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第九話 再出発①
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「ワタちゃーん?」
家の玄関を開けると、そこにはレンが立っていた。
今日は大学に行って、恵人くんにこの間のことを謝る。それから悠真と別れたことも告げる。そう決意を固めて、彼と一緒に家を出た。
大学に到着するとハルとショーちゃんもいた。二人とも深くは追及せず、「久しぶり」「やっと来たか」と迎えてくれた。
面と向かっては言えないけれど、僕は本当にいい仲間を持ったと思う。
「ワタちゃん、そこ、恵人がいる」
午前の授業を終えて昼休みに入り、教室を出たところで恵人くんの後ろ姿を見つけた。
三人に背中を押され、僕は彼のもとへ向かう。
「恵人くんっ!」
背後から呼びかけると、彼は驚いてこちらを振り向いた。
「渉く、」
「恵人くん、ごめんなさい!」
僕はその場で深く頭を下げた。
「本当にほんっとーにごめんなさい!」
突如大声で謝罪を始めた僕のことを、すれ違う学生たちが好奇の目で見て去っていく。
恵人くんは「そ、外出ようか」と苦笑いしながら僕を外に連れ出した。
二人並んで敷地内のベンチに座ると、僕は再度頭を下げる。
「今回の騒動についてすべての経緯をお話しします」
「そんな謝罪動画みたいな」
「恵人くんに僕の女装を見てほしかったんです。それで恵人くんのことを家に呼びました」
「うん」
「でも恵人くんより先に悠真が来ました。それで抗えなくてヤってしまいました」
「無理やりされたの?」
「違う、僕の意志で……」
なんだかものすごく情けない。どうして僕はこうなんだろう。恵人くん、絶対呆れているな。
「……見たかったな」
「……え?」
「……渉くんの女装姿」
思わぬ言葉に、バッと彼の顔を見上げる。
「見た……かった? 本当に?」
「うん。でもしょうがないよな。俺より彼氏の古川さんが優先されるのは当然のことだし」
「あ……えっと」
「むしろ俺なんか呼んじゃダメだよ。俺はチャンネル内限定の『彼氏役』だし。プライベートでは本物の彼氏を優先しなきゃ」
なんだか恵人くんの様子がいつもと違うような。
いつも優しい恵人くんが、今日はすこし苛立っているみたい。いや、怒っているのは僕が悪いのだから当たり前のことなんだけど。
「あ……その……悠真とは別れたよ」
「別れた?」
恵人くんは驚いて目を見開いた。
「う、うん。『もう俺に一切気持ちないだろ』って。怒らせちゃった」
「…………」
「今になって思えば僕、どういうことが『好き』なのかわかってなかったなって。悠真には、悪いことしちゃった」
「……わかるものなのかな。どういうことが『好き』なのかって」
ぽつり、恵人くんが呟く。
「……どうなんだろう。もっとたくさん恋愛すればわかるのかも」
「もう次の予定があるの?」
「ううん、ないけど」
「好きな人は?」
「えっ、わ、わかんない」
「じゃあ、保留にしといて」
え? と彼の顔を見上げると、真剣な双眸がこちらを見つめていた。
「……次の彼氏、まだ作らないで」
「あっ、えっ」
「……ごめん、変なこと言った」
そういって彼は下を向く。
「あっ、つ、作らないよ、そんなすぐには。そもそも僕恋愛向いてないのかもしれないし。やっぱり恋人じゃなくてセフレが気楽でいいな~とか……ハハ……」
「セフレも作らないで……ほしい……」
「あっ、は、はい! 了解!」
わけもわからずビシッと敬礼をしてしまった。
心臓がドクドクとうるさい。
……恵人くん、どうしちゃったんだろう。
恵人くんは僕に彼氏もセフレも作らないでほしいらしい。
それってつまり? ……つまり?
「というわけで、僕は今後誰かに誘われてもセックスしないことにしたから。把握よろしく、ショーちゃん」
「なんで俺?」
夕方、授業終わりに行き会ったショーちゃんに宣言する。
「俺そもそもワタちゃん誘ったことないでしょ。つか女の子にしか興味ないし」
「酔って押し倒されたことならある」
「ごめんごめん、悪かったって。……で、どういう風の吹き回し?」
「恵人くんに言われたの。僕に彼氏やセフレを作らないでほしいらしい」
「うわっ、すげぇ独占欲」
「……だよね? これ独占欲だよね? ……どうしよ、僕すごく嬉しい」
カーッと顔が熱くなって、思わず両手で覆った。
「だからショーちゃん、僕に触れちゃダメだからね! 僕は今恵人くんに独占欲向けられてるんだから!」
「ハイハイ。つか、好きなんじゃん?」
「……え?」
ぽかんとした顔でショーちゃんを見上げる。
「……好き?」
「うん」
「誰が誰を?」
「恵人がワタちゃんを」
「…………」
「マジかよ。結構わかりやすかったと思うんだけど」
好き、とは。
「ショーちゃん、『好き』って何だと思う?」
「知らん」
「知らないんじゃん」
僕は今、その気持ちがよくわからなくなってしまった。
僕は悠真のことが好きだと思っていた。
悠真も僕のことを好きでいてくれているのだと思っていた。
お互い、どこまでが本当だったのだろう。
そもそも本当の好きってなんなのだろう。
「つか、そんな恋愛初心者でよくカップル配信者演じられてたな」
「…………」
「もう一回、再出発してみれば? これからは完全なニセモノカップルってわけでもないんだろ。……まぁでも」
彼はフッと口角を上げた。
「別に今までもニセモノには見えてなかったよ。視聴者もちゃんと騙せてるし」
「言い方……」
「俺の目にも視聴者の目にもちゃんとお似合いに映ってたってこと」
ショーちゃんはこのあと女の子と遊ぶ予定が入っているらしく、彼とは大学の正門で別れた。
僕は思わず顔を覆う。
……お似合い。
どうしよう、そんなことを言われたら恵人くんと顔を合わせるのが恥ずかしい。次の動画の企画、何をすればいいんだろう。どうやって台本を作ろう。
今まで僕は、どうやって恵人くんとカップルを演じていたんだっけ。
家の玄関を開けると、そこにはレンが立っていた。
今日は大学に行って、恵人くんにこの間のことを謝る。それから悠真と別れたことも告げる。そう決意を固めて、彼と一緒に家を出た。
大学に到着するとハルとショーちゃんもいた。二人とも深くは追及せず、「久しぶり」「やっと来たか」と迎えてくれた。
面と向かっては言えないけれど、僕は本当にいい仲間を持ったと思う。
「ワタちゃん、そこ、恵人がいる」
午前の授業を終えて昼休みに入り、教室を出たところで恵人くんの後ろ姿を見つけた。
三人に背中を押され、僕は彼のもとへ向かう。
「恵人くんっ!」
背後から呼びかけると、彼は驚いてこちらを振り向いた。
「渉く、」
「恵人くん、ごめんなさい!」
僕はその場で深く頭を下げた。
「本当にほんっとーにごめんなさい!」
突如大声で謝罪を始めた僕のことを、すれ違う学生たちが好奇の目で見て去っていく。
恵人くんは「そ、外出ようか」と苦笑いしながら僕を外に連れ出した。
二人並んで敷地内のベンチに座ると、僕は再度頭を下げる。
「今回の騒動についてすべての経緯をお話しします」
「そんな謝罪動画みたいな」
「恵人くんに僕の女装を見てほしかったんです。それで恵人くんのことを家に呼びました」
「うん」
「でも恵人くんより先に悠真が来ました。それで抗えなくてヤってしまいました」
「無理やりされたの?」
「違う、僕の意志で……」
なんだかものすごく情けない。どうして僕はこうなんだろう。恵人くん、絶対呆れているな。
「……見たかったな」
「……え?」
「……渉くんの女装姿」
思わぬ言葉に、バッと彼の顔を見上げる。
「見た……かった? 本当に?」
「うん。でもしょうがないよな。俺より彼氏の古川さんが優先されるのは当然のことだし」
「あ……えっと」
「むしろ俺なんか呼んじゃダメだよ。俺はチャンネル内限定の『彼氏役』だし。プライベートでは本物の彼氏を優先しなきゃ」
なんだか恵人くんの様子がいつもと違うような。
いつも優しい恵人くんが、今日はすこし苛立っているみたい。いや、怒っているのは僕が悪いのだから当たり前のことなんだけど。
「あ……その……悠真とは別れたよ」
「別れた?」
恵人くんは驚いて目を見開いた。
「う、うん。『もう俺に一切気持ちないだろ』って。怒らせちゃった」
「…………」
「今になって思えば僕、どういうことが『好き』なのかわかってなかったなって。悠真には、悪いことしちゃった」
「……わかるものなのかな。どういうことが『好き』なのかって」
ぽつり、恵人くんが呟く。
「……どうなんだろう。もっとたくさん恋愛すればわかるのかも」
「もう次の予定があるの?」
「ううん、ないけど」
「好きな人は?」
「えっ、わ、わかんない」
「じゃあ、保留にしといて」
え? と彼の顔を見上げると、真剣な双眸がこちらを見つめていた。
「……次の彼氏、まだ作らないで」
「あっ、えっ」
「……ごめん、変なこと言った」
そういって彼は下を向く。
「あっ、つ、作らないよ、そんなすぐには。そもそも僕恋愛向いてないのかもしれないし。やっぱり恋人じゃなくてセフレが気楽でいいな~とか……ハハ……」
「セフレも作らないで……ほしい……」
「あっ、は、はい! 了解!」
わけもわからずビシッと敬礼をしてしまった。
心臓がドクドクとうるさい。
……恵人くん、どうしちゃったんだろう。
恵人くんは僕に彼氏もセフレも作らないでほしいらしい。
それってつまり? ……つまり?
「というわけで、僕は今後誰かに誘われてもセックスしないことにしたから。把握よろしく、ショーちゃん」
「なんで俺?」
夕方、授業終わりに行き会ったショーちゃんに宣言する。
「俺そもそもワタちゃん誘ったことないでしょ。つか女の子にしか興味ないし」
「酔って押し倒されたことならある」
「ごめんごめん、悪かったって。……で、どういう風の吹き回し?」
「恵人くんに言われたの。僕に彼氏やセフレを作らないでほしいらしい」
「うわっ、すげぇ独占欲」
「……だよね? これ独占欲だよね? ……どうしよ、僕すごく嬉しい」
カーッと顔が熱くなって、思わず両手で覆った。
「だからショーちゃん、僕に触れちゃダメだからね! 僕は今恵人くんに独占欲向けられてるんだから!」
「ハイハイ。つか、好きなんじゃん?」
「……え?」
ぽかんとした顔でショーちゃんを見上げる。
「……好き?」
「うん」
「誰が誰を?」
「恵人がワタちゃんを」
「…………」
「マジかよ。結構わかりやすかったと思うんだけど」
好き、とは。
「ショーちゃん、『好き』って何だと思う?」
「知らん」
「知らないんじゃん」
僕は今、その気持ちがよくわからなくなってしまった。
僕は悠真のことが好きだと思っていた。
悠真も僕のことを好きでいてくれているのだと思っていた。
お互い、どこまでが本当だったのだろう。
そもそも本当の好きってなんなのだろう。
「つか、そんな恋愛初心者でよくカップル配信者演じられてたな」
「…………」
「もう一回、再出発してみれば? これからは完全なニセモノカップルってわけでもないんだろ。……まぁでも」
彼はフッと口角を上げた。
「別に今までもニセモノには見えてなかったよ。視聴者もちゃんと騙せてるし」
「言い方……」
「俺の目にも視聴者の目にもちゃんとお似合いに映ってたってこと」
ショーちゃんはこのあと女の子と遊ぶ予定が入っているらしく、彼とは大学の正門で別れた。
僕は思わず顔を覆う。
……お似合い。
どうしよう、そんなことを言われたら恵人くんと顔を合わせるのが恥ずかしい。次の動画の企画、何をすればいいんだろう。どうやって台本を作ろう。
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