むという形でした。名目上は安全の為。しかし、その実は別行動をしたが為に穴山勢は落ち武者狩りに遭ってしまったという口実作りの為。
拙者は、穴山勢と共に歩みながら一人苦笑いを浮かべる。
こういう狡(こす)い手は、おそらく酒井左衛門殿の考えであろうな~。ま、確かに直接徳川が殺したとなると色々と問題もあろうが。
そこで拙者は周囲を見渡す。梅雪殿の御付きの者は約十名。一方の我らは五名。
一人当たり二人を相手にすると言う訳か。一人は奇襲をかけて一撃で仕留め、残り一人を相手にする・・・意外と余裕そうだな。
拙者が頭の中で一人、闘いの流れを確認していると、先頭を行く大久保治右衛門が顔だけ振り返り、こちらに視線をよこす。
・・・そろそろか。
徳川勢が互いに顔を見合わせた後、治右衛門が急に立ち止まると、その後ろを行く穴山勢も皆立ち止まる。
「ん、どうした?」
駕籠の中にいる梅雪殿が声を上げる。その直後、治右衛門がすぐ後ろにいた一人を抜き身で斬りつける。
一撃で倒れる侍。驚く穴山勢を余所に、同時に徳川の他の者達も近くにいる穴山勢に斬り掛かる。
拙者も抜刀し隣の侍の首元を斬りつけると、血飛沫を上げ倒れる侍。
周囲でも同様の光景が繰り広げられ瞬く間に街道が赤い血で染まる。
穴山勢の人数が半分になったところで、ようやく駕籠の中にいた梅雪殿が慌てて飛び出して来る。
「ひゃあ、ああ!」
逃げ惑う梅雪殿を一人の侍が追いかける。
井伊万千代直政である。
逃げ惑う梅雪殿を万千代は何のためらいもなく背後から斬りつける。
「ぐあぁ!」
背中からの一撃を食らい倒れる梅雪殿。しかし、すぐさま起き上がり万千代の方に向き直る。
「ま、待て!儂がお主らに何をしたと言うのだ?」
梅雪殿の問いに、万千代は表情を変えずに答える。
「徳川、しいては天下泰平の為」
そう言うと万千代は左手で梅雪殿の頭を掴み右手の刀をその腹に突き刺す。
「がぁ!」
口から血を吐き出す梅雪殿。
万千代は梅雪殿の背中まで突き出た刀を思い切り抜き取ると大声で叫ぶ。
「穴山梅雪。この井伊万千代が討ち取った!」
それを聞いた穴山勢は恐れを為し逃げ出そうとするが、徳川勢は逃がすまいと各個斬り倒していく。そして、あっと言う間に死体の山ができあがる。
辺り一面血の色で覆い尽くされた街道で、残された徳川勢は呆然と立ち尽くす。
・・・終わった。
血の付いた刀を拭い鞘に納め一息つくと、治右衛門が皆に告げる。
「急ぎ殿に追いつくぞ」
一同は頷き、すぐさまその場を後にする。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる