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第十四章「関ヶ原の戦い」
第七十九話「清洲」
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慶長五年八月十九日 尾張国 清洲城
「何故、内府殿は江戸から出て来ぬのだ!?」
そう大声を発したのは、福島左衛門大夫正則。
小山での評定から約一月。我らは、諸将の申し出の通り開城された海道沿いの城を順調に進み、福島左衛門大夫の居城・清洲城まで来ておりました。一方、大坂方は鳥居元忠殿が守る伏見城を攻め落とし岐阜城まで兵を進めておりました。さらに、大坂方は安芸の毛利輝元を総大将に宇喜多秀家や大谷吉継ら大名も加わり日の本を二分にする勢力となっておりました。この事もあってか、江戸の家康公は一向に江戸から出て来る様子はありませんでした。そこで我らはこれよりの行動について評定を行う事となりました。
興奮する左衛門大夫を黒田甲斐守長政がなだめる。
「まあ、落ち着け左衛門。内府殿にも何かお考えがあるのであろう」
「じゃあ、何だその考えっちゅうのは!?んんっ?」
険しい表情で問いつめる左衛門大夫に、甲斐守はたじろぐ。
「ん、いや、そ、それは・・・」
「ふん。内府殿は我らと治部を戦わせ、捨て石にでもするおつもりかぁ?」
「口が過ぎますぞ左衛門殿」
そう声を発したのは、吉田城城主・池田三左衛門輝政。
「しばし、内府殿の御意向を待ってもよいのではないですか?」
「ふん。では、どれほど待てばよいのだ?」
「しばしです」
「だから~そのしばしはどれくらいだって聞いとるんじゃ?」
「しばしは、しばし」
「・・・内府殿の娘婿だからって偉そうにするなよ」
左衛門大夫の言葉に三左衛門はゆっくりと立ち上がる。
「何じゃと?」
小田原征伐の折、北条氏直と離縁した家康公の次女・督姫様が嫁いだのが、この池田輝政でございました。
「二人とも落ち着け」
甲斐守が二人をなだめるが、両者は聞く耳を持たない。
「三左、ここでやってもよいのだぞ?」
左衛門大夫の挑発に三左衛門も乗って来る。
「賤ヶ岳の七本槍がどれほどのものか、見せてもらいましょうか?」
緊迫した状況を一人の将が一喝する。
「止めんか!」
一同、声の主の方に目を向ける。
広間の入り口、そこには声の主・本多平八郎忠勝が一人の男を携え立っておりました。
「ん、平八郎殿か・・・今まで一体、何をしておったのじゃ?」
左衛門大夫の問いかけに平八郎は答える。
「たった今、江戸からの使者が到着致した」
平八郎の言葉に左衛門大夫は一転、喜びの表情を浮かべる。
「おお、内府殿よりの使者か」
平八郎の後ろに立っていた男が前に出る。平八郎とは一回りくらい年下であろうか?角張った顔の男。男は口を開き名乗りを上げる。
「村越茂助直吉と申しまする。殿からの言伝(ことづて)をお持ち致した」
村越茂助と名乗った男に左衛門大夫は詰め寄る。
「して、内府殿は何と申しておる?」
「何故、戦をせんのか・・・と」
「ん?」
茂助の発言に左衛門大夫は首を傾げる。
「今、何と言うた?」
再度尋ねる左衛門大夫に、茂助は冷静に答える。
「殿は、何故戦をせんのか?と申しております」
「それは、どういう意味じゃ?」
左衛門大夫は眉を吊り上げながら聞きただす。
「殿は未だ皆様方の事を信用されてはおりませぬ。故に皆様方が戦を始めて上方勢と戦えば、殿も御安心して御出馬なされるはず」
茂助の回答に左衛門大夫は顔を顰める。
「内府殿はまだ我らを疑っておるというのか・・・」
「仕方あるまい。なんだかんだ言うても我らは豊臣の将だからな」
甲斐守が左衛門大夫をなだめる。
「ここは一つ、やるしかないのではないか?左衛門」
甲斐守の言葉に左衛門大夫はまっすぐと前を見据える。
何を考えとる・・・まさか、やはり上方につくとは言わんよな?
