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ギルド
しおりを挟むニーナとともに冒険者ギルドの扉をくぐるともうすぐ昼時ということもあってか人でごった返していた。
酒場と宿屋、職業斡旋所の機能を合わせている為か老若男女、人間以外にも頭に角を生やしたり尻尾や翼の生えている亜人も多く見受けられた。
「なあ、ニーナあれってもしかしてさっき説明してくれた亜人って種族なのか?」
「そうよ。あんまりジロジロ見たりしないでね。ガラの悪い人も多いから……」
初めて見る亜人とやらをマジマジ見ていると注意されてしまった。
周りには剣や杖を携え、鎧やローブに身を包んだ人間や、樽ごと酒のような物を飲んでいる毛むくじゃらな獣人がウヨウヨいる。
さながらコスプレ会場と見紛う光景だった為、物珍しさから凝視してしまうのも仕方ないだろ。
そんな事を思っていると、1人の女性が俺たちに声をかけてきた。
「あら? もしかして……ニーナ?」
「ソフィー! おはよう! 忙しそうだね」
若葉色の髪を三つ編みにした彼女はソフィーと言うみたいだ。
見た感じでは、年齢は同じくらいに見える。どうやら二人は知り合いらしい
えらく奇抜な髪色だが今まで見かけた人も赤だの青だの、派手な色をしている人が多かったが普通なのだろうか?
「ええ。ホント割に合わない仕事よ。そちらの彼は……あなたの言ってた例の流れ人かしら?」
「どうも。ショウって言います。よろしく」
「こちらこそよろしくね。あたしはここのギルドで受付やってるソフィーよ」
ソフィーはそう言うと手を差し出して握手を求めてきた。
あまり丁寧に挨拶しても気味悪がられるみたいだしフランクに接するように意識しないとな。
「早速ソフィーの仕事増やして悪いんだけど、ショウの身分証作ってもらえないかな?」
「はいはい、了解しましたよ~っと。それじゃあショウ、この魔石に血を垂らしてくれるかな」
ソフィーは受付カウンターから何かを取り出しこちらに渡してきた。
紫色の妖美な輝きを放つ透き通ったそれは宝石にしか見えない。
こんな綺麗な物に血を垂らすのはいささか気後れするが仕方ない。
俺はナイフを借り、できるだけ痛くないように親指の先をチョンっと刺した。
ソフィー曰く、どうやらこの魔石は子機のような物でこいつに血を垂らし魔紋を登録する事で親機の魔石に情報が送られ、各ギルドなどにも情報が共有されるのだとか。
えらくハイテクだな……
「……これでいいか? なんか光りだしたけど……」
「次にこっちの身分証にも垂らしてくれるかしら………………はい。これで終わりよ」
言われた通り血を垂らすと身分証になにやら光る文字のようなものが浮かび上がってきた。
これも魔術とやらの一部なのだろうか……
「なあ二人とも……これって何が書いてあるんだ?」
「えっ! まさかとは思うけど……ショウって読み書き出来ないの?」
当然だ。日本語で書かれているならいざ知らず、こんな記号は元いた世界でも見たことがない。
女神様もどうせなら会話だけじゃなく読み書きも出来るようにしてくれればよかったのに……
「多分な。記号の羅列にしか見えん」
「変ね~……あたしが今まで見てきた流れ人はみんな読み書きも出来てたけど……」
ソフィーが口に指を当ててなにやら思い返しながらそういった。
どうやら俺は普通ではないらしい。まったくありがたくないが。
「まあ、気にしても仕方ないわね。身分証も出来たことだしギルド登録もしておいたらどうかしら?」
「お願いします。ギルドってあまり詳しいこと知らないんだけど、職業斡旋所って認識でいいのかな?」
ニーナの話ではハローワーク的なイメージを持っていたが、周りの連中を見ているとおおよそそんな雰囲気ではない。
なにやら口論している血の気の多い連中や、フードを目深に被ってブツブツ何か言っている集団、美少女を両脇に複数はべらせて盛り上がっている男。労働意欲のある姿には見えんぞ。
「だいたい合ってるわ。冒険者ギルドっていっても今は名ばかりで、要は便利屋みたいなものだし」
ソフィーの説明では冒険者ギルドは大昔から存在しており、その頃は未開の遺跡や前人未到の地を切り開く者の集う場所だったそうだ。
今では近隣で悪さをする魔獣や害獣の討伐、傭兵の募集、賞金首を始末するなどの血なまぐさい物から、採取や採掘などのおつかい、木こりや建築現場などの力仕事、肥えさらいに汚水さらいなどの汚く、なり手の少ない仕事まである。
職業斡旋所というより派遣会社みたいだ。
冒険者ギルドは国を跨いだ組織で階級が存在している。
1等級から7等級まで細分化されていて、活躍や勤続年数、態度によって振り分けられるようだ。
階級により各種税の軽減率が変わり高階級には依頼の優先受諾権が与えられ割りのいい仕事や、賞賛されるような難しいクエストを確保しやすくなっている。
冒険者はそういった特典よりも高階級である事の誇りや名誉、賞賛を求めている人が多いらしい。
説明しながらソフィーは片手間に何やら羊皮紙に記入していく。
名前の記入を求めてきたのでニーナに助けを求め、指示されるまま文字と言う名の記号をつらつらと綴った。
渡されて書いた羽ペンは魔道具らしく書き手の魔力をインクとして使える便利品だ。
魔力から誰が書いたのかも分かる為公的な機関などではよく用いられるという。
「さて! 面倒ごとも終わったし帰ろっか。ショウも起きてすぐだし疲れたんじゃない?
「ああ、ありがとう。でも心配には及ばないよ。絶好調さ」
「もう帰るの? せっかく来たんだしゆっくりしていきなさいよ」
ソフィーが名残惜しそうに引き止めていると俺たちの後ろから声がかかる。
声色から若い男性だと言うことが分かった。
「おやおや~!元2等級冒険者で同胞殺しのニーナじゃ~ねぇかよ!! 一体どの面下げてギルドの門くぐってんだ? あぁん?」
「ギーシュ…………」
ギーシュと呼ばれた見る者に不快感を与えるギラギラした長い金髪に下卑た声、明るい褐色の肌、怒りの色を隠していないせいか顔が歪な形相を成していた。
後ろにはニタニタと品性のかけらも無い笑みを浮かべた男女が並んでいた。おそらく仲間なのだろう。
彼らの来訪によりごった返していた客たちの視線を一身に浴びる事となったニーナ。
冒険者達はなにやらヒソヒソと囁き合っている。
「薄汚ねえ人殺し風情が俺の名を口にするんじゃねぇ!!」
「なんだ、アンタ? 人の恩人にひどい物言いだな!」
原因は分からないがニーナに対するあからさまな敵意に挑発的な物言い、流石に黙っていられなかった。
女の子に対してあんまりな態度と暴言だ。
恩の有無なんて関係ない。純粋にコイツとは相容れない、そう思った。
「ほぉ~、次の獲物はその兄さんかい? おお~怖い怖い! 次はどうやって殺すんだ? んん~!?」
「ギーシュさんその辺でやめてもらえるかしら。ギルドでの揉め事はご法度って忘れたの?」
間に割って入ったソフィーは猛禽類のような目に物怖じすることなくギーシュを睨み付ける。
俺やソフィーのことは眼中にないのかニタニタと下劣な顔を崩さずニーナへと詰め寄る。
すると、ギシューは突然拳を振り上げ――
「何ガン飛ばしてんだよ!この、クソアマァ!!」
「――ッ!?」
加減の欠片すらも感じられ無い拳がニーナの端麗な顔へ向けて放たれる。
直撃すればまず無事ではすまないだろう、しかし……その拳が届くことはなかった。
「理由は知らん……だが、いくらなんでもそりゃやりすぎだろ……アンタ」
届くすんでの所で、なんとかギーシュの拳を掌で受け止めた。
バシっと乾いた高い音がギルドに響き渡る。
その音を聞き、隣で恐る恐る目を開けるニーナ。
「……チッ! 邪魔しやがって……黙って見てりゃあいいモンを……テメェも一緒にぶちのめされたいみてぇだな!?」
俺の手を振り解くとすぐさま腰に挿していた剣に手を掛け、後ろの取り巻き共もギーシュに倣い武器へ手を掛けた。
素手なら多少心得があるが流石に武器持ち複数人は無理だ。
「そこまでよ!! それ以上はただの喧嘩で済まないでしょ。ギーシュ達は査問会に掛けられたいの?」
「なんでこんなとこに騎士団の連中がいんだよ! クソが! お前らには関係ねぇだろーが!!」
客衆を掻き分け出てきたのは黒く艶のある長髪を振り立て、輝く銀色の鎧にマントで身を覆った端麗な女性だった。
鎧姿の部下と思わしき男性達は野次馬で集まりだした客たちを方々に散らしだした。
突如あらわれた麗人はギーシュに対しなにやら別の事に対しても色々と詰問しているように取れた。
「ニーナ! 今のうちにこの場を離れよう!!」
彼女の乱入はまさに日照りに雨、渡りに船だ。
今を逃せばまた奴らに絡まれかねない。俺はどうなっても構わないが何よりニーナの事が心配だった。
明確な悪意をぶつけられ続けたこの場所にこれ以上いるのは辛いだろう。
ニーナの返事を待たず、俺は強引に手を引きギルドを後にした。
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