拙者の心とは裏腹に、左衛門大夫はきっぱりと言い放つ。
「相分かった。ならば我々だけで岐阜城を攻め落としてくれようではないか!」
左衛門大夫の発言に拙者、そして平八郎も胸を撫で下ろす。
左衛門大夫は茂助に声をかける。
「内府殿にもそうお伝えせい」
頭を下げる茂助。左衛門大夫は一同に向かって大声を出す。
「皆の者、戦の支度じゃ!」
「おう!」
その後、数日のうちに我らは岐阜城を攻め落とすのでありました。
「何故、内府殿は江戸から出て来ぬのだ!?」
そう大声を発したのは、福島左衛門大夫正則。
小山での評定から約一月。我らは、諸将の申し出の通り開城された海道沿いの城を順調に進み、福島左衛門大夫の居城・清洲城まで来ておりました。一方、大坂方は鳥居元忠殿が守る伏見城を攻め落とし岐阜城まで兵を進めておりました。さらに、大坂方は安芸の毛利輝元を総大将に宇喜多秀家や大谷吉継ら大名も加わり日の本を二分にする勢力となっておりました。この事もあってか、江戸の家康公は一向に江戸から出て来る様子はありませんでした。そこで我らはこれよりの行動について評定を行う事となりました。
興奮する左衛門大夫を黒田甲斐守長政がなだめる。
「まあ、落ち着け左衛門。内府殿にも何かお考えがあるのであろう」
「じゃあ、何だその考えっちゅうのは!?んんっ?」
険しい表情で問いつめる左衛門大夫に、甲斐守はたじろぐ。
「ん、いや、そ、それは・・・」
「ふん。内府殿は我らと治部を戦わせ、捨て石にでもするおつもりかぁ?」
「口が過ぎますぞ左衛門殿」
そう声を発したのは、吉田城城主・池田三左衛門輝政。
「しばし、内府殿の御意向を待ってもよいのではないですか?」
「ふん。では、どれほど待てばよいのだ?」
「しばしです」
「だから~そのしばしはどれくらいだって聞いとるんじゃ?」
「しばしは、しばし」
「・・・内府殿の娘婿だからって偉そうにするなよ」
左衛門大夫の言葉に三左衛門はゆっくりと立ち上がる。
「何じゃと?」
小田原征伐の折、北条氏直と離縁した家康公の次女・督姫様が嫁いだのが、この池田輝政でございました。
「二人とも落ち着け」
甲斐守が二人をなだめるが、両者は聞く耳を持たない。
「三左、ここでやってもよいのだぞ?」
左衛門大夫の挑発に三左衛門も乗って来る。
「賤ヶ岳の七本槍がどれほどのものか、見せてもらいましょうか?」
緊迫した状況を一人の将が一喝する。
「止めんか!」
一同、声の主の方に目を向ける。
広間の入り口、そこには声の主・本多平八郎忠勝が一人の男を携え立っておりました。
「ん、平八郎殿か・・・今まで一体、何をしておったのじゃ?」
左衛門大夫の問いかけに平八郎は答える。
「たった今、江戸からの使者が到着致した」
平八郎の言葉に左衛門大夫は一転、喜びの表情を浮かべる。
「おお、内府殿よりの使者か」
平八郎の後ろに立っていた男が前に出る。平八郎とは一回りくらい年下であろうか?角張った顔の男。男は口を開き名乗りを上げる。
「村越茂助直吉と申しまする。殿からの言伝(ことづて)をお持ち致した」
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「して、内府殿は何と申しておる?」
「何故、戦をせんのか・・・と」
「ん?」
茂助の発言に左衛門大夫は首を傾げる。
「今、何と言うた?」
再度尋ねる左衛門大夫に、茂助は冷静に答える。
「殿は、何故戦をせんのか?と申しております」
「それは、どういう意味じゃ?」
左衛門大夫は眉を吊り上げながら聞きただす。
「殿は未だ皆様方の事を信用されてはおりませぬ。故に皆様方が戦を始めて上方勢と戦えば、殿も御安心して御出馬なされるはず」
茂助の回答に左衛門大夫は顔を顰める。
「内府殿はまだ我らを疑っておるというのか・・・」
「仕方あるまい。なんだかんだ言うても我らは豊臣の将だからな」
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「ここは一つ、やるしかないのではないか?左衛門」
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何を考えとる・・・まさか、やはり上方につくとは言わんよな?
拙者の心とは裏腹に、左衛門大夫はきっぱりと言い放つ。
「相分かった。ならば我々だけで岐阜城を攻め落としてくれようではないか!」
左衛門大夫の発言に拙者、そして平八郎も胸を撫で下ろす。
左衛門大夫は茂助に声をかける。
「内府殿にもそうお伝えせい」
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「皆の者、戦の支度じゃ!」
「おう!」
